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第ニ章
11.
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来た道を戻る。雨の中、迷わないかと不安もあったが大丈夫だった。つまり騒がしい方に行けばよかったから。
と、人に出会う前に馬に出会った。騎手を失って無方向に走ってきたのか息荒いまま、ぽつりと森の中で立っていた。
そこで私も立ち止まった。
どうしよう? 勢いで来たのはいいが、考えてみれば敵より先にどうやってカル達に再会すれば良いのだ? 戦い中の可能性高いよね?
「あ、もしかして、詰んだ?」
我ながら考えなしにも程がないか? とはいえ後悔はない。それはそうと、まだカル生きてるよね? ヴィルマはそう簡単には負けないと思うけど、カルは……?
雨が体に打ちつける。ただ意外と寒くはなかった。身につけているマントはユニハがくれた物だが、雨が染み込まず体温を保ってくれる。これも魔法の力だろうか。だとしたら地味に凄いな。
そうこう考えあぐねていると、思ったより近くで剣を打ち合う音が聞こえてきてぞっとした。借りてきた短剣を確認する。こんなの、役に立たないだろうけど、縋る物が欲しかった。
その時、乗っている馬がブルっと震えた、と思ったら急に走り出した。
「え、ちょっと待って、ねえ!」
小道から完全に外れ、馬は駆けていく。私が乗っている事など突如として忘れ去ったように。私は身を低くしてしがみつくように跨っていることしかできなかった。
と、前から人の気配がしたと思ったら、そこに馬が飛び込むように直進した。
えー!!ちょっと待って!死ぬ!
反射的に身を伏せて目を瞑る。すぐ横を走り抜けていく馬の荒い息遣いがした。怖い、とさえ思わないくらい、混乱する。
うわーー!!
濡れた土を蹴る音、馬の息遣い、木の枝が揺れる音、葉に雨が打ちつけられ、そして、空気を何かが裂く。あ、ダメだ、私っ……!
「お前何してやがる! 殺すところだぞ!」
へ?
知ってる声に目を開けると、斜め前にカルがいた。息の荒い馬を片手で操り勢いを殺しつつ、もう片手に抜き身の剣を中途半端に掲げていた。雨に濡れたそれは切先が折れていたが、滴り落ちる雫が赤く見えた。
「なんでここにいる!」
この三日、聞いたことのない打ちつけるような声色で怒鳴られる。一瞬の安堵は冷水を浴びせられ、体が縮こまりそうだったが負けじと声を出した。
「あなたを探して……」
「馬鹿もほどほどにしろ!」
「しょ、しょうがないでしょ!待ち伏せされてて進めなかったんだもん!」
たぶん、きっと。
カルは舌打ちしたようだった。
「どうしたらいいかわからないし、馬が急に走り出すし……」
彼は今度はわかりやすくため息をつくと、ついてこい、と馬の向きを変える。私は後に従いながら目の端に人影を見た。地面の上、多分絶命してる。でも、それはすぐ視野の後方に流され、やがて森の木々の茂ったところでカルは立ち止まった。
と、人に出会う前に馬に出会った。騎手を失って無方向に走ってきたのか息荒いまま、ぽつりと森の中で立っていた。
そこで私も立ち止まった。
どうしよう? 勢いで来たのはいいが、考えてみれば敵より先にどうやってカル達に再会すれば良いのだ? 戦い中の可能性高いよね?
「あ、もしかして、詰んだ?」
我ながら考えなしにも程がないか? とはいえ後悔はない。それはそうと、まだカル生きてるよね? ヴィルマはそう簡単には負けないと思うけど、カルは……?
雨が体に打ちつける。ただ意外と寒くはなかった。身につけているマントはユニハがくれた物だが、雨が染み込まず体温を保ってくれる。これも魔法の力だろうか。だとしたら地味に凄いな。
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その時、乗っている馬がブルっと震えた、と思ったら急に走り出した。
「え、ちょっと待って、ねえ!」
小道から完全に外れ、馬は駆けていく。私が乗っている事など突如として忘れ去ったように。私は身を低くしてしがみつくように跨っていることしかできなかった。
と、前から人の気配がしたと思ったら、そこに馬が飛び込むように直進した。
えー!!ちょっと待って!死ぬ!
反射的に身を伏せて目を瞑る。すぐ横を走り抜けていく馬の荒い息遣いがした。怖い、とさえ思わないくらい、混乱する。
うわーー!!
濡れた土を蹴る音、馬の息遣い、木の枝が揺れる音、葉に雨が打ちつけられ、そして、空気を何かが裂く。あ、ダメだ、私っ……!
「お前何してやがる! 殺すところだぞ!」
へ?
知ってる声に目を開けると、斜め前にカルがいた。息の荒い馬を片手で操り勢いを殺しつつ、もう片手に抜き身の剣を中途半端に掲げていた。雨に濡れたそれは切先が折れていたが、滴り落ちる雫が赤く見えた。
「なんでここにいる!」
この三日、聞いたことのない打ちつけるような声色で怒鳴られる。一瞬の安堵は冷水を浴びせられ、体が縮こまりそうだったが負けじと声を出した。
「あなたを探して……」
「馬鹿もほどほどにしろ!」
「しょ、しょうがないでしょ!待ち伏せされてて進めなかったんだもん!」
たぶん、きっと。
カルは舌打ちしたようだった。
「どうしたらいいかわからないし、馬が急に走り出すし……」
彼は今度はわかりやすくため息をつくと、ついてこい、と馬の向きを変える。私は後に従いながら目の端に人影を見た。地面の上、多分絶命してる。でも、それはすぐ視野の後方に流され、やがて森の木々の茂ったところでカルは立ち止まった。
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