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第三章
18.
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「でも貴方はそんな者にならなくていいからな、リリ」
え?
抱きしめられてどこかぼうっとしたまま思う。今なんて呼んだ?
「えっ? なに?」
「だから聖女なんて必要ないって……」
「そうじゃなくて」
カルは腕をゆるめると、私の顔を覗き込むように見た。先程と違ってからかうような笑顔で。
「愛称がないって言ってたろ? だから。でも俺以外に呼ばせるのは禁止。命令」
そう言って額に口づけした。
ちょっと待って。あ、愛称って……、私の呼び名? え、不意打ちじゃない!
「め、命令っていきなり王様みたいね」
私は胸の高鳴りを誤魔化したくて言ってみる。
「実は俺、王様だからな」
カルは笑った。それからまた抱きしめられた。
「……前から思ってたけど、あんた体温高いよな。あったかい」
え。また、あんた呼びになってる。
それはいいとして、体温高いって何?なんなの? あたたかい? 子ども? 子どもっぽいってこと?
会ったことは勿論ないのだけれど、美しいと何度も形容されていたイルシーヴァが頭に浮かぶ。ああ、なんだかもう、ぐるぐるしちゃうんだけど!
「そ、そんな事ないと思うわ」
「そう?」
「そうよ、ただ単にその、貴方が抱きしめるとドキドキするからってだけで!」
……あ、しまった……。
私の肩に置かれた彼の頭部から、ゆっくりと笑いが伝わってきた。
ああ、何これ、もう。
私は笑っているカルを引き離した。すっごい楽しそうに笑っている。私は顔が真っ赤になっているのを自覚する。
「笑わないで」
「ごめん」
そう言いながらソファの背に置いた腕に顔を伏せながらまだ笑っている。
「忘れて」
「…………」
彼は答えない。笑ってる。
「わ・す・れ・て!」
私が力を込めて言うと、やっと「ごめん、ごめん、わかった、わかった」と、なんとか止めてくれる。
でも私を見つめるその顔に、まだ笑いが残ってる。そして私は、まだ顔があつい。
カルは赤くなったまま不貞腐れている私の頬を両手で挟んでぎゅっと押した。私は思わず目を瞑る。
「何するの」
声がくぐもる。
「可愛い」
どうしろというのよ……。ますますぐるぐるしちゃうじゃない!
「もう、離して」
離そうとして彼を押したがびくともせず、逆にカルは私に近づいて口づけする。それから引き寄せて抱きしめられ、優しい手つきで頭を撫でられた。
ドキドキが落ち着いてふんわりとした喜びがやってくる。愛しい人に心が振り回されるというのは何て甘美なのだろう。それは知らなかった甘さだった。
え?
抱きしめられてどこかぼうっとしたまま思う。今なんて呼んだ?
「えっ? なに?」
「だから聖女なんて必要ないって……」
「そうじゃなくて」
カルは腕をゆるめると、私の顔を覗き込むように見た。先程と違ってからかうような笑顔で。
「愛称がないって言ってたろ? だから。でも俺以外に呼ばせるのは禁止。命令」
そう言って額に口づけした。
ちょっと待って。あ、愛称って……、私の呼び名? え、不意打ちじゃない!
「め、命令っていきなり王様みたいね」
私は胸の高鳴りを誤魔化したくて言ってみる。
「実は俺、王様だからな」
カルは笑った。それからまた抱きしめられた。
「……前から思ってたけど、あんた体温高いよな。あったかい」
え。また、あんた呼びになってる。
それはいいとして、体温高いって何?なんなの? あたたかい? 子ども? 子どもっぽいってこと?
会ったことは勿論ないのだけれど、美しいと何度も形容されていたイルシーヴァが頭に浮かぶ。ああ、なんだかもう、ぐるぐるしちゃうんだけど!
「そ、そんな事ないと思うわ」
「そう?」
「そうよ、ただ単にその、貴方が抱きしめるとドキドキするからってだけで!」
……あ、しまった……。
私の肩に置かれた彼の頭部から、ゆっくりと笑いが伝わってきた。
ああ、何これ、もう。
私は笑っているカルを引き離した。すっごい楽しそうに笑っている。私は顔が真っ赤になっているのを自覚する。
「笑わないで」
「ごめん」
そう言いながらソファの背に置いた腕に顔を伏せながらまだ笑っている。
「忘れて」
「…………」
彼は答えない。笑ってる。
「わ・す・れ・て!」
私が力を込めて言うと、やっと「ごめん、ごめん、わかった、わかった」と、なんとか止めてくれる。
でも私を見つめるその顔に、まだ笑いが残ってる。そして私は、まだ顔があつい。
カルは赤くなったまま不貞腐れている私の頬を両手で挟んでぎゅっと押した。私は思わず目を瞑る。
「何するの」
声がくぐもる。
「可愛い」
どうしろというのよ……。ますますぐるぐるしちゃうじゃない!
「もう、離して」
離そうとして彼を押したがびくともせず、逆にカルは私に近づいて口づけする。それから引き寄せて抱きしめられ、優しい手つきで頭を撫でられた。
ドキドキが落ち着いてふんわりとした喜びがやってくる。愛しい人に心が振り回されるというのは何て甘美なのだろう。それは知らなかった甘さだった。
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