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1.ゴブリン(前編)

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 ダンジョン。それは魅惑の場所。

 様々な凶悪なモンスターを打ち倒した先には、誰も見たことの無い迷宮とお宝が眠っている。それを探索し、持ち帰ることは冒険者の指名のひとつだが、ダンジョン攻略という行為そのものに魅了されてしまった者も多い。
 俺もその1人。駆け出しの頃に連れて行ってもらった浅いダンジョンで、今思えばガラクタでしかないちっこい宝石の欠片を初めて見付けた時から、俺はダンジョンに潜ることが生き甲斐になった。

 腕を磨き、パーティメンバーが見付かずとも1人でダンジョンに入り、時には死にかけながらも帰還を成功させ、徐々に名が上がった。
 今では他の依頼は全然受けずにダンジョンにばかり行っている冒険者としてちょっとした有名人だ。ギルドからも一目置かれていると思っていたがそれはどうやら面倒臭い人物として認識されているらしかった。

 だがそんなことはどうでもいい。俺は数多のダンジョンを1人で踏破していた。未知の領域をマッピングし、最深部の宝箱の中身を持って来た。お陰でそれなりの貯蓄もあり、街での生活は困っていない。だがそれでも俺は、新たなダンジョンを求めて各地を点々としていた。

 そんな中、俺はあるダンジョンの奥底で古びた祭壇を見付けた。
 厳重に罠のチェックをしたところ細工の類は無い。だがこういう時に掛かっているのは魔法系の罠だと相場が決まっている。万全を期すなら触れないべきだ。ここまで記した地図だけでも充分な価値がある。

 だが祭壇には、神具と思しき棒状の置物が埃を被っていた。男なら誰でも見覚えがある形状——男性器にしか見えないが、強さや子孫繁栄の象徴として男根を宗教のシンボルに掲げる例は珍しくない。
 どういうわけか、俺はそれに触れたくて堪らなかった。後から考えれば、もうその時点で術に掛かっていたのかもしれない。だがその時の俺はいけないと思いながらも手を伸ばした。
 最初は手で埃を払ってやるだけのつもりが、それだけでは足りない気がして、布で拭いてやる。丹念に擦り続けると神具は新品のようにピカピカになった。
 俺は満足して神具を祭壇に置き直した。その時だった。頭の中で荘厳な声が響いた。

『神意を得たか人の仔よ……』

 ハッとして周囲を見るが誰も居ない。男のような女のような、若者のような老人のような、それが混ざり合ったかのような声は続く。

『我はそこに祀られし者……長らく信仰も無く憂いていたところ、汝の敬愛に感銘を受けた。汝が求めるものを授けてやろう。望みを言うがよい』

 どうやら声の主は神の類であるらしい。敬愛という程の感情は無かったのだが、喜んでくれたなら良しとしよう。しかしいきなり望みと言われても困る。割と今の生活には不自由していないのだ。

「うーん、そうだな……強いて言えば、もっと強くなりたいかな。俺、ダンジョンに潜るの好きなんだよね。不老不死までいかないけど、ソロで大体のモンスターと渡り合えるぐらいの強さが欲しい。あと罠の毒とかで死なない頑丈さも欲しいかも」
『心得た……汝がダンジョン内でより愉しめるようにしてやろう』

 パァンと頭の中に黒い光が満ち溢れたような感覚があった。不思議と身体に力が漲ってくる、気がする。

『だがゆめゆめ忘れるなかれ。セイに歓喜し、感謝せよ。さすれば永遠の加護を約束せん——』

 光が遠のくと共に声も消えた。周囲の風景は変わっていない。ただ眼前の神具が美しく飾られているだけだ。
 俺はその時半信半疑だった。こんな所でこんな形で祀られている存在など邪神でしかないだろうし、こんな軽率に契約めいたものを結んでしまって良かったかは分からない。だがダンジョン攻略が少しでも楽しくなればいいし、こんな予想外の展開も心踊る。
 どうせいつ死ぬか分からない職業だ。これで本当に強くなれればラッキー。そんなことを思いながら、俺は帰路に着いたのだった。

***

 ズゥン……と大きな音を立ててワイバーンは地に落ちた。
 ダンジョンというのは帰り道も怖い。行きでモンスターを倒していても別の個体が湧いていることもあるし、反対側から見ると道が分からず迷うこともある。
 実際、ワイバーンなど行きには湧いていなかった。地下へ地下へと続く迷宮だったのだが、途中で空に繋がる穴でもあるのだろう。
 亜種とは言えドラゴンの類。おまけに大きな洞穴内を飛翔するとあって、戦士1人の俺では苦戦するタイプのモンスターだ。パーティメンバーが居れば弓士や魔術師の遠距離攻撃で弱らせることも出来るが俺だけでは攻撃を当てるのも一苦労である。……その筈、だった。

「これ、あの邪神の力……だよな……?」

 俺は動かなくなったワイバーンの上に立って呟いた。
 跳躍しただけで飛行するワイバーンに到達し、剣の一振りは頑丈な筈の鱗を裂いた。鋭い歯で噛まれた傷の出血はすぐに止まり、もう既に塞がっている。
 身体能力がやたらと向上している。鍛錬の先などではなく、恐らく人間の規格から外れたレベルに至っている。
 これなら向かうところ敵は無い。どんなダンジョンでも1人で攻略出来る。基本的にパーティを組まない俺は高難易度ダンジョンには挑めずにいた。だが今ならそれも行けるに違いない。
 邪神よありがとう。俺は今にも走り出したい気持ちを押さえ付けながらワイバーンの亡骸から金になる素材を剥ぎ取った。

 それが終わる頃、俺は気配を感じた。
 居る。周囲に複数。岩陰に隠れているが、ワイバーンが倒れた騒ぎを聞き付けて隣の部屋からやって来たのだろう。打って変わって小柄な存在だ。

「出て来い! 相手してやる!」

 俺は剣を持ち直すと覇気の籠った大声を上げた。これだけで弱いモンスターなら萎縮し、逃げ出すか降参する筈だ。
 しかし勇敢にも、彼らは一斉に岩陰から飛び出して俺の方へと駆け出して来た。

「ゴブッ!」
「ゴブゴブッ!」

 子供ぐらいの背丈、緑の肌、大きな鼻、群れで行動する——何処にでも居る小鬼の類、所謂ゴブリンである。
 非常に素早く小柄な為攻撃が当たりにくい上に数が多く、毒や呪術を使う場合もある為なかなかに侮れない。だが1体1体の体力は低いので的確に各個撃破出来るならそう怖くはない低級モンスターだ。
 実際俺が先頭の個体に剣を一振りすると鮮血が舞い、悲鳴を上げて倒れてそのまま動かなくなった。更に続いて、1匹、2匹。これまでなら回避されることもあったろうが、今はその予備動作が一瞬見える。それに合わせてコンマ数秒遅らせて攻撃すれば、面白いように直撃させられた。

「ゴブッ……!?」
「ゴブ! ゴブゴブー!」

 こちらの強さにゴブリンは一瞬たじろいだが、すぐに猛攻を再開する。だがそこに違和感を感じた。
 本来ゴブリンは狡猾だ。敵わないと分かれば我先にと逃げていく。だが今、ほとんどの個体は興奮し、俺に執着しているようにも見えた。巣に侵入した訳でもないのにこんなに攻撃してくることは珍しい。
 そう思って周囲を囲み、こちらの隙を伺うゴブリン達を観察する。息は荒く、やはり様子が違うように思える。そして俺は気付いた。

「な……何やってるんだ……?」

 群れの中の1体、俺を取り囲む輪の後方にいるゴブリンが、岩陰に半分隠れるようにしながら背を丸めている。何か特殊な攻撃の準備かと思い注意して見ていると、それが何か勘付いてしまった。
 そのゴブリンは股間に手を当てて熱心に動かしている。それは男なら皆身に覚えがある、自慰行為というやつだった。
 ゴブリンも自慰をするのかというところから驚きだが、何故今なのか。そもそもゴブリンは繁殖力が強く、その為に人間を攫うこともある。だが大抵狙われるのは女子供だ。混乱しつつも他のゴブリンを観察すると、確かに粗雑な腰布が持ち上がっているようにも見えた。

 まさか、俺を性的に見ているのか。
 ゴブリンとの戦闘は何度もしてきたがこんなことは初めてでゾッとする。だが今の俺には邪神の加護があるのだ。こんな奴ら、瞬く間に斬って捨てられるだろう。

「ゴブゴブー!」

 複数のゴブリンが一斉に飛び掛かる中、近接攻撃では不利と悟ったか後方のゴブリンが棍棒から弓に持ち替えてこちらに矢を向ける。味方に当たってもいい勢いで放たれる矢を、何本かは剣で叩き落とし、何本かは手近なゴブリンで盾とする。多少肌を掠めたものもあるが今の治癒力なら数秒で跡形も無くなるだろう。
 勝てる。俺は確信を持って剣を振るい、敵を投げ、1匹ずつ始末した。
 ——ドクン。

「……っ、あ……!?」

 急に心臓が大きく跳ね、一瞬視界が歪んだ。その隙に背中に飛び付き、ダガーで首元を切り付けて来る個体を振り払う。幸い刃は皮1枚掠めただけで済んだ。
 ドクン、ドクン。だが着実に心臓の鼓動は大きくなり、息が苦しくなる。身体が熱い。何が起こったか分からなかった。だが先程矢が掠めた場所が、ダガーで付けられた傷が浅い筈なのに熱を持ったように疼く。
 その熱は下半身から沸き立つようで、その疼きにまさか、と思う。いや、おかしい。こんなことがある筈が無い。そう思うのに止められない。
 熱が股間に集まり、竿がムズムズし袋の中身がグツグツと沸き立つ。ズボンの中で、俺はゆっくりと勃起しつつあった。

「くっ……そ……! どうして……!」
「ゴブ! ゴブゴブー!」

 こんな状況で欲情している自分が信じられない。ゴブリンはそれを好機と見たか一斉に飛び掛かってくる。俺は出来るだけ冷静に剣を振るい続けた。だが1匹、2匹と斬ってもまだ足りないとばかりに勃起が治まらない。それどころか更に熱を持ち始めたようにも感じる。俺は混乱していた。

「ゴブッ!」

 どうしても戦闘に乱れが生じ、一瞬の隙を突いて飛んで来た矢が二の腕に突き刺さった。すぐに引き抜くがその矢尻には溝があり、傷口は急速に塞がろうとするものの激しい熱と疼きが起きる。
 まさか、と思いつつも理解した。薬が塗られていたのだ。恐らくダガーの方にも。
 だが俺を殺すなら致死性の毒薬でいいはずだ。だが今盛られているのは、まるで——

「ゴブッ! ゴブゴブー!」
「うぁっ、あっ!?」

 1匹のゴブリンが背後から俺のズボンを引っ張る。軽く引っ掛けられた程度だが勃起した俺のペニスに布が強く押し付けられる形となり、かくんと膝から力が抜けた。そこを数匹のゴブリンが取り囲み、俺の身体に爪を立てる。
 それは屈強な戦士には痛くも痒くもない攻撃だったろう。だが俺は堪らず地面に突っ伏した。その隙を狙って1匹が俺の胸当てを外すとインナーの中に潜り込む。

「うあぁっ!?」

 ゴブリンの小さな手が俺の胸の飾りを掠めた。たったそれだけでビリビリとした快感が全身に走り、甲高い声を上げてしまう。こんなことは初めてだった。慌てて口を塞ぐもののもう遅い。1匹に気付かれてしまえば後は芋蔓式だ。あっという間に残りの個体にも知られてしまっただろう。

「ゴブッ! ゴブー!」

 1匹が俺の足に飛び付き、ズボンを引き剥がそうとベルトに手を掛ける。俺は抵抗しようとするが身体が痺れたように上手く動かない。その間に他の個体は次々と俺の身体に乗り上げてきた。

「ぐっ……!? あ、ああぁっ!」

 無数の手が仰向けに押し倒された俺の身体を弄る。小さな指で、鋭い爪で、無数の箇所を同時に責められるとそれだけで堪らなかった。俺は声を上げながら逃れようともがくも、その感覚に抗うことは出来なかった。
 乳首を摘まれ、脇腹を擽られ、内腿を撫で回される。ゴブリンの下卑た笑みが至近距離にいくつもあり、気色が悪い筈なのに触られる部分がビリビリとする。普段なら嫌悪感しかないだろうに、信じられないことに今の俺にはその全てが快感となって襲い掛かった。
 そして遂にズボンのベルトが外され下穿きごと一気にずり下ろされた。

「ひっ……!?」

 ぶるんと音を立てて飛び出したそれは完全に勃起してしまっていた。それを目敏く見つけた1匹のゴブリンが俺のペニスに手を伸ばす。小さな手を両方使って握り込むと、上下に扱いた。

「うぁぁっ! あぁっ、あっ!」

 今まで感じたことの無い快感に俺は悲鳴を上げた。それは自分で行う手淫とは比較にならなかった。他人の手でされるという興奮と、ゴブリンに弄られているという屈辱と、待ち望んでいたような強い快感が同時に押し寄せる感覚。乳首や脇腹への刺激も合わさり頭が真っ白になった。
 だがまだ足りないとばかりにゴブリンは更に強く握り込むと激しく扱き続ける。その激しさは痛いぐらいだったがそれすらも快楽として脳が処理してしまう。
 こんな筈じゃない。俺は男で、戦士だ。なのに何故こんな雑魚モンスターに好きにされなくてはならないのか。だがゴブリン達は俺のそんな苦悩など露知らず、別個体が今度は指や舌でアナルを刺激してきた。

「ひっ……!? そ、そこは……っ!」

 排泄器官である筈の場所に柔らかい舌が入り込んで来る感覚に鳥肌が立ち、ぞわぞわとした感覚が背中を駆け巡る。だがそれが嫌悪によるものか快感によるものかは分からなかった。振り解こうにも腕や足に複数のゴブリンが乗っていて動かせない。
 アナルへの刺激に意識が向いてしまった隙をついて、ペニスへの責めも再開される。竿全体を扱きつつ亀頭部分をぐりぐりと弄られ、裏筋を爪で軽く引っ掛かれ、尿道口を指先でほじくられる。そのどれもが俺の知らない感覚で、俺はただ翻弄された。

「うぁっ、あっ! ああぁっ!!」

 射精欲が高まってくる。このままではゴブリンの手で絶頂を迎えてしまう。そんなのは絶対に嫌だと思いながらも、この感覚に逆らえない自分がいた。
 だがその時だった。不意にペニスへの刺激が止まる。何が起きたのか分からず俺は困惑するが、すぐにその理由を知った。いつの間にか俺の足の上に乗っていた個体が俺の股間に顔を埋めようとしていたのだ。
 俺の視線に気付いてゴブリンはニタリと笑うと、その小さな口に比較すれば巨大な俺の陰茎を咥えた。その光景を見てゾッとすると共に興奮を覚えた自分に気付き、愕然とした次の瞬間にはもう遅かった。

「あ、あっ! ああぁっ!!」

 ゴブリンの小さな口では亀頭部分しか含むことが出来ない。だがそれが逆に良かった。熱い舌と唾液が絡みつきながらじゅぽ、じゅるっと音を立てられるのも、喉奥で締め付けられるのも全て快楽に変換されてしまう。街の娼館で経験したものとは全く違った。
 俺は必死に抵抗しようと試みたが無駄に終わった。その間に他のゴブリン達は俺の身体を更に弄り始める。胸や脇腹への刺激に加え、アナルを解す指はいつの間にか1本から2本に増やされていたようだ。痛みは無かったが違和感はある。だがそれも、ペニスへの刺激とアナルの違和感が合わさると快感へと変わった。

「うぁっ、あっ! ああぁっ!!」

 もう限界だった。俺は絶頂を迎えようとしていた。しかしゴブリンはそんな俺の様子に気付いても口を離そうとしないどころか更に強く吸い上げる。その刺激に耐えられる筈もなく、俺は呆気なく達してしまった。そして同時に大量の白濁液を放出したのだった。
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