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第ニ章
13. 闘う
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雨が降り続く。
カルのマントのフードは頭部から外れていて黒い髪がじっとり濡れていた。髪先がマントの中へ冷たい雨水を伝えている。それはリアムも同じであったが、二人とも雨が降っていることなど気にも止めてないようだった。
「リアム、俺にはやっぱりわからない」
「……」
「なんでこんなことになる?」
「本気で言っているならそれが理由だ」
「……」
言葉は途切れそのまま睨み合う。いや、睨んでるのは片方だけで一方は力が入っていない。ただ、隙もなかった。
「なんていうかさ、今回お前もしつこくない?」
カルがわざとらしい気安さで言う。
「確かにしつこいかもな。俺も飽きた。そろそろおしまいにしたい」
そのリアムの言葉にカルは幾分まじめに答えた。
「故郷に戻って穏やかに暮らせ。じゃあな」
「……その故郷とやらを壊そうとしておいてよく言う!」
リアムは叫ぶと剣を振るった。唐突ともいえる動きにだがカルは滑らかに対処した。剣先を受け止め逃すと反撃する。相手が防御に出ると注意深く再び間合いをとった。
「壊したことなんてないぞ。むしろ俺たちの里は保護され続けてきている」
「宝を、いや、魂を売った張本人がっ!」
「知るか。 何言ってんだ!」
本気の剣を交わす。リアムは殺気を隠さず、カルはそれを逃す事に本気を出していた。雨音の中に剣を撃ち合う音が響く。そしてそれにいく頭かの馬の足踏みの音と低いざわめきのような人の声が途切れ途切れに混ざる。
「壊しているんだよ! お前はいつだって。俺たちが守ってきた技を帝国のヤツに流しただろうが」
「それがどうした」
「……死ね! 十分な理由だ!」
実力は五分五分に見えた。あと一歩でお互いに届かない。折れた剣と折れない剣が交差したまま睨み合う。
「聞け、リアム」
「うるさい」
「売ったわけじゃない。可能性のあるヤツに見せただけだ」
「なんの可能性だ」
「俺たちの技を広げられる可能性だ」
「それを」
リアムが踏み込む。
「それを売り渡したというんだよ!」
叫びと共に打ち込まれた剣先がカルの左頬を掠めた。血が滲む。それが、雨に流れて頬を赤く染めた。
「ちっ」
カルは頬を拭うと苛つきを隠さずリアムに言う。
「後生大事にする時間は終わったんだ。お前だってわかっているはずだ。もう、俺たちには無理なんだ。無くなるばかりだ。ユニハに掻き集めさせてもアイツにだって限界がある」
「だから売るのか。いい商売だ。泥棒稼業だな」
リアムの皮肉っぽい言い回しをカルは無視する。
「だから売ってはいない」
「無料というならもっと馬鹿だ」
「聞けよ。俺たちが無理でも無理じゃない奴がいるかもしれないだろ」
「ウーヴェルが代々受け継いだものを俺たち以上に? 笑わせるな」
「だからこそ、だよ。知らないからこそだ」
「それは既に別物だ」
「だとしても何かしらは残るかもしれない。誰かが有用な使い方を見つけるかもしれない。……どちらにしろもう無理なのはわかっているだろう。まともに扱えるのはユニハと数人なんだぞ」
視線をお互いから逸らす事のない二人の間に、ただ雨だけが分け入っていた。
リアムがふいに穏やかとさえ言えるような静かな声で言った。
「だとしたら俺たちの手の内で消え去せてやればいいんだ。俺たちのものなんだから。ずっと、そうだったんだから」
カルもまた落ち着いた声で答えた。
「……価値あるものは誰のものでもない。離さないとウーヴェルの民そのものが駄目になる」
「そうなるなら、それも含めて大事に看取ればいい。どうせ壊れるなら。……お前には出来たはずだ」
「…………」
暫しの沈黙の後、カルは答えた。
「……俺には無理だ、リアム。そこまでタフじゃない。お前とは違う」
リアムは眉を寄せて苦々しげに言った。
「ごまかすな、くだらない」
交わらない会話にカルは小さく息を吐いた。
カルのマントのフードは頭部から外れていて黒い髪がじっとり濡れていた。髪先がマントの中へ冷たい雨水を伝えている。それはリアムも同じであったが、二人とも雨が降っていることなど気にも止めてないようだった。
「リアム、俺にはやっぱりわからない」
「……」
「なんでこんなことになる?」
「本気で言っているならそれが理由だ」
「……」
言葉は途切れそのまま睨み合う。いや、睨んでるのは片方だけで一方は力が入っていない。ただ、隙もなかった。
「なんていうかさ、今回お前もしつこくない?」
カルがわざとらしい気安さで言う。
「確かにしつこいかもな。俺も飽きた。そろそろおしまいにしたい」
そのリアムの言葉にカルは幾分まじめに答えた。
「故郷に戻って穏やかに暮らせ。じゃあな」
「……その故郷とやらを壊そうとしておいてよく言う!」
リアムは叫ぶと剣を振るった。唐突ともいえる動きにだがカルは滑らかに対処した。剣先を受け止め逃すと反撃する。相手が防御に出ると注意深く再び間合いをとった。
「壊したことなんてないぞ。むしろ俺たちの里は保護され続けてきている」
「宝を、いや、魂を売った張本人がっ!」
「知るか。 何言ってんだ!」
本気の剣を交わす。リアムは殺気を隠さず、カルはそれを逃す事に本気を出していた。雨音の中に剣を撃ち合う音が響く。そしてそれにいく頭かの馬の足踏みの音と低いざわめきのような人の声が途切れ途切れに混ざる。
「壊しているんだよ! お前はいつだって。俺たちが守ってきた技を帝国のヤツに流しただろうが」
「それがどうした」
「……死ね! 十分な理由だ!」
実力は五分五分に見えた。あと一歩でお互いに届かない。折れた剣と折れない剣が交差したまま睨み合う。
「聞け、リアム」
「うるさい」
「売ったわけじゃない。可能性のあるヤツに見せただけだ」
「なんの可能性だ」
「俺たちの技を広げられる可能性だ」
「それを」
リアムが踏み込む。
「それを売り渡したというんだよ!」
叫びと共に打ち込まれた剣先がカルの左頬を掠めた。血が滲む。それが、雨に流れて頬を赤く染めた。
「ちっ」
カルは頬を拭うと苛つきを隠さずリアムに言う。
「後生大事にする時間は終わったんだ。お前だってわかっているはずだ。もう、俺たちには無理なんだ。無くなるばかりだ。ユニハに掻き集めさせてもアイツにだって限界がある」
「だから売るのか。いい商売だ。泥棒稼業だな」
リアムの皮肉っぽい言い回しをカルは無視する。
「だから売ってはいない」
「無料というならもっと馬鹿だ」
「聞けよ。俺たちが無理でも無理じゃない奴がいるかもしれないだろ」
「ウーヴェルが代々受け継いだものを俺たち以上に? 笑わせるな」
「だからこそ、だよ。知らないからこそだ」
「それは既に別物だ」
「だとしても何かしらは残るかもしれない。誰かが有用な使い方を見つけるかもしれない。……どちらにしろもう無理なのはわかっているだろう。まともに扱えるのはユニハと数人なんだぞ」
視線をお互いから逸らす事のない二人の間に、ただ雨だけが分け入っていた。
リアムがふいに穏やかとさえ言えるような静かな声で言った。
「だとしたら俺たちの手の内で消え去せてやればいいんだ。俺たちのものなんだから。ずっと、そうだったんだから」
カルもまた落ち着いた声で答えた。
「……価値あるものは誰のものでもない。離さないとウーヴェルの民そのものが駄目になる」
「そうなるなら、それも含めて大事に看取ればいい。どうせ壊れるなら。……お前には出来たはずだ」
「…………」
暫しの沈黙の後、カルは答えた。
「……俺には無理だ、リアム。そこまでタフじゃない。お前とは違う」
リアムは眉を寄せて苦々しげに言った。
「ごまかすな、くだらない」
交わらない会話にカルは小さく息を吐いた。
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