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第三章
17.
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カルは笑みを浮かべながら話しを続けた。
「俺、つまり王に見せかけたエイスを相手側は狙う、ように見せかけて実は偽物だと知っているから主力は俺を狙う。それでなくても隣にはお姫様がいる、同時に確保できたら万々歳だ。だが思ったよりも上手くいかない、焦った敵は……」
「いや、待って。王様がほっつき歩く事になんでみんな疑問を抱かないの?」
「えー、それはつまりー」
と言ったところでカルは肩をすくめた。
「常習犯なのね?」
「散歩が趣味なんだ」
散歩って……。そういえばこの人、やけに楽しそうに歩いていたわね。
「で、焦った敵は兵を増やす。千載一遇の機会を逃すわけにはいかないからな。少しはおかしいと思ったとは思うぜ? それでも俺の命がとれれば全部問題なくなるからな」
「次代はエイス様なんでしょう?」
「まあね、でも今の俺が指名したくらいでは求心力は正直ない。なんとでもなると考えたろうし、それは正しい」
「だったらやっぱり無茶は無茶じゃない!」
言ってる言葉がおかしいのはわかってるけど……でもだって無茶がすぎるわ!
「確信がなかっただけで死ぬ気はなかったし」
「そんな事では……」
「それに俺、死ににくいんだ。そう言うのにかかっている」
私はひどく驚いた。そんな古の秘められた力がどこに現存していたの? 聖乙女だってそんな祝福は持っていなかった。
「え、そんな祝福をあなたが……?」
あまり信じられない。
「祝福っていうより、呪いに近い。それにまあ、絶対ではないしな」
呪い。嫌な言葉。
「それもまたそのうちでいいか? 話してたら終わらない」
「そう、ね……」
本当にいつか話してくれる気があるのかあやしいものだけど。
「それにほら。謎がある男のほうが魅力的だろ?」
私はもう一度靴を投げたくなった。拾ってこなくて正解だったわね。
「もう、いいわ。それで? エイス様への監視を減らしてどうしたかったの?」
「呆れた顔をした割にはするどいな」
……やっぱり靴を拾ってこようかしら。私、素手で人を叩いたりした事はないのよね、体験すべきかしら?
「怖い顔するなって。でもエイスへのそれは多分あまり変わってなかったと思う。だがあいつが動かしている人間へは目が行き届かなくなる。そして狩に夢中になると自分の背後に気が回らなくなるもんだ。実際あいつら多分、わかってなかったんだ。いつも二人でいる俺らが別れれば力が落ちると思ってたと思うぜ? でも」
「違うのね?」
カルはどこか誇らしげに笑った。
「違う。エイスは俺より優秀だ。俺の指示なんか必要としない。俺はあいつが動きやすいようにしてやればよかった」
私はそう語るカルを眩しく感じた。眩しいくらいの信頼関係が二人の間にはある。
そして、彼らが目指した先は……?
「それで、彼らは失敗した。 あなたとエイス様がここにいるという事は」
「そう、ぎりぎりだったけどな」
「あなた達は?」
言葉には出しにくかった。
あなたは前皇太子を、兄を捕らえたの?
「残念ながらこちらも半分ってとこ」
「え?」
「大本までは手が出せなかった。でも最大の兄の協力者の一人を捕らえられた。今は幽閉中だ。そいつだけでも大芝居うった価値はある。ただ城内でも権力を持っていたからまだ暫くはごたつく。悪いな」
「そう……それは、まあ……」
しょうがないと思う。私に言わなかった理由も察せられた。要するに何かあった時に私からいろいろ漏れても困ると言う事だろう。第一まだ部外者なのだ。自国の暗部なんかいちいち晒さない。とは、思うけど、結婚しに来てまだ式もしない内からゴタゴタの中に放り込まれた感が凄いわ。なにしろ……。
「王自ら、それも王妃つきで囮にするなんて……」
「大物を釣るにはそれくらいしないとな。結局失敗したけど。それに正直ここまで追い込まれるとは思わなかった」
「危なかったわね」
「結構ね。リアムが出てくるとは思ってなかったし……何ならあんたはユニハの所に置いてくるつもりだったし」
「……ごめんなさい」
なんであそこであんな風に我を張ったのか、自分でもよくわからない。
「いいさ、別に。事情を知らないんだし。……それにあんたがいたから助かった。いなかったら死んでてもおかしくない」
私は横にいるカルを見上げた。
「なんだよ」
カルは訝しげに眉を寄せた。
「あなたそれで」
そこまで言って私は姿勢を正すと言い直した。
「陛下はそれで、まだ私と結婚なさる意思はおありなのですか?」
「は?」
カルは驚いた表情で私を見た。
「俺、つまり王に見せかけたエイスを相手側は狙う、ように見せかけて実は偽物だと知っているから主力は俺を狙う。それでなくても隣にはお姫様がいる、同時に確保できたら万々歳だ。だが思ったよりも上手くいかない、焦った敵は……」
「いや、待って。王様がほっつき歩く事になんでみんな疑問を抱かないの?」
「えー、それはつまりー」
と言ったところでカルは肩をすくめた。
「常習犯なのね?」
「散歩が趣味なんだ」
散歩って……。そういえばこの人、やけに楽しそうに歩いていたわね。
「で、焦った敵は兵を増やす。千載一遇の機会を逃すわけにはいかないからな。少しはおかしいと思ったとは思うぜ? それでも俺の命がとれれば全部問題なくなるからな」
「次代はエイス様なんでしょう?」
「まあね、でも今の俺が指名したくらいでは求心力は正直ない。なんとでもなると考えたろうし、それは正しい」
「だったらやっぱり無茶は無茶じゃない!」
言ってる言葉がおかしいのはわかってるけど……でもだって無茶がすぎるわ!
「確信がなかっただけで死ぬ気はなかったし」
「そんな事では……」
「それに俺、死ににくいんだ。そう言うのにかかっている」
私はひどく驚いた。そんな古の秘められた力がどこに現存していたの? 聖乙女だってそんな祝福は持っていなかった。
「え、そんな祝福をあなたが……?」
あまり信じられない。
「祝福っていうより、呪いに近い。それにまあ、絶対ではないしな」
呪い。嫌な言葉。
「それもまたそのうちでいいか? 話してたら終わらない」
「そう、ね……」
本当にいつか話してくれる気があるのかあやしいものだけど。
「それにほら。謎がある男のほうが魅力的だろ?」
私はもう一度靴を投げたくなった。拾ってこなくて正解だったわね。
「もう、いいわ。それで? エイス様への監視を減らしてどうしたかったの?」
「呆れた顔をした割にはするどいな」
……やっぱり靴を拾ってこようかしら。私、素手で人を叩いたりした事はないのよね、体験すべきかしら?
「怖い顔するなって。でもエイスへのそれは多分あまり変わってなかったと思う。だがあいつが動かしている人間へは目が行き届かなくなる。そして狩に夢中になると自分の背後に気が回らなくなるもんだ。実際あいつら多分、わかってなかったんだ。いつも二人でいる俺らが別れれば力が落ちると思ってたと思うぜ? でも」
「違うのね?」
カルはどこか誇らしげに笑った。
「違う。エイスは俺より優秀だ。俺の指示なんか必要としない。俺はあいつが動きやすいようにしてやればよかった」
私はそう語るカルを眩しく感じた。眩しいくらいの信頼関係が二人の間にはある。
そして、彼らが目指した先は……?
「それで、彼らは失敗した。 あなたとエイス様がここにいるという事は」
「そう、ぎりぎりだったけどな」
「あなた達は?」
言葉には出しにくかった。
あなたは前皇太子を、兄を捕らえたの?
「残念ながらこちらも半分ってとこ」
「え?」
「大本までは手が出せなかった。でも最大の兄の協力者の一人を捕らえられた。今は幽閉中だ。そいつだけでも大芝居うった価値はある。ただ城内でも権力を持っていたからまだ暫くはごたつく。悪いな」
「そう……それは、まあ……」
しょうがないと思う。私に言わなかった理由も察せられた。要するに何かあった時に私からいろいろ漏れても困ると言う事だろう。第一まだ部外者なのだ。自国の暗部なんかいちいち晒さない。とは、思うけど、結婚しに来てまだ式もしない内からゴタゴタの中に放り込まれた感が凄いわ。なにしろ……。
「王自ら、それも王妃つきで囮にするなんて……」
「大物を釣るにはそれくらいしないとな。結局失敗したけど。それに正直ここまで追い込まれるとは思わなかった」
「危なかったわね」
「結構ね。リアムが出てくるとは思ってなかったし……何ならあんたはユニハの所に置いてくるつもりだったし」
「……ごめんなさい」
なんであそこであんな風に我を張ったのか、自分でもよくわからない。
「いいさ、別に。事情を知らないんだし。……それにあんたがいたから助かった。いなかったら死んでてもおかしくない」
私は横にいるカルを見上げた。
「なんだよ」
カルは訝しげに眉を寄せた。
「あなたそれで」
そこまで言って私は姿勢を正すと言い直した。
「陛下はそれで、まだ私と結婚なさる意思はおありなのですか?」
「は?」
カルは驚いた表情で私を見た。
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