転校先で知り合った優等生腐男子と、何でか付き合うようになりました

あきら

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だけどこの風、少し泣いてるぜ

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 みなさん、こんばんは。一ノ瀬蒼12歳、ホモです。すっかり夜もふけて、雪兎と茅ヶ崎の海岸を散歩している最中です。

 え?せっかくの水着回なのに、ショタ達がキャッキャウフフする海水浴のエピソードはないのかって?ごめんなさいね。そろそろストーリーが大詰めで、巻きが入ってるんですよ。それに、これと言った展開を思いつかなかったもので。要望があれば、スター特典とかで補完するんじゃないですかね。
ところでネットを調べて知ってはいたけど、茅ヶ崎の海岸から見る星空も本当に綺麗なんだなぁ。むし行った、軽井沢の夜空を思い出した。
 あれから時が経って、家族は離れ離れになっちゃったけど…。それはもう、仕方のない話だよね。人間、同じ場所に留まり続ける事なんて出来ないから。でも由香里姉ちゃんの心は、おれたち家族の中にいつまでも生き続けていると信じてる。
 そうそう、「同じ場所に~」で思い出した。この場を借りて、読者さんと雪兎に伝えなきゃいけない事があったんだ。
 「雪兎。突然なんだけど、驚かないで聞いてほしい。おれの親父、オーストラリアに転勤する事になったんだ」
 出世に伴う栄転だから、一応左遷とか島流しの類ではないよ。だけど離婚とか色々あって、ちょっと本社に居づらくなったってのも事実らしい。まぁ、親父の事はどうだっていいんだ。
 「おれ、付いていくべきか迷ったけど…。本当なら、このまま雪兎と一緒にずっといたいさ。だけど…現地の中学で、サッカーの名門校に潜り込めそうなんだよな。そのためには、早めに向こうの生活に慣れておかないと。だから…二学期を待たず、この8月中にでも海を渡るつもりだ」
 「そうなんだ。本当に突然だから、ビックリした。とっても、寂しいけど…。それが、あお君にとっては本当に正しい選択だと思うよ。夢に向かって、利用出来るものは何でも利用して…。その他の些細な事なんて、目を向ける必要はないと思う。だけど、たまにはぼく…。おれの事を、思い出してくれたら嬉しいな」
 「当たり前じゃん。雪兎の事は、一瞬だって忘れるもんかよ。常に思い続けてるんだから、思い出してる暇もねぇや。雪兎こそ、さっさと新しい彼氏に乗り換えたりしておれの事を忘れてんじゃねぇぞ」
 冗談で言ったつもりだったが、思いの外雪兎は深刻そうな顔をした。何かそんな、傷つけるような事を言っちゃったかな?と思い、慌てて取り繕うよう。
 「ご…ごめん。今のは、別に本気で言ったんじゃなくて。そうだよな。雪兎だって、これから色んな経験をするんだもんな。その中で、新しい出会いがあってもおかしくないよな…」
 「こ、こっちこそごめんなさい。そんな風に、受け取った訳じゃないんだ。おれだって、いつまでもあお君を忘れたくない。だけど、怖いんだ…。最近、何だかおかしい。日に日に、自分が自分でなくなっていくような気がして」
 「マジか。雪兎がおかしいのは、今に始まった事じゃねぇと思うけど」
 「真面目に言ってんだから、混ぜっ返さないでよ。その、大した事じゃないんだけど…。最近、うまく力のコントロールが出来なくて。触れる文字がみな、マテリアルに変わってしまったり。そうかと思えば、ちっとも呼び出せない日もあったり。何か周りに影響がある訳じゃないけど、今が夏休みで良かったと思ってる」
 「そう言うもんなんだ?いや、マテリアルの事はよく分からんけど…。何となく、雪兎の気持ちは分かるぜ。おれ達って今、大人へと変化していく真っ最中だからさ。身体も心も、その変化に付いていく事が出来ないんだよ。だけど、誰もがいつかは通る道なんだ。心配しなくても、そのうち慣れていくもんだって。いつの日か、『そんな風に戸惑っていた自分もいたんだなぁ』って思える日が来る。雪兎よりも、ほんのちょっと早く成長期が来た先輩として言わせてもらうぜ」
 「そう…かなぁ。いや。あお君が言うんだから、きっとそうなんだろうね。ありがとう。ちょっと、気が楽になったよ。だけど…やっぱり、今のうちに言っておくね。あお君。おれがもし、君を忘れてしまったとしても…」



 「…いや、ごめんなさい。やっぱり、何でもない。あお君の事は、いつまでだって忘れやしない。サッカー留学、頑張ってね。おれ、現地まで応援に行くから」
 「マジかよ、嬉しいな。雪兎が応援してくれるなら、きっと百人力だ…」
 そう言って、雪兎の身体を優しく抱きしめた。雪兎も特に抵抗する事はなく、そっとおれの身体を抱き返してくれる。そのままキスをして、しばらく二人で舌を絡め合った。
 「…風が、出てきたね」
 「だけどこの風、少し泣いているぜ。いつぞやの新潟旅行みたく、後で体調崩してもつまらねぇしな。そろそろ、旅館に帰るかぁ…。同室のお子様二人が寝付いたら、ヤる事ヤっちゃいます?」
 「ヤりませんよ。そう言うのは、もっと大人になってからね。だけど、日本であお君と会う機会もそう何日も残ってないみたいだし…。何かやり残した事があるなら、ご自由にどうぞ」
 「やったぜ!じゃぁ、おっぱい吸い放題?」
 「放題かは知りませんけど、同室の二人が起きない程度にね。全く、本当におっぱい大好きなんだから。あお君て、しっかりしてるように見えて…。本当は、甘えん坊さんだよね」
 そう言って、雪兎は笑った。その顔からは、先ほど垣間見せた不安などはカケラも感じられなくて…。だからおれは安心して、日本を去る決心がついたんだ。
 
 「あとは、八重歯も舐め放題?」
 「それは、嫌かなぁ」
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