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 夢を見ていました。今までにも、何度となく見た夢です。

 小学生の僕は、家族で海に来ていました。長井浜とかそこらへんの、海水浴場ですよ。あの頃は会社の経営が軌道に乗る前で、まだそこまでは羽振りがよくなかった。
 そこで僕、海に溺れたんですよね。泳ぎが苦手ではなかったんですが、慢心して波にさらわれたものかどうか。小さい頃なので、記憶が定かではありません。
 軽く水を飲みましたが、まぁすぐに気はついたんですよ。そしたら僕、屈強な男性に姫抱っこされてました。地元の大学生さんでアルバイトに来ていた、いわゆるライフセーバーですね。僕、どうされるんだろうってドキドキして…。しばらく、気を失った振りをしていました。
 その後、どうなったかって?だいたい、予想つくでしょう。マウス・トゥ・マウスですよ。人工呼吸。手入れとかしてないカサッカサの唇でしたが、嫌な気分はしませんでした。むしろ、胸が高鳴って…。自分の中で、何かが目覚めた気がしました。
 目覚めたと言えば、いつまでも気が失った振りして?のも不自然なので適当な所で目を開けましたよ。そしたら、真っ黒に日焼けした海水パンツの男が僕を見下ろしてました。そして僕を見て、白い歯を見せながらこう言いました。
 「気がついたかい?大事にならなくて、良かった良かった(※実際には九州弁ですが、標準語でお届けしております)」
 あぁ、王子様ってこんな人の事を言うんだなぁって思いました。金髪碧眼で、見目麗しい人だけが王子ではないんだって。ちょうどシチュエーションも、小さい頃から憧れていた人魚姫みたいでしたしね。あれは、姫が王子様を助ける展開でしたけど。
 話は変わりますけど。BL作品って、それまで普通に女性を好きだった男性が突然男性に恋に落ちるじゃないですか。あれって、凄く嘘くさいと思いますよ。フィクションだから、仕方ないって?じゃあ、お尋ねしますけれど。あなたの恋愛対象が男性(あるいは女性)だったとして、ある日突然女性(あるいは男性)の事を愛せますか?よしんば愛せたとして、そのまま性行為に及べますか?無理だと思います。
 僕も、女性に対し可愛い娘だなってくらいに思う事はあるけれど…。恋愛感情にまで、発展する事はありません。ましてや、その先なんてねぇ。
 何が言いたいかと言うと、同性を愛するならばそれに至る体験が何かしらある筈だって事です。本人の性質とか、持って生まれたものもあるんでしょうけど。僕も、小さい頃からだいぶ女の子っぽい方ではありました。だけど決定的に自分を同性愛者たらしめたのは、あの夏の体験だったと思うんです…。
 下らない事を、だらだらと話しましたね。とっくに朝になって、目は覚めてました。大雅くんは未だに眠りこけているかとリビングに行ったら、すでに目覚めてシャワーを浴びていたようです。あれだけ酔いつぶれていたのに、若いだけあって回復力が凄いですねぇ。って、一歳しか変わりませんけど。
 「やっひーっ、おはようさん!ごめんな、勝手にシャワー借りてたで」
 そう言って、これまたパンツ一丁で浴室から出てきました。だからそれ、目の毒だからやめてくれませんかねぇ。でも本当、例のライフセーバーさんに勝るとも劣らない筋肉だなぁ。
 「いつまでも厄介になる訳には行かんから、いい加減下宿に戻るわ。その前に、重ねてやっひーにはお礼をせんと。やっひー、今日は暇?」
 「今日?大学もなければ、アルバイトも入れていないけど…」
 そう言うと大雅くんは、いたずらっ子のような表情をして八重歯を見せて言いました。

 「そうかそうか。そら良かったわ。そしたらやっひー、今日ちょっと…オレとデートせぇへん?」
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