魔女の棲む森

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運命の欠片

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そんな彼女の生活が唐突に変わる事態がやってきた。

その日彼女はまだ夜も明けぬうちからとある花を採るために森の奥深くへとやって来ていた。その花は夜明けとともに花を咲かせて夜が明けきると萎んでしまう不思議な花で、乾燥させて粉末状にし、一定の量を別の薬に混ぜることでその薬の効果を倍にすることのできる特別なものだった。彼女の作る薬の評判がいいのはその花のおかげである。
そんな彼女にとって無くてはならない商売道具を籠いっぱいに摘み終えそろそろ帰ろうかという頃、天高くに太陽が登ったそらがグワンと揺れた。

驚いた鳥たちは羽ばたいて森の外へと飛んでいき、シカやクマといった地をかける動物達は走り回る。そして植物達がザワザワも喚いた。

これは、この森の結界の中に人が入った時に起こる現象だ。本来なら居るはずのない異質なものに森がざわめき、動物達はそれを感じて落ち着きが無くなる。

「……お客様が来たようね」

想定外の事態に彼女は一先ず急いで自分の生活をしている小屋へと戻った。

…そこには更なる想定外の事態が待ち受けていた。

大人達は、この森に絶対入ってはいけないと子供たちにそれはしつこく教える。もちろん一度中に入れば二度と外に出ることは出来ないよ、恐~い魔女に食べらてしまうよ、という脅し付きで。だから基本的に大人も子供もこの森へ入ってくることは無い。
しかしどれほど前のことだろうか。割と最近のことのようだった気がするし、もしかすると100年か200年ほど前のことかもしれない。過去に一度だけ、子供が迷い込んだことがあった。だから今回もその類の何かだろう、少なくともこの国の人間では無い旅人か何かだろうと踏んでいたのだが、今現在進行形。彼女の家である小屋の扉の前に、この場に似つかわしくないような立派な服を身にまとった男達が居た。自身の気配を完全に断ち、触れるか触れないかの距離でまじまじと男達を観察した。それぞれこの国の軍服を纏っており、中でも扉の目の前に立つ男が肩に掛けているマントの紋章。それは当代の王のみが使うことの許される紋章であった。

つまり、この森へとやってきたのは迷子の子供でも異国からの旅人でもなく、現国王・ジークフリート・アッシコール・シルファ その人というこだ。

何故王がこんな所に大した数の共も連れずにやってきたのだろうか…

時折動物達から国の現状や街の人々の様子などを耳にしているクランは、タイミングを見ては『千里眼』と呼ばれる遠方の出来事や将来のことを見通す彼女自身の力を駆使して様子を見ていた。もちろん、現王の様子やこの国の行く末、そして自分自身に起こりうる未来なども見ていた。それも最後に見たのはつい先日のことで、その中には自分に関わる内容など1つも無かった。


にも関わらず、だ。


現在進行形で森に閉じ込められている状態のクランの前に、現国王が居るこの状況。意味がわからない。

そう、現国王が目の前にいるのだ!!

国王達から少しだけ離れたところに立ったもののその距離は僅か2メートル程度。それでも彼らはクランがいることに気づかない。

ずっと気配を消しているわけにもいかないので、彼らに声をかけた。

「王様がこのような所に何のごようかしら?」

突然かけられた声に警戒した側近と思しき男二人が剣を抜き放ち、クランにその切っ先をピタリと合わせた。

大きく目を見開きつつも、剣を構えた男二人を宥めつつ王が彼女の方へと数歩近づいた。


「声をかけられるまでこの二人でさえも気付かぬ程に完璧に気配を消すとは…見事としか言い様がないな。
その見事な銀髪にアメジスト色の瞳、雪のように白い肌。どれをとっても伝承に残る魔女そのままだ。」


彼は女性にしては高いとはいえ、それでも自分より20センチは低いであろうクランのことを値踏みするかのようにじっと見つめた。見られているクランもクランで、決して彼から目をそらそうとしない。
顔は笑っているが目が笑っていないジークフリートと不機嫌且つ警戒心むき出しのクランの間には見えない火花が散っていた…と側近達は後に語る。

「要件を伝えよう」

ジークフリートは更に一歩彼女に近づく。
その間ももちろん目はそらさず見てめあったままだ。

「そなたには、今日これより森を出て私の側仕えとして城への登城を命ずる。異論は許さん。支度に15分やろう。そこら中からこちらを眺めている動物達に挨拶でもするがいい」

いつの間にか、離れたところから森中の動物達が見物にやって来ていた。



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