コリン坊っちゃまの秘密の花園

あきら

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マフェット嬢ちゃん

アーアーアー聞こえなーい

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 小さな マフェット嬢ちゃん
 小さな 丘の上に腰をおろし
 少しの チーズを食べていた
 大きな クモがやって来てね
 小さな 嬢ちゃんの横に座る
 大きな 声で叫んで逃げ出す
 小さな マフェット嬢ちゃん

 みなさんこんにちは。コリン改め、メアリー・レノックスだよ。
 例の彼は、ディコンと言う名前であるらしい。態度が大きくて田舎臭いメイド、マーサの弟だとさ。年の頃は17歳。でっかい図体してるから、もうちょい行ってるかと思ったね。しかし、年齢差としてなかなか悪くはないと思わないかい?誰との年齢差かって?
 …僕の事じゃないよ。言ったように、退屈しのぎでやってるだけだけさ。こんな田舎で、他にこれと言った娯楽もないからね。だけど、もう半分は…。
 メアリー。生きていれば、きっとこんな男性と恋の花を咲かす事もあったんじゃないかなぁ。実際、恋に恋い焦がれた話をもしていたものだ。結局は、その花を咲かす前に命が散ってしまった訳だけれど。
 こんな遊びが、彼女にとって何の供養にもならないのは分かっているさ。だけれど、それじゃあまりに…不公平じゃないかと思う。せめて、同世代の少女と同じような喜びを味わってほしい。これは、僕自身にとってのけじめでもあるんだ…。
 付き合わせる彼には、多少申し訳ないとも思うけどね。まぁ、雇用関係でもあるし勘弁して。それに、毎度毎度会う度に赤面する様子を見ていたら…。つい面白くて、やめられなくなって。ほら、今だってそうだよ。
 「ご機嫌よう。ディコン、毎日ご精が出るわね」
 声で、男だとバレないかって?簡単な事さ。声帯を、ちょっと水○いのりのものと交換すれば宜しい。また姉メアリーとのおままごとで、女の子の振りも堂に入っている。あまり、自慢出来るような特技でもないけれどね。
 「ご…ご・ご・ごき・ごきげん…」
 近頃では、流石にそそくさと逃げ出すような事はなくなった。変わらず顔を林檎のように染めて、なんとか回答したよ。あまりに無口なので、最初は言葉が不自由なのかと思ったが…。いや、不自由ではあるのかな。話す際の一音がどうしても詰まったり、繰り返してしまったりするのだそうだ。
 いわゆる、吃音症と言うのかな。これまた、世間で理解されづらく理不尽な思いをしやすい症状だろう。今の時代なんて、もっとだよ。屋敷の使用人どもは、はっきり差別的な態度で彼に接してくるそうだ。おかげで中には住みづらく、離れの小屋にて居を構えているらしい。思った通り、牧童を経て園丁の見習いをしているのだと。
 僕は決して、彼の症状をもって人間性まで劣っているなどと思わないよ。見損なわないでくれたまえ。熱心に話そうとしているのは、彼の真剣な表情を見ればよく分かる。そんな彼を嘲笑おうなど、この世の誰に出来るものか。
 え?そんな彼を、タラしこんで退屈しのぎにしようと思っているのは誰か?アーアーアー聞こえなーい。
 それに繰り返しながら、見た目は麗しい若者だよ。少しばかり筋肉が発達しすぎて、熊のような外見をしているのが玉に瑕だが。屋敷の連中の差別は、多分にやっかみも入っているものと思われるね。
 「そ・そ・それは、奥様の乗っておられたブランコです…」
 彼が言った。ある程度話し続けていると、慣れて少し円滑に喋る事が出来るそうだよ。そして、そのブランコとは庭園内を歩いていて見つけたもの。ずいぶん放置されて寂れていたが、僕の伯母が乗っていた時代物であるらしい。
 「お・お・奥様は、そ・そ・そこで亡くなっておられました…」
 戯れにブランコに乗ってみて、すぐに後悔した。病気によるものか、事故によるものかはたまた…。あまり、考えたくはないなぁ。自分で、自分の命を絶つなどと。まぁ、可能性の一つとして無くはないだろう。
 いずれ、この場所で伯母が亡くなった訳だ…。何の気なしに、ふと乗るようなものでは無かったかな。ブランコから降りようとした僕の肩に、何かが乗ってきたのが見えた。
 唐突に、話は変わるのだけど…。手塚治虫先生の漫画で「大体の人間は、クモかヘビかのどちらかが苦手」って言ってたよね。読者の皆様方は、どちらが嫌いかね?
 僕は、断然クモ派(嫌いって意味でだよ)だね。あの眼、あの脚。およそ、この世の物とは思えない。まぁ、ヘビはヘビで割と嫌いなのだけれど。
 閑話休題。兎に角、僕の肩に乗ったのは巨大なクモであった訳だ。
 「~~~!」
 声にならない声で叫んだのは、不幸中の幸いだ。目の前の彼に、性別がバレずに済んだから。と言うか、そんなに落ち着いている場合ではない。こちらは、逃げようと必死だったんだ。気がつけば、僕はディコンの巨体に抱きついていた…。ち、違う。これは、タラしの一環。あざとさアピールだから!
 「ク・ク・クモですよ。大した事ないです。庭に、溢れかえってまさァ」
 比較的流暢に言って、肩のクモを払いのけてくれた。やだ、イケメン…。今のは、ちょっと格好良かった。

 え?人をタラそうと思っていたつもりが、逆にタラされようとしているって?
 そうはならんやろ。
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