仮面の王と風吹く国の姫君

藤野ひま

文字の大きさ
56 / 89
第ニ章

13. 闘う

しおりを挟む
 雨が降り続く。

 カルのマントのフードは頭部から外れていて黒い髪がじっとり濡れていた。髪先がマントの中へ冷たい雨水を伝えている。それはリアムも同じであったが、二人とも雨が降っていることなど気にも止めてないようだった。

「リアム、俺にはやっぱりわからない」
「……」
「なんでこんなことになる?」
「本気で言っているならそれが理由だ」
「……」

 言葉は途切れそのまま睨み合う。いや、睨んでるのは片方だけで一方は力が入っていない。ただ、隙もなかった。

「なんていうかさ、今回お前もしつこくない?」

 カルがわざとらしい気安さで言う。

「確かにしつこいかもな。俺も飽きた。そろそろおしまいにしたい」

 そのリアムの言葉にカルは幾分まじめに答えた。

「故郷に戻って穏やかに暮らせ。じゃあな」
「……その故郷とやらを壊そうとしておいてよく言う!」

 リアムは叫ぶと剣を振るった。唐突ともいえる動きにだがカルは滑らかに対処した。剣先を受け止め逃すと反撃する。相手が防御に出ると注意深く再び間合いをとった。

「壊したことなんてないぞ。むしろ俺たちの里は保護され続けてきている」
「宝を、いや、魂を売った張本人がっ!」
「知るか。 何言ってんだ!」

 本気の剣を交わす。リアムは殺気を隠さず、カルはそれを逃す事に本気を出していた。雨音の中に剣を撃ち合う音が響く。そしてそれにいく頭かの馬の足踏みの音と低いざわめきのような人の声が途切れ途切れに混ざる。

「壊しているんだよ! お前はいつだって。俺たちが守ってきた技を帝国のヤツに流しただろうが」
「それがどうした」
「……死ね! 十分な理由だ!」

 実力は五分五分に見えた。あと一歩でお互いに届かない。折れた剣と折れない剣が交差したまま睨み合う。

「聞け、リアム」
「うるさい」
「売ったわけじゃない。可能性のあるヤツに見せただけだ」
「なんの可能性だ」
「俺たちの技を広げられる可能性だ」
「それを」

 リアムが踏み込む。

「それを売り渡したというんだよ!」

 叫びと共に打ち込まれた剣先がカルの左頬を掠めた。血が滲む。それが、雨に流れて頬を赤く染めた。

「ちっ」

 カルは頬を拭うと苛つきを隠さずリアムに言う。

「後生大事にする時間は終わったんだ。お前だってわかっているはずだ。もう、俺たちには無理なんだ。無くなるばかりだ。ユニハに掻き集めさせてもアイツにだって限界がある」
「だから売るのか。いい商売だ。泥棒稼業だな」

 リアムの皮肉っぽい言い回しをカルは無視する。

「だから売ってはいない」
無料タダというならもっと馬鹿だ」
「聞けよ。俺たちが無理でも無理じゃない奴がいるかもしれないだろ」
「ウーヴェルが代々受け継いだものを俺たち以上に? 笑わせるな」
「だからこそ、だよ。知らないからこそだ」
「それは既に別物だ」
「だとしても何かしらは残るかもしれない。誰かが有用な使い方を見つけるかもしれない。……どちらにしろもう無理なのはわかっているだろう。まともに扱えるのはユニハと数人なんだぞ」

 視線をお互いから逸らす事のない二人の間に、ただ雨だけが分け入っていた。
 リアムがふいに穏やかとさえ言えるような静かな声で言った。

「だとしたら俺たちの手の内で消え去せてやればいいんだ。俺たちのものなんだから。ずっと、そうだったんだから」

 カルもまた落ち着いた声で答えた。

「……価値あるものは誰のものでもない。離さないとウーヴェルの民そのものが駄目になる」
「そうなるなら、それも含めて大事に看取ればいい。どうせ壊れるなら。……お前には出来たはずだ」
「…………」

 暫しの沈黙の後、カルは答えた。

「……俺には無理だ、リアム。そこまでタフじゃない。お前とは違う」

 リアムは眉を寄せて苦々しげに言った。

「ごまかすな、くだらない」

 交わらない会話にカルは小さく息を吐いた。





 

 
 







 




 
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】そんなに好きなら、そっちへ行けば?

雨雲レーダー
恋愛
侯爵令嬢クラリスは、王太子ユリウスから一方的に婚約破棄を告げられる。 理由は、平民の美少女リナリアに心を奪われたから。 クラリスはただ微笑み、こう返す。 「そんなに好きなら、そっちへ行けば?」 そうして物語は終わる……はずだった。 けれど、ここからすべてが狂い始める。 *完結まで予約投稿済みです。 *1日3回更新(7時・12時・18時)

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

処理中です...