職場で一番嫌いな奴と、なんでか付き合うことになった話

あきら

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職場で一番嫌いな奴と、なんでか付き合うことになった話

90年代のヒロインみてーなこと言い出したぞ

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 「さて今から出勤となったら、弁当作って行かねーと。面倒だけど、親父の分も作らなきゃだしな」

 「お弁当?そういや、職場の休憩室で食べてたっけ。あれ、葵くんが作ってたんだ。意外」
 「中学ん時に、母親出ていきましたからね。そっから、家事は親父と共同ですわ。もともと弁当は、高校に一浪したオレのために親父が毎日作り始めたんです。そして高校三年間で、461個のお弁当を…」
 「何そのエピソード、どっかで聞いた!嘘でしょ?」
 「はい、嘘ですね。親父、料理はからっきしなんで。最初っから、オレが作ってますわ。ついでに、一浪もしてませんよ。底辺のうち、さらに最底辺の高校っスけど」
 まただ。どうにもこの子の言うことは、あまり心の底から信用しない方がいいと言うか。話半分に聞いておいた方がいいみたい。まぁ、今のはさすがに冗談で言ってたみたいだけど…。ネタが細かすぎて、伝わりづらいんじゃい。
 「でも偉いね。自分でお弁当作れるとか、尊敬するわぁ。俺、料理どころか家事全体からっきしだから…。未だに、部屋は完全に片付かねーしさ」
 「だからそれ、別に散らかってても気にしませんって。辻村さん、家事出来そうなイメージですけどねぇ。いつも会社で、お昼何食ってるんスか?」
 「言うて、遅番の時はお昼が18時だからほぼ晩ごはんみてーなもんだけどね。えぇと。同じビルの○リーズに…降りて食べに行ってる時も、かつてはありましたが。最近ではそれすら面倒くさくなって、休憩室で柿の種食ってます…。あと、バウムクーヘン?」
 「は?何それ。栄養足りないっつか、腹に溜まらねーでしょ。そのうち、身体壊しますよ」
 「うぅ、耳が痛い。俺も、君みたく弁当作れたらいいんだけどね」
 「作ってあげましょか?」
 「はい?」
 「弁当っスよ。二人分作るのも、三人分作るのも手間は同じなんで」
 おーっと、葵くんが突然90年代のヒロインみてーなこと言い出したぞ!?まさか自分の人生で、こんな鈍感系主人公みたいなことを言われる機会があるとは思わなんだ。
 「…シフト同じの日限定っスけど、だいたい被ってるじゃないスか。そ…それに家事苦手だっつうなら、オレが掃除とかしてあげても…。え、液タブとPCのお礼があるんで」
 え、何それ。まるで、同せ…。ないない!同棲とか言う遙か以前に、まだ付き合ってすらいませんからね!そもそも、葵くんが俺のことを好きであるかも。そもそも、葵くんが男性のことを好きであるかも…。
 お礼にって言ってたし、見た目に合わず義理固い子なんだ。元ヤンだし、きっとそうだ。こう、上下関係が厳しかったとか…。

 結局お弁当の件は曖昧になって、二人で同じ電車に乗って職場に向かうこととなった。
 葵くんに、横浜案内かぁ…。ちょっと、してもらいたかったなぁ。中華街とか…。いつか、してもらう機会もあるかな。
 うん、そう信じたい。
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