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電脳暴君はまだまだ夢の中
暴君との謁見
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家臣からの連絡を受けて、執務室から謁見の間へと場所を移す。この場所へ足を踏み入れる度、歴史の重みを感じずにはいられない。
この部屋は世代を超えて私の祖先たちが国を納め、重大な決断を下した場所だ。壁にかけられた壮大なタペストリーや床の紋章はただの装飾ではなく、我が家系の名誉と義務の物語だ。
天井から吊り下げられたクリスタルのシャンデリアの元で、私は日々、王としての義務を果たす為に考え、行動する。これらの輝く光の粒子が照らすのは広間ではなく、未来を切り開く決断の舞台である。
「まもなくです」
「うむ」
側に控えた宰相が緊張した様子で声をかけ、私はそれに小さく答えて玉座へと腰を下ろす。
この謁見の間の壮麗さが私に静かな圧力としてのしかかる。先王達の期待と、民達の希望が私を逃すまいと縛り付けた。
「ようこそ、勇敢なる勇士たちよ」
重厚な扉が静かに開き、異国の冒険者たちが姿を表した。彼らはかつてフォートシュロフの危機を救った英雄達で、現在も冒険者の中で絶大な発言権を持つ。巷ではフォートシュロフ13騎士と呼ばれているらしい。
「お初にお目にかかります、ザルボア陛下」
先頭を歩いていた異形の少女がそう言って、恭しく跪く。後ろの冒険者達もそれに習って跪いた。
「立ってくれ、お前達の訪れを心より歓迎する」
私がそう言うと、冒険者達は立ち上がった。改めて、先頭の少女へ視線を向けてよく観察する。カオスシェイプは土地に古くから存在する原住種であり、異形の体を持つ種族だ。
彼女は黒い短髪には赤いメッシュが施され、その額からは奇妙に捻れた角が突き出している。瞳孔は蛇のように細く、不気味な黄金色に光っている。その視線の背後に計算高く冷徹な思考が窺えた。
彼女の腰からは大きな尻尾が伸び、闇夜を思わせる大きな翼が広がっていた。その姿はまるで、悪魔のようだ。
本来であれば王城に入れるなどは言語道断であり、声をかけるなどそれだけで不敬罪になる。周囲の家臣達にも、彼女が代表して答えたことで剣呑な空気が流れた。
「今日は、フォートシュロフに迫る新たな脅威について話し合う為にお前達を招いた。この地を再び守る為に、お前達の力が必要だ」
そう言って、私は周囲の家臣を一瞥した。今、彼女の機嫌を損ねるのは直接、死につながりかねない。
立ち振る舞いは極めて落ち着いていて、何の気負いも見せていない。しかし、彼女の周囲には恐ろしいほどの緊張感が漂い、次の瞬間には何をするか分からない気配を放っている。
彼女の噂は王城にも知れ渡っていた。数々の悪名高い戦いで名を轟かせている。王ならざる身で、王を冠し謳われる者……暴君、アニー・キャノンだ。
「私たちも、この街を守れるのであれば守りたいです。しかし、優先順位はあります」
言外にフォートシュロフの優先順位が低いと告げた彼女の言葉に、今度は家臣達も黙っていた。
同じような指摘を受ける者はこの場にはいない。
「幻夢境街と、剛輪禍だな」
「はい。陛下の優先順位をお聞きしたいです」
暴君は私の言葉に頷き、質問を返してきた。もちろん、私にとってはフォートシュロフが一番だ。何を言っているのかと思ったが、すぐに考えを改める。彼女はもっと踏み込んだ話をしている。
「……民の命、民の権利、そして土地、最後に……王権だ」
私の回答に、暴君が顎に手を当てて考える仕草を取る。
「まず、民に関しては幻夢境街への避難を始めましょう」
「それはありがたいが、避難先での民の安全はどうする?」
「フォートシュロフの全軍をもっての護衛を希望します」
確かに、民を軍で守れば、当面は理不尽な思いをする事は無いだろう。安全もある程度は保証される。
「土地と王権は諦めろと言うことだな」
「いいえ」
私の言葉に、暴君が静かに首を左右へふる。
「私たち、冒険者は街の間を高速に移動できます。それらを総動員して、フォートシュロフを守ります」
「幻夢境街は良いのか?」
「幻夢境街とフォートシュロフでは外縁より2倍の距離があります。幻夢境街にモンスターが来るまでの間、冒険者でフォートシュロフを守ります」
「幻夢境街にモンスターが到達してからはどうする」
「フォートシュロフ軍と幻夢境街の軍で防衛にあたってください。防衛が困難な場合、フォートシュロフは放棄します」
「本国を人質にフォートシュロフ軍へ幻夢境街を守らせると言うわけか」
「麗しき共闘です」
私の嫌味に、暴君は軽い口調で答える。
「冒険者だけでフォートシュロフを守り切れるのか?」
「それはやってみないと分からないです。出来うる限り守りたいですが、無理そうなら放棄して幻夢境街に合流します」
「……」
視線を上に向けて、シャンデリアを見つめる。周囲に聞こえないよう、小さくため息をついた。
本音を言えば、気に食わない。フォートシュロフの王として、この国を最優先にしてほしい。しかし、この場でそんな事を言えば目の前の暴君は容赦無くこの国を見捨てるだろう。
この場にいるすべての人間を殺してそのまま家に帰るだけの力が、彼女とその仲間達にはある。
「……報酬の話に移ろうか」
この部屋は世代を超えて私の祖先たちが国を納め、重大な決断を下した場所だ。壁にかけられた壮大なタペストリーや床の紋章はただの装飾ではなく、我が家系の名誉と義務の物語だ。
天井から吊り下げられたクリスタルのシャンデリアの元で、私は日々、王としての義務を果たす為に考え、行動する。これらの輝く光の粒子が照らすのは広間ではなく、未来を切り開く決断の舞台である。
「まもなくです」
「うむ」
側に控えた宰相が緊張した様子で声をかけ、私はそれに小さく答えて玉座へと腰を下ろす。
この謁見の間の壮麗さが私に静かな圧力としてのしかかる。先王達の期待と、民達の希望が私を逃すまいと縛り付けた。
「ようこそ、勇敢なる勇士たちよ」
重厚な扉が静かに開き、異国の冒険者たちが姿を表した。彼らはかつてフォートシュロフの危機を救った英雄達で、現在も冒険者の中で絶大な発言権を持つ。巷ではフォートシュロフ13騎士と呼ばれているらしい。
「お初にお目にかかります、ザルボア陛下」
先頭を歩いていた異形の少女がそう言って、恭しく跪く。後ろの冒険者達もそれに習って跪いた。
「立ってくれ、お前達の訪れを心より歓迎する」
私がそう言うと、冒険者達は立ち上がった。改めて、先頭の少女へ視線を向けてよく観察する。カオスシェイプは土地に古くから存在する原住種であり、異形の体を持つ種族だ。
彼女は黒い短髪には赤いメッシュが施され、その額からは奇妙に捻れた角が突き出している。瞳孔は蛇のように細く、不気味な黄金色に光っている。その視線の背後に計算高く冷徹な思考が窺えた。
彼女の腰からは大きな尻尾が伸び、闇夜を思わせる大きな翼が広がっていた。その姿はまるで、悪魔のようだ。
本来であれば王城に入れるなどは言語道断であり、声をかけるなどそれだけで不敬罪になる。周囲の家臣達にも、彼女が代表して答えたことで剣呑な空気が流れた。
「今日は、フォートシュロフに迫る新たな脅威について話し合う為にお前達を招いた。この地を再び守る為に、お前達の力が必要だ」
そう言って、私は周囲の家臣を一瞥した。今、彼女の機嫌を損ねるのは直接、死につながりかねない。
立ち振る舞いは極めて落ち着いていて、何の気負いも見せていない。しかし、彼女の周囲には恐ろしいほどの緊張感が漂い、次の瞬間には何をするか分からない気配を放っている。
彼女の噂は王城にも知れ渡っていた。数々の悪名高い戦いで名を轟かせている。王ならざる身で、王を冠し謳われる者……暴君、アニー・キャノンだ。
「私たちも、この街を守れるのであれば守りたいです。しかし、優先順位はあります」
言外にフォートシュロフの優先順位が低いと告げた彼女の言葉に、今度は家臣達も黙っていた。
同じような指摘を受ける者はこの場にはいない。
「幻夢境街と、剛輪禍だな」
「はい。陛下の優先順位をお聞きしたいです」
暴君は私の言葉に頷き、質問を返してきた。もちろん、私にとってはフォートシュロフが一番だ。何を言っているのかと思ったが、すぐに考えを改める。彼女はもっと踏み込んだ話をしている。
「……民の命、民の権利、そして土地、最後に……王権だ」
私の回答に、暴君が顎に手を当てて考える仕草を取る。
「まず、民に関しては幻夢境街への避難を始めましょう」
「それはありがたいが、避難先での民の安全はどうする?」
「フォートシュロフの全軍をもっての護衛を希望します」
確かに、民を軍で守れば、当面は理不尽な思いをする事は無いだろう。安全もある程度は保証される。
「土地と王権は諦めろと言うことだな」
「いいえ」
私の言葉に、暴君が静かに首を左右へふる。
「私たち、冒険者は街の間を高速に移動できます。それらを総動員して、フォートシュロフを守ります」
「幻夢境街は良いのか?」
「幻夢境街とフォートシュロフでは外縁より2倍の距離があります。幻夢境街にモンスターが来るまでの間、冒険者でフォートシュロフを守ります」
「幻夢境街にモンスターが到達してからはどうする」
「フォートシュロフ軍と幻夢境街の軍で防衛にあたってください。防衛が困難な場合、フォートシュロフは放棄します」
「本国を人質にフォートシュロフ軍へ幻夢境街を守らせると言うわけか」
「麗しき共闘です」
私の嫌味に、暴君は軽い口調で答える。
「冒険者だけでフォートシュロフを守り切れるのか?」
「それはやってみないと分からないです。出来うる限り守りたいですが、無理そうなら放棄して幻夢境街に合流します」
「……」
視線を上に向けて、シャンデリアを見つめる。周囲に聞こえないよう、小さくため息をついた。
本音を言えば、気に食わない。フォートシュロフの王として、この国を最優先にしてほしい。しかし、この場でそんな事を言えば目の前の暴君は容赦無くこの国を見捨てるだろう。
この場にいるすべての人間を殺してそのまま家に帰るだけの力が、彼女とその仲間達にはある。
「……報酬の話に移ろうか」
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