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第13話 顔で解決?
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北方から届いた報告書を読んだ瞬間、嫌な予感が確信に変わった。
村が、また消えた。
前回と違うのは、時間だ。ほぼ同時刻に、三つ。距離を考えれば、偶然ではない。統率された行動。計画的な襲撃。
だが――魔王軍の動きとは、噛み合わない。
帝国は北で魔王軍と全面衝突している。今この時期に、魔王軍が戦力を割いて公国の奥を荒らす合理性がない。
つまり。
「……はみ出し者、か」
誰に聞かせるでもなく、呟いた。
戦争は、秩序を生むと同時に、必ず歪みを生む。指揮系統から零れ落ちた部隊。命令を失い、しかし力だけは残った存在。
それは、最も厄介だ。
公王と辺境伯、聖騎士団長を交えた緊急会議で、僕は結論を述べた。
「敵は魔王軍の正規部隊ではありません。独立魔族勢力。目的は略奪ではなく、人の確保です」
沈黙が落ちる。
人を、戦力や資源として扱う思想。魔族には珍しくないが、人間側が最も嫌悪する形だ。
「放置すれば、さらに北の村が消える。迎撃が必要です」
誰も異論を唱えなかった。
作戦は単純だ。
敵の行動範囲を絞り、補給と撤退路を断ち、正面から殲滅する。
だが、一つだけ条件を付けた。
「僕は前線に出ません」
視線が集まる。
「今回は、戦い方そのものを見せる必要がある。混成部隊の完成度を示すためにも、指揮は後方から取ります」
本音を言えば、前に出る理由がない。
剣を振れない僕が前に立つことは、象徴以上の意味を持たない。今必要なのは、勝つことだ。
出撃。
魔法師団、獣人重装歩兵団、聖騎士団。
それぞれが配置につく。
戦闘が始まると、敵の特徴がはっきり見えてきた。
魔族一体一体の戦闘力は高い。だが、連携が甘い。命令が末端まで届いていない。各自が判断で動いている。
つまり、崩せる。
「魔法師団、射程外から圧をかけて。致命傷は狙わなくていい」
指示が飛ぶ。
魔法の光が、敵陣の前線を削る。倒れなくとも、足を止めさせれば十分だ。
「獣人部隊、隙を突いて突破。分断を優先」
重装歩兵が前に出る。圧倒的な質量で敵を押し潰す。
聖騎士団は、その隙間を縫うように動いた。無駄がない。敵の弱点を見抜き、確実に数を減らしていく。
僕は、高台から全体を見ていた。
そして、声をかける。
「無理をしないで。焦らなくていい」
ただ、それだけだ。
命令でも、檄でもない。
だが、その声が届くたび、部隊の動きが揃っていくのが分かる。
結果は、明白だった。
殲滅。
被害は最小限。想定よりも早く、戦闘は終盤に入った。
その時だった。
空気が、変わった。
背筋が、ぞくりとした。
魔力の密度が、一段階跳ね上がる。
「……来たな」
敵の本陣側から、一人の魔族が歩いてくる。
単身。
武器を構えているわけでもない。だが、存在感が異常だった。
周囲の魔族が、彼女を見て退く。
長。
そう直感した。
彼女は、こちらを見た。
正確には――僕を。
距離があるはずなのに、視線が合った気がした。
そして、笑った。
「あなたが、乙女騎士団の団長?」
声が、戦場に響く。
女だった。
艶やかな黒髪。角は短く、鋭い。鎧は簡素だが、纏う魔力がそれを補って余りある。
彼女は、迷いなくこちらへ向かってくる。
護衛はいない。
殺しに来たのなら、無謀だ。
「私の目的は一つ」
彼女は、僕の前で足を止めた。
「あなたを殺すこと」
周囲が、一斉に身構える。
僕は、動かなかった。
「……理由を聞いても?」
「邪魔だから」
即答だった。
「人を動かす者は、排除する。魔王軍であろうと、独立勢力であろうと、それは同じ」
合理的だ。
だからこそ、危険だ。
彼女は、僕を見下ろすように見つめ――次の瞬間、表情が変わった。
目が、見開かれる。
息を、呑む。
「……あ」
間の抜けた声。
沈黙。
数秒。
彼女は、僕から視線を外さず、ゆっくりと笑った。
「……なるほど」
嫌な予感が、背中を走る。
「これは、困った」
困っているようには、見えない。
「ねえ、あなた」
一歩、近づく。
騎士たちが動こうとするのを、手で制した。
「……なんでしょう」
「顔が、いい」
……は?
言葉が、脳に届くまで時間がかかった。
「それだけじゃない」
彼女は、続ける。
「戦場で、前に出ない。命令を叫ばない。それでいて、人を動かしている」
僕の胸が、嫌な音を立てた。
「嫌いじゃない」
そして、決定打。
「私、あなたに惚れた」
戦場が、凍りついた。
何を言われたのか、理解するのに数秒かかった。
「……は?」
情けない声が出た。
彼女は、真剣だった。
「だから、殺すのはやめる」
え?
「代わりに、従う」
もっと分からない。
「あなたの軍門に降る。私と、私の残党すべて」
騎士たちが、一斉にざわつく。
危険すぎる。
政治的に、軍事的に、最悪の爆弾だ。
「……正気ですか」
「正気よ」
即答。
「あなたに殺されるなら本望。でも、隣に立てるなら、その方がいい」
理屈が、通っていない。
だが、彼女の目は、本気だった。
僕は、深く息を吸った。
「即答はできません」
それだけは、はっきり言った。
「あなたを受け入れるかどうかは、僕一人で決められない」
「当然ね」
彼女は、あっさり頷いた。
「王都で判断すればいい」
逃げる気は、ないらしい。
「……名前を」
聞くと、彼女は、少し誇らしげに名乗った。
「私の名は――」
その名を聞いた瞬間、背負っているものの重さを悟った。
これは、恋愛沙汰なんかじゃない。
国を揺らす、案件だ。
僕は、胃の奥が重くなるのを感じながら、空を仰いだ。
どうして、こうなる。
村が、また消えた。
前回と違うのは、時間だ。ほぼ同時刻に、三つ。距離を考えれば、偶然ではない。統率された行動。計画的な襲撃。
だが――魔王軍の動きとは、噛み合わない。
帝国は北で魔王軍と全面衝突している。今この時期に、魔王軍が戦力を割いて公国の奥を荒らす合理性がない。
つまり。
「……はみ出し者、か」
誰に聞かせるでもなく、呟いた。
戦争は、秩序を生むと同時に、必ず歪みを生む。指揮系統から零れ落ちた部隊。命令を失い、しかし力だけは残った存在。
それは、最も厄介だ。
公王と辺境伯、聖騎士団長を交えた緊急会議で、僕は結論を述べた。
「敵は魔王軍の正規部隊ではありません。独立魔族勢力。目的は略奪ではなく、人の確保です」
沈黙が落ちる。
人を、戦力や資源として扱う思想。魔族には珍しくないが、人間側が最も嫌悪する形だ。
「放置すれば、さらに北の村が消える。迎撃が必要です」
誰も異論を唱えなかった。
作戦は単純だ。
敵の行動範囲を絞り、補給と撤退路を断ち、正面から殲滅する。
だが、一つだけ条件を付けた。
「僕は前線に出ません」
視線が集まる。
「今回は、戦い方そのものを見せる必要がある。混成部隊の完成度を示すためにも、指揮は後方から取ります」
本音を言えば、前に出る理由がない。
剣を振れない僕が前に立つことは、象徴以上の意味を持たない。今必要なのは、勝つことだ。
出撃。
魔法師団、獣人重装歩兵団、聖騎士団。
それぞれが配置につく。
戦闘が始まると、敵の特徴がはっきり見えてきた。
魔族一体一体の戦闘力は高い。だが、連携が甘い。命令が末端まで届いていない。各自が判断で動いている。
つまり、崩せる。
「魔法師団、射程外から圧をかけて。致命傷は狙わなくていい」
指示が飛ぶ。
魔法の光が、敵陣の前線を削る。倒れなくとも、足を止めさせれば十分だ。
「獣人部隊、隙を突いて突破。分断を優先」
重装歩兵が前に出る。圧倒的な質量で敵を押し潰す。
聖騎士団は、その隙間を縫うように動いた。無駄がない。敵の弱点を見抜き、確実に数を減らしていく。
僕は、高台から全体を見ていた。
そして、声をかける。
「無理をしないで。焦らなくていい」
ただ、それだけだ。
命令でも、檄でもない。
だが、その声が届くたび、部隊の動きが揃っていくのが分かる。
結果は、明白だった。
殲滅。
被害は最小限。想定よりも早く、戦闘は終盤に入った。
その時だった。
空気が、変わった。
背筋が、ぞくりとした。
魔力の密度が、一段階跳ね上がる。
「……来たな」
敵の本陣側から、一人の魔族が歩いてくる。
単身。
武器を構えているわけでもない。だが、存在感が異常だった。
周囲の魔族が、彼女を見て退く。
長。
そう直感した。
彼女は、こちらを見た。
正確には――僕を。
距離があるはずなのに、視線が合った気がした。
そして、笑った。
「あなたが、乙女騎士団の団長?」
声が、戦場に響く。
女だった。
艶やかな黒髪。角は短く、鋭い。鎧は簡素だが、纏う魔力がそれを補って余りある。
彼女は、迷いなくこちらへ向かってくる。
護衛はいない。
殺しに来たのなら、無謀だ。
「私の目的は一つ」
彼女は、僕の前で足を止めた。
「あなたを殺すこと」
周囲が、一斉に身構える。
僕は、動かなかった。
「……理由を聞いても?」
「邪魔だから」
即答だった。
「人を動かす者は、排除する。魔王軍であろうと、独立勢力であろうと、それは同じ」
合理的だ。
だからこそ、危険だ。
彼女は、僕を見下ろすように見つめ――次の瞬間、表情が変わった。
目が、見開かれる。
息を、呑む。
「……あ」
間の抜けた声。
沈黙。
数秒。
彼女は、僕から視線を外さず、ゆっくりと笑った。
「……なるほど」
嫌な予感が、背中を走る。
「これは、困った」
困っているようには、見えない。
「ねえ、あなた」
一歩、近づく。
騎士たちが動こうとするのを、手で制した。
「……なんでしょう」
「顔が、いい」
……は?
言葉が、脳に届くまで時間がかかった。
「それだけじゃない」
彼女は、続ける。
「戦場で、前に出ない。命令を叫ばない。それでいて、人を動かしている」
僕の胸が、嫌な音を立てた。
「嫌いじゃない」
そして、決定打。
「私、あなたに惚れた」
戦場が、凍りついた。
何を言われたのか、理解するのに数秒かかった。
「……は?」
情けない声が出た。
彼女は、真剣だった。
「だから、殺すのはやめる」
え?
「代わりに、従う」
もっと分からない。
「あなたの軍門に降る。私と、私の残党すべて」
騎士たちが、一斉にざわつく。
危険すぎる。
政治的に、軍事的に、最悪の爆弾だ。
「……正気ですか」
「正気よ」
即答。
「あなたに殺されるなら本望。でも、隣に立てるなら、その方がいい」
理屈が、通っていない。
だが、彼女の目は、本気だった。
僕は、深く息を吸った。
「即答はできません」
それだけは、はっきり言った。
「あなたを受け入れるかどうかは、僕一人で決められない」
「当然ね」
彼女は、あっさり頷いた。
「王都で判断すればいい」
逃げる気は、ないらしい。
「……名前を」
聞くと、彼女は、少し誇らしげに名乗った。
「私の名は――」
その名を聞いた瞬間、背負っているものの重さを悟った。
これは、恋愛沙汰なんかじゃない。
国を揺らす、案件だ。
僕は、胃の奥が重くなるのを感じながら、空を仰いだ。
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