コリン坊っちゃまの秘密の花園

あきら

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誰が駒鳥を殺したの?

なんやこれ。なーんやこれ

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 誰が駒鳥 殺したの
 それは私 とスズメが言った
 私の弓で 私の矢羽で
 私が殺した 駒鳥を

 だ~れが殺した♪って、パ○リロが踊ってたやつだね。詩の起源については、狩猟の最中に何者かに射られたウィリアム2世その他いくつもの説が存在するよ。
 みなさんこんにちは。コリン改めメアリー・レノックスだ。メアリーとしての生活も、すっかり板についてきた。
 一時期と違い、僕自身の機嫌もなかなかに悪くないよ。用事から帰ってきたマーサに、縄跳びをプレゼントされたんだ。それを持って、ひとしきり庭園で遊んでいた次第さ。
 僕の技術を以てすれば、高速3重裏X片足飛びくらい造作もなき事。ただ、女の子の衣装を着ながらするには些かはしたないかな。なので、いかにも初めて縄跳びに触れるような生娘の姿を演じていた。
 お目当ては、もちろんディコンだよ。ほら、今日も今日とて庭作業をしていた。
 「め・め・めあ、メアリー様…。ご・ご・ごご機嫌、うるぁっ…」
 相変わらず、第一声はとても発音しづらいらしい。これは、ある程度仕方のない事だ。吃音がどうとか置いておいて、庭仕事の最中はずっと無言だからね。僕もインドで家族が亡くなった時、何日も誰とも話していなかった。その後初めて喋る時は、言葉の発し方を忘れていたっけ。
 …何だかもう少し、その時の事が懐かしいな。胸の傷みが消えた訳ではないけれど、皆いつかそれを乗り越えて生きて行くのだろう。人生って、そんなものだろうか…。と、こんな所で人生を語っている場合ではない。
 「ご機嫌よう。マーサに聞いたのだけれど、ディコンは動物とお話が出来るって本当?」
 「う…嘘っぱちでさぁ。あんの、アホ姉。お、おれが日がな一日(庭に)入り浸っているから、(屋敷の連中が)根も葉もない噂しやがるだけです…」
 今度は、わりとすらすら言い切った。身内に対しては、なかなかに厳しい評価を下すようだね。身内かぁ…。これまた、懐かしい響きだ。羨ましくないと言えば、嘘になる。
 そう悪く言わずに、マーサを大事にしてやりたまえ。たった一人の、姉なのだから…。と、この姿では言ってやれないのが歯がゆいな。
 「…他にも、マーサから聞いたわ。この屋敷には鍵がかかった庭園があって、もう十年も人が入っていないのですって…?」
 今度は、頭ごなしに否定するような事はしなかった。
 「だ…旦那さまが、奥様のためにこしらえた庭でさ。お、奥様が亡くなられて、誰も中に入らせません。旦那さまが鍵をかけて、穴っコ掘って埋めちまいました」
 「伯母様のため…。あなたは、どうなの。入れないとしても、園丁のあなたなら知っているんではなくって?入り口…秘密の花園の、入り口を」
 ディコンは、何も言わない。知らないのか、知っていてとぼけているのか。朴訥とした田舎者のようだが、こいつはなかなか油断ならない奴かも知れないな。
 そんな事を考えながら、果樹園に入った。そこには一羽の鳥がいて、僕たちを見下ろしていた。人懐っこい駒鳥で、僕たちに呼びかけるように歌う。この囀りに、心が和んだが…。同時に、とてつもない寂寥感が胸を突いた。
 寂寥感…そうだ、僕は寂しいんだ。色々あって、自分が孤独である事も忘れていた。今やっと、悲しむ余裕が出来てきたのだなぁ。気づけば、僕は泣いていたようだ。気づかってか、傍にいたディコンが声をかける。
 「な…泣かないでください。あなたに、涙は似合わない」
 はぁ?いきなり何言ってだ、こいつ!前から思ってたけど、歯の浮くような台詞はえらく流暢に喋るよね?こいつ、天然のタラシかよ…。だけど、思い浮かんだ言葉をそのまま述べる訳にもいかない。
 「ありがとう。ちょっと、ほっとして力が抜けて…。私の、今までの事を聞いてくれる?」
 そうして語った。生まれてからの、インドでの暮らし。両親に放任され、孤独に育った事。そして、突如として襲った不運…。『メアリー』の立場からは弟を亡くした事になるんだろうけど、そこは伏せておいた。同じく弟である彼の前で、軽々と言うべきではない気がする。
 ディコンは真剣に聞いていたが、ふと表情が変わった。ゆっくりと笑みが広がっていき、やがて満面の笑顔となる。お愛想笑いでなく、しっかりと笑った顔を初めて見た。
 くやしいが、笑顔もなかなかにイケメンだと評さざるを得ない。君こそ、そっちの方が似合ってるんじゃないか…。などと、僕はそんな歯の浮くような台詞は言えないな。
 「そ・そ・そうでしたか。た、大変でした。だけど…嬉しいです、おれ、あ、あなたが自分の事を語ってくれて。おれたちは、似ているのかも知れません…」
 「似ている?私たちが?」
 「えぇ。お…おれたちは、元はおんなじ布ですから。完全じゃないし、悩みや苦しみが絶える事がない。だ・だ・だけどそれが、生きるって事です」
 「生きる…」
 「か・かんしゃく持ちだってのも、同じです」
 「言ったわね!誰が、かんしゃく持ちだってのよっ!」
 そう叫んで、笑いながら逃げるディコンを追いかけ回したが…。

 なんやこれ。なーんやこれ。まさか我が人生で、女装してイケメンと庭園をキャッキャウフフしながら駆け回る機会が訪れようとは思わなんだ。
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