凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲

文字の大きさ
26 / 108
騎士学校編

第26話 準備

しおりを挟む
 騎士学校へ入学して早くも2週間が経った。学校や寮での生活はなかなか厳しいものがあったが、慣れてくれば賑やかで楽しい毎日となる。

「バルトくううん」
 
 どちらかというとダリオンは賑やかというより騒がしいというのが適切だろう。しかも、男子寮で同室になってしまったことにより、益々うるさいのだが。

「今日はどうするんだい?」
「せっかくの休みだから外出しようかと思っているよ」
「じゃあボクも」
「ひとりで行く」

 赤ん坊のように駄々をこねるダリオン。なぜここまで懐かれてしまったのか謎だけど、友達は多い方が良いよな。うん、そう思っておこう。

「騒ぐなら外に行ってくれないか」

 同じく同室になったこのクール系男子はカイエルという。

「なんだよカイちゃん。君もバルトくんとイチャイチャしたいのかあ?」

 イチャイチャって……

「その呼び方はやめろ、キモイ」
「いいじゃんかカイちゃあん」

 そろそろカイエルが怒って喧嘩が始まりそうなので僕は退散することにした。
 学校の周りには商店街が建ち並び、飲食店や雑貨屋など生活に必要不可欠なものが揃っている。領地としては王国の帰属になるのだが、正式な町名は無く便宜上【学園都市】などと呼ばれている。

 騎士学校で学んでいる間、多少の給金は出るので、今日のような休日は町が学生で溢れかえるのだ。皆厳しい訓練から少しでも抜け出して息抜きをしたいのだろう。

「ば、バルト……」
「イシュクルテさん! 今日もどこかへお出かけですか?」

 同クラスでもあるイシュクルテとは外出をする度に出会う。まあ、狭いから当たり前か。

「今日は喫茶店《カフェ》に行こうと思っています。それで、よければバルトも……」
「見つけたぞ、ばああああるううとおおお!」

 大声を出しながら通りを駆けてきたのはダリオンだ。ここまでは日常茶飯事なのだが、今回は珍しいお供付きだった。 
 僕はダリオンの突進を鮮やかに避けると、彼の背後から歩いてきた女性に目を向けた。

「そちらの方は?」
「初めまして、次席さん。私はAクラスのアストリッドと申します」
「あ、もしかして女性主席の?」
「ええ、まあ」

 なんだか不服そうだけど、きっと真面目な人なんだろうな。
 たぶん、知らんけど。

「それで、なんでダリオンと居るんです?」
「それは――」
とはちょっと前に仕事でお世話になってね。これでも彼女は傭兵ギルドでパーティのリーダーをやっているんだ」

 傭兵ギルドか、あまり良い噂は聞かないけど。それはともかく、彼女は仕事柄、顔を広く売っておきたいらしく僕に挨拶をしてくれたようだ。

「“うち”は情報収集から暗殺まで対応していますので、何かご依頼がありましたらここまで」
「は、はあ……」
「それではこれにて――」

 この世界に来て初めて名刺を貰った。そこにはアストリッドのフルネームと〈血の満月花〉というパーティ名と思われるものが書いてあった。何だか物騒な響きだが、僕が彼女らに依頼することは一生無いだろう。

「さて、ボクも帰ろうかな」

 ダリオンにしては珍しいことだ。別に引き留めたくはないが、聞いて欲しそうにしていたので一応理由を聞くと。

「え、まさか忘れてないよね?」
「何を?」

 彼は聞こえよがしのため息を吐くと「2日後に実戦参加があるから準備しとけって言われてたよね」と呆れるように笑いながら寮へと戻って行く。

 忘れていた――いや、忘れていた訳ではないけど心のどこかで「大丈夫だろう」という気持ちがあった。スキルに頼っていればと。でも、他の学生と行動を共にするということは、生死も共にするということになる。

「……準備しなきゃな」 

「あ、あのバルト……」
「あっ! ごめん!」

 すっかりイシュクルテの存在を忘れていた。

「良いわ、もう慣れたから……」

 あれ、怒ってる?
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

処理中です...