39 / 108
第2章 テラドラックの怒り
第39話 凱旋し
しおりを挟む
騎士学校の卒業式典が終わり、配属先が決まった翌日に僕は1人馬に揺られていた。配属となった海洋騎士団は僕の地元であるオーム領にある。偶然か必然か――ともかく1年ぶりに帰る町外の風景は、復興は進んでいるものの、あの最悪の日以降ほぼそのままの姿だった。
「お、騎士様が帰ってきたぞ!」
「よう、久しぶりだな」
「兄さん、それにザンジリさんも」
一年前、町を出た時には大きく見えた門も、この制服を着ていると何だか小さく見える。
僕は馬を降り、皆と再会を喜んだ。
「大きくなったな、バルト」
「本当に立派になったよ」
彼らは絵画でも眺めるようにこちらを見回しながら、口々に成長を褒めてくれた。皆嬉しそうにはしてくれているが、警備隊員にはどこか活気が無い。目の下にはクマができ、笑顔も不自然だ。
「父さんと母さんが待ってるぞ。家に帰ろう」
「う、うん……そうするよ」
愛馬を引き、団欒の実家へと向かう道すがら、兄さんとこれまでのオーム領の様子を教えてもらった。
あの最悪の日――“オームの大災害”が起こった後、オーム領の治安の要である警備隊の隊長と副隊長が前線で戦うも、そのまま行方不明となった。死体も遺品すらも発見されることはなく、死亡判定も警備隊員からの猛反発のおかげで出されることはなく、そのまま1年が経過しようとしていた。日々の復興作業の傍ら、2人の捜索が続けられていたが、結局発見されることはない。
「隊員の中にはもう諦めている者もいる。それが懸命なのだろうが、認めたくない者もいる以上は捜索は続けられるみたいだ」
「そんな、通常の勤務もあるのに……」
僕は口を噤んだ。
助けたい、見つけたいと思う気持ちは僕だって同じだ。でも、1年も見つからなければそれはもう――。
「でも、悪いことだけじゃないぜ」
「そうなの?」
「ああ、お前が帰ってきてくれた」
兄さんの笑顔が夕焼けに照らされる。見えてきた町の東部、僕の実家はほぼ完全な形で元に戻っていた。
「「バルト、おかえり!!」」
久しぶりに感じる両親の温もりは僕の心に温かさを取り戻してくれた。母は半泣き、父に至っては鼻水まで流しているがこの愛情がいい。
「ただいま、父さん、母さん」
「よく頑張ったな」
「今日はパーティよ」
食卓に並べられた魚料理の数々。相も変わらず豪勢で美しい景色だ。
1年ぶりに再会したクラスト家は積もる話も話きれぬまま夜を迎えた。
明日は入団式か――と何も残されていない自室の天井を見上げる。僕が騎士学校で訓練を受けている間に落ち込んだオームの町はここまでの活気を取り戻し、更には「前よりも良く」と皆それぞれの方法で盛り上げようとしている。
「僕も頑張らなくちゃ」
明日への決意と希望を抱きながらゆっくりと目を瞑った。
「いってらっしゃい」
「も、もう行くのか……?」
なぜか父の方が涙脆くなっている。歳のせいだろうか。
「またすぐに帰ってくるよ」
僕は愛馬を引きながら家族の姿が見えなくなるまで手を降り続けた。
「お、騎士様が帰ってきたぞ!」
「よう、久しぶりだな」
「兄さん、それにザンジリさんも」
一年前、町を出た時には大きく見えた門も、この制服を着ていると何だか小さく見える。
僕は馬を降り、皆と再会を喜んだ。
「大きくなったな、バルト」
「本当に立派になったよ」
彼らは絵画でも眺めるようにこちらを見回しながら、口々に成長を褒めてくれた。皆嬉しそうにはしてくれているが、警備隊員にはどこか活気が無い。目の下にはクマができ、笑顔も不自然だ。
「父さんと母さんが待ってるぞ。家に帰ろう」
「う、うん……そうするよ」
愛馬を引き、団欒の実家へと向かう道すがら、兄さんとこれまでのオーム領の様子を教えてもらった。
あの最悪の日――“オームの大災害”が起こった後、オーム領の治安の要である警備隊の隊長と副隊長が前線で戦うも、そのまま行方不明となった。死体も遺品すらも発見されることはなく、死亡判定も警備隊員からの猛反発のおかげで出されることはなく、そのまま1年が経過しようとしていた。日々の復興作業の傍ら、2人の捜索が続けられていたが、結局発見されることはない。
「隊員の中にはもう諦めている者もいる。それが懸命なのだろうが、認めたくない者もいる以上は捜索は続けられるみたいだ」
「そんな、通常の勤務もあるのに……」
僕は口を噤んだ。
助けたい、見つけたいと思う気持ちは僕だって同じだ。でも、1年も見つからなければそれはもう――。
「でも、悪いことだけじゃないぜ」
「そうなの?」
「ああ、お前が帰ってきてくれた」
兄さんの笑顔が夕焼けに照らされる。見えてきた町の東部、僕の実家はほぼ完全な形で元に戻っていた。
「「バルト、おかえり!!」」
久しぶりに感じる両親の温もりは僕の心に温かさを取り戻してくれた。母は半泣き、父に至っては鼻水まで流しているがこの愛情がいい。
「ただいま、父さん、母さん」
「よく頑張ったな」
「今日はパーティよ」
食卓に並べられた魚料理の数々。相も変わらず豪勢で美しい景色だ。
1年ぶりに再会したクラスト家は積もる話も話きれぬまま夜を迎えた。
明日は入団式か――と何も残されていない自室の天井を見上げる。僕が騎士学校で訓練を受けている間に落ち込んだオームの町はここまでの活気を取り戻し、更には「前よりも良く」と皆それぞれの方法で盛り上げようとしている。
「僕も頑張らなくちゃ」
明日への決意と希望を抱きながらゆっくりと目を瞑った。
「いってらっしゃい」
「も、もう行くのか……?」
なぜか父の方が涙脆くなっている。歳のせいだろうか。
「またすぐに帰ってくるよ」
僕は愛馬を引きながら家族の姿が見えなくなるまで手を降り続けた。
58
あなたにおすすめの小説
コンバット
サクラ近衛将監
ファンタジー
藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。
ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。
忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。
担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。
その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。
その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。
かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。
この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。
しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。
この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。
一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。
当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。
そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。
その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる