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14.小さなご褒美

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 アルバスの手を掴もうと手を伸ばした。と、そこでガランガランと鐘が鳴る。

「おはよう!」

 溌剌としたカルロスの声。
 さっとアルバスが背筋を伸ばした。
 若干肩をすくめたアルバスに、疑問符が浮かぶ。

「カルロス先輩……なんでそんな元気なんですか……先輩も昨日一緒に走ったのに」
「はっはっは! お前らより鍛えてるんだよ単純に。よかったな! 伸び代がたくさんあるとやる気が湧くだろ!」

 ガラントが珍獣を見るような目でカルロスを見る。雑談を挟みながらもしっかりと準備体操していると、いつのまにか後ろの方にベンも加わっていた。

「おはよう」
「ああ、おはよう。昨日は見事だったな」
「……ありがとう」

 貴族であるアルバスの前で私を褒めるなんて。と、私は思わず目を瞬かせた。
 この国では貴族の失態を表立って言うことは結構難しい。それなのに、ベンはシレッとした顔をしている。
 この人って、案外すごいひとなのかもしれない。

「さて! 始めようか!」
「はい!」

 カルロスの一声で、間稽古が始まった。


「ねえ、アリア。今魔法身体強化使ってる……?」
「ふうっ……それだと、鍛錬にならないだろう?」
「はは、まじかあ」

 「素でそんだけ動けるの……」そう言いながらも、アルバスだって殆ど息を切らさず走りきっている。

 回帰前から予想していた通りだが、第二師団の訓練は、というかカルロスの訓練は相当キツかった。
 第三師団での、貴族を含めた訓練とは雲泥の差だ。

 あちらも、平民達の訓練は体力強化の面では力を入れていたが。きちんと評価するなら、第二師団のように新兵卒にこんな指導員メンターは付かない。
 したがって、自分たちでわかる分野をがむしゃらに取り組んでいくしか無かったのだ。

 貴族が入れば応用的な部分は多少学べたが、どちらかと言うと座学の方に力が入っており、外交のマナーだとか優雅な振舞いだとかが上手くなったものの、強くなる方法だとかは貴族の家の秘匿事項なのか平民には教えてもらえなかった。

「はあ、はあ……ふふ」
「アリア! どうした! まだ足りないのか?」
「はい! カルロス先輩、もう一本お願いします!」
「よしきた! 楽しいな! アリア!」
「はい!」

 がちりと両手で組み合う。カルロス先輩の瞳孔が僅かに開き、その奥で魔力の残渣が光った。
 私も負けじと力を漲らせて、大きな体を受け止める。
 踏ん張った両足が土を抉って、轍のように跡をつけた。

 隊全体で強くなって、敵を払い、弱きものを護る。そんな力の付け方を学べる第二師団の間稽古はとても有意義なもので、とても楽しかった。

「え、なに? なんで笑ってんの」
「わからん……」

 困惑顔のアルバス達が、私との組み手でテンション上がったカルロス先輩に投げられてから、朝の間稽古は終了した。


「アリア」
「! おはようございます、ダグラス中尉」

 首にかけた手拭いをすぐさま抜いて、気をつけの姿勢で挨拶を返した。
 まるで回帰前のように、気安い声。
 つい嬉しくなって、隠しきれない笑みで中尉の顔を見つめる。

「朝から元気がいいな」
「はい! 体を動かしていましたら、少々昂りまして」
「よろしい。柔軟を忘れるなよ」

 私につられるように、ダグラス中尉も微笑む。
 朝からなんて運がいいのだろう。
 地面に埋まるように伏しているアルバスとガラントを回収するカルロスの方へ歩む背中を見ながら、ぎゅっと拳を握りしめた。
 声をかけられただけで色めき立つなんて、少女の様だと少し気恥ずかしく思いながら。

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