僕と一緒に楽園へ

著恋凛

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悔いない選択を

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 俺たちは歩き続けた。かなり歩いたがあまり疲れない。どうしてだろうか?そんな疑問はどうでもいいか。歩き続けると普通は気が重くなるものだが、
 俺たちはその逆だった。
 もうあんなことをされなくていい。そう思うだけで気持ちが晴れ晴れする。そして俺たちはそんなこんなで歩き続けて、適当なところで夜ご飯を買い、一夜を過ごした。




 そして現在。
 昨日同様歩き続ける。今の俺たちにはそれしかすることが無いからだ。でも、そこまで苦じゃない。有咲と話していると時が経つのが早く感じる。気づいたらもうここまで来てたの!?ってことも多々ある。
「ねぇ、質問していい?」
「ん?どしたの?別にいいけど」
 許可が降りたところでずっと気になっていた質問を投げかける。
「どうして有咲はボクっ娘なの?」
 俺と有咲が初めて会話した一昨日の屋上の時からずっと一人称は「僕」だ、確かクラスにいるとにもそうだった気がする。・・・・・あくまで気がするだけだがな。
「・・・・訊かれたなら、答えるよ」 
 有咲は足を進めながらも、何かを思い出すかのように天を見つめる。
「いや、やっぱいいや」
 あんな顔されては、別に答えてもらわなくていい。ただ俺が気になっただけだし、このままでも全然やって行けるし。
「僕は言うよ。決めてたんだ。君に訊かれたら、言うって」
 そして有咲は語り出す。ボクっ娘になった理由を。
「僕のお父さんの口癖は「息子なら良かった」だった。そしてある日僕は考えてた。なぜ、僕はこんなにも苦しい生活をしなければならないのか?朝起きて、ご飯を作り、それがお父さんの口に合わなかったら暴言に暴力。学校へ行き、数時間してから変える。そして買い物やら夕飯やら色々して、最後は酒で酔っ払ったお父さんに暴言暴力。もし、男に生まれていればこんなことされなかったかもしれないと思った僕は身体を鍛えようとした。だけど、できなかった。腹筋、背筋、腕立て伏せどれをやろうにも殴られた所が痛む。身体を鍛えるのを諦め、せめて一人称でも男に近づけようとした結果、僕の一人称は僕になった。ただそれだけのことさ。」 
 俺がそれを聞いて出た一番最初の感想はわかるぅ、だった。力を入れるとどこかしらが痛む。マジで痛い。普通に暮らしててそれなのに筋トレなんてやったらホントに身体が壊れてしまう。例えるとするならば、突き指している時に指立て伏せをやろうとしているのと同義だ。やれと言われてできるか?できないだろう。それほど冗談抜きで痛い。
 そして次に出た感想はなんて酷い父親だ。 勝手に生ませておきながら、「息子なら良かった」だ。ふざけるな!
「あれ?でも、息子が欲しいなら子供を作ればいいのに・・・・」
 そうだろ?息子が欲しいのなら新しく子供を作れば、万事解決じゃないか。親父さんは息子ができて、有咲は虐待を受けなくなる。
「それができてれば、僕は家出なんてしてないよ。僕のお母さんはさ、仕事で海外を転々としてるんだ」
 家庭の事情というやつだ。そればっかりは仕方ないと言うしかあるまい。子供がなんと言おうと大人は「これは大人の話なの!」と言われ、何も言えなくなる。
 にしても、そんなことがあったとはな。予想よりも話しが重く、俺は少し質問したのを後悔していた。この少し重くなった空気を何とかするために俺は思ったことを言う。
「なら、もう「僕」にする必要はないんじゃないか?俺らは自由だろ。だったら、元々有咲が言っていた「私」に戻ってもいいんじゃないか?親父さんはもう俺らに関与しない。有咲がしたいようにすればいいんだ」
「そうだね。これからは私に戻してみようかな。それで、私は秘密を話したんだし、無樹斗の秘密を教えてよ」
 なんて暴論だ。そんなふうに思ったが、それよりも有咲の一人称が私になったことに少し・・・・いや、かなり違和感を覚えた。でも、どうせすぐになれるだろう。
 そして、少し悩む様子を見せてから呟く。
「兄がいる」
「なんだよぉ、なんか私との差が激しくない?」
 俺の兄は親父の虐待が始まってからすぐに家出をした。一人なのか、それとも俺みたいに二人なのかはわからないが、その行動力にはすごいと思った。でも、俺に何も言わず、勝手に置いていったのには少しばかり怒りがあった。
 そしてそれから兄ちゃんが帰ってくることはなかった。親父は兄ちゃんが家出したにも関わらず心配すらしなかった。兄ちゃんが勝手に家出したことよりも俺はそっちの方が怒りが強かった。




 夜の10時を回った頃、俺たちは整備されてない山を少し登った所にある洞窟で、30%引きのシールが貼られたパンを食べていた。
 今日の寝床はここだ。野宿は昨日が初めてだが、有咲から貸してもらった寝袋のおかげであまり辛くはない。
「明日はお風呂に入りたい」
「俺も。それじゃ、適当に朝からやってる銭湯探そうか」
 流石に疲れてきたからお風呂で疲れをとりたい。平日の朝なら誰もいないと思うのでゆっくりできるし、気を使わないでいい。
 その後はパンを食べ終え、眠った。





 葉と葉が擦れた音で目が覚めた。寝袋から出て有咲の寝袋を見るが、空だった。どこかに散歩しに行ったのだろう、そう自己完結し、俺も寝袋を畳、外に出る。少し適当に歩くと水が流れる音をしたので、歯を磨こうと思い、歯ブラシを取り、水が流れている方へと向かった。
 結果から言おう、歯は磨けた。でも、俺はびしょ濡れになった、ついでに有咲も。
 ことの経緯を説明しよう。水の音を辿っていった結果、川があった。そこで歯を磨いてる有咲を発見し、隣りで俺も歯を磨いた。
 歯を磨き終えた俺はうがいをしていたら、有咲に背中を押され、川にダイブすることになったのだ。その後お返しと言わんばかりに有咲の手を掴み、川に引きずり込んで、2人で少し水遊びをした。
 そして今、俺と有咲は洞窟へと踊っていた。
「うひゃぁ、下着までびちゃびちゃだよ」
 俺は今すごく目のやり場に困っている。だって、有咲の濡れた服が透けて、下着が見えているからだ。それに有咲は気づいていない模様だ。頑張れ俺、頑張れ俺、頑張れ俺と念仏のように脳内で言い続ける。洞窟まであと少しだ。自制心を保ちながら、何とか足を進ませる。
 ふぅ、やっと着いた。俺の自制心、よく頑張った。
「それじゃ、先に有咲着替えてきていいよ」
 ホントにこれ以上は俺の自制心が持たん。俺もれっきとした男なのでそろそろ前屈みにならなきゃ、いけなくなる。
「悪いよ。無樹斗が先でいいよ」
「いやいや、俺は平気だから。濡れた服を着るのが趣味だし」
「そ、そうなんだ」
 少し引き気味で洞窟の中に入って行く有咲。俺は自分の欲望に勝った男だ。勝つために変な趣味があると嘘をついてしまったがな。
 ま、なんにせよ。よく頑張った。自分で自分を褒めながら、時間を潰していると、着替えた有咲が出てきて「終わったから無樹斗も着替えておいで」と、言うので、俺もやっと着替えることができた。






「あっつ!」
 銭湯の湯船に足をちょっと入れるなり、そんなか声が誰もいない男湯の中で反響する。
 熱いのを我慢しながら、徐々に浸かると、いつの間にかこの熱さにも慣れてしまった。足を伸ばし、肩まで浸かるとなんだか疲れが取れていくような気がしてくる。ついつい寝てしまいそうだ。
「お?見たことない見ない顔だね」
 そう言ってきたのは、60?70?代ぐらいの老人だった。
 あれ?入ってくる音しなかったが、どうしてだ?そう思うが、どうせサウナにでもいたのだろうとすぐに答えが出た。老人の身体が妙に赤いのがそれをものがっている。
「ども」
 歩く頭を下げて、挨拶をする。老人は入り慣れているのか、この熱い湯船にすんなり入り、俺の隣へと座る。
 顔を見る限り、そこまで怖そうな人ではないので、そこまで緊張しない。
「君は高校生ぐらいだろ?なんでこんな時間にいるんだ?」
「ちょっと、色々あって・・・・」 
 老人は俺の身体を見て、何かを察する。流石人生の先輩と言ったことろだ。
「そうか、それならこの話しは終わりにするか?」
 気を使ってくれたのだろう。俺は別にもう過去のことなんてどうでもいいので、普通に話しを続けてもいい。いや、なんなら続けて欲しい。今俺がやっていることが間違っているか、正しいかを確かめたい。それを聞いて、もし間違っていると言われても別に家出をやめる気は毛頭ないが、気になってしまう。
「いいえ、続けましょう。俺の話を聞いてください」
「老人は話を聞くのが好きなんじゃ。好きだけ話すがいい。そして質問とかもあったらなんでも訊いていいぞ」
 そう言われ、俺は話し始めた。虐待を受けていたことも、有咲と出逢ったことも、家出したことも。
 話していると、どんどん過去のことを思い出していき、涙が出そうになってくる。過去のことはもうどうでもいいと思っていたが、俺の脳裏にはしっかりとこびり付いている。たぶんこの記憶は死ぬまで離れないと思う。
 にしても、この老人はすごくいい人だ。俺の話を親身になって聞いてくれて、状況に応じて「それは大変だったなぁ」とかあいずちを打ってくれる。その言葉のおかげで俺の涙は流れることはなかった。
「・・・・って、ことがあったんです。俺がやってることは正しいですかね?」
「うーん」唸るように老人は右手を顎に付け悩む素振りを見せる。そして数秒間風呂場に老人の唸り声が響いてから老人は喋り出す。
「親が子に暴力を振るうのは何があってもダメじゃ。君が家出したことは正しいと思うよ。あくまで個人的な意見じゃけどな」
「そうですか。それじゃ、次の質問です。この家出は成功すると思いますか?」
「それは君ら次第じゃ。ワシは未来が見える予知者じゃないからな。でも、これだけは言える、この先、巨大な壁にぶち当たることもあるかもしれないからな。それじゃ、ワシはのぼせそうなので失礼する。」
 そう言い、老人は湯船からあがる。一歩二歩と進み、風呂場から出る寸前に俺に向かって、目を見つめながら優しく、されど力強く言葉を放った。
「悔いない選択を」
 その言葉は俺一人となった男湯に反響する。
「悔いない選択を、かぁ」
 俺がここに来るまでに色んな選択肢があった。例えば、あの日屋上で有咲の手を掴むか掴まないかとかだったり、そもそもあの日俺が屋上行くか行かないかだったり、キリがない。
 もし、この先、そういう選択を全て良い方へと持って行けたら、この家出は成功するのだろうか?
 考えても考えても答えは出なかった。これは数学のように必ず正確な答えがあるものとは違い、正確な答えなんてないんだ。そう思い、俺は数分間湯船に浸かってから、風呂場から出るのだった。



 銭湯から出て、付近を散策するが有咲いなかった。女の子は髪を乾かしたり大変なのだろう。壁に寄りかかり、空を見上げる、空は雲ひとつない快晴だ。見上げているとなんだか気持ちも晴れていく、「悔いない選択を」その言葉を最後に放った老人の真意は分からないけど、俺は家出する時に決意は決めている。心配することは無い、ただ自分が正しいと思う道に進めば、勝手にゴールまで行ってくれる。
「ごめん。ちょっと髪乾かすのに時間かかっちゃって」
「大丈夫、俺も今さっき出てきたところだし。そんなことより早く行こうか。あと少しだし」
 そして俺たちはまた歩を進める。福島まではあと少しだ、なんとか今日中に着くと思う。そうすれば、やっと楽しい暮らしが手に入る。
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