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第三章
19.
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先導の司祭の後ろに二人の司祭、近衛隊長、近衛兵数名、立会人、私たち、付き添い人二人、再び近衛兵、その後ろに侍従や侍女たち数名が付き添ってきている。
城の北側にある教会の入り口までこの列は続き、そこから侍従と侍女は下がり、最終的に教会の神の前に立つのは、司祭を抜けば新郎新婦と付き添い人及び立会人になる。
と、窓の開け放たれた廊下を歩いていると、いきなりわっというような賑やかなざわめきがした。
「広間に民衆が入って来たのでしょう」
そう、ヴィルマが言った。式の後、城内の広間に集まった人々に向けてのお披露目があるのだ。よくよく耳をすますと、遠くに楽器の音色やら少々騒がしげな音も聞こえる。
「久しぶりにお祭り騒ぎだなあ、いいよな、俺も行きたい」
今日の主役が隣で言う。
「何を言っているんですか、抜け出さないで下さいよ。夕方からは賓客招いての晩餐会ですからね」
エイスの念押しにカルは眉をひそめた。私は思わず笑ってしまったが、実のところ、カルの気持ちはわかる気がした。
諸侯たちを招いての食事なんて考えただけで大丈夫かしらって心配だし、城下は城からも酒や食べ物が振るまわれ大道芸人や踊り子たちも集まり、かなり賑わっているらしい。楽しそうで覗いてみたい。何より人々が喜んでくれているなら嬉しいと思う。
そんな事を考えながら北側に進むと、やがて賑やかな音は遠くなった。列は衣擦れの音をさせつつ静かに進む。
城から教会に続く回廊に出ると陽が降り注いで丸く廊下に影を抜いていた。回廊の外は中庭で、花壇には秋の花々が咲き水鉢には小鳥がとまって水を飲んでいた。
「綺麗」
私は思わず呟いた。
「この庭は教会側の管理だからな、綺麗にしてるね。南側にもう一つ中庭がある。あっちは王族専用らしいけど俺は興味ないし、気になるなら好きにしていいぞ」
カルの言葉に私は聞く。
「庭はお嫌い?」
「どうかな、作った庭よりは森のほうが好きかな」
そう彼は答える。私はカルと庭を歩くのを想ってちょっと恥ずかしいような心持ちになる。そして同時に、もう一度、今度はゆっくりと彼と森を歩きたいなと思う。きっと、どちらも叶えることができるだろう、そう思うと嬉しかった。叶うこともだけれど、叶えたいと思うささやかな想いを抱けることが。
回廊の先には階段と、その向こうに教会の重厚な木の扉があった。頭を下げる侍従たちを後にすると後ろで扉の閉まる音がした。
そこは風の間と言われる広間だった。窓は開け放たれ風が通り、色のついた硝子が陽を受けて床にとりどりの色を滲ませていた。広間からつづく礼拝のための部屋の扉はまだ閉められている。
司祭がその扉を開けようと手を伸ばした時、後ろで閉められていた扉が、重い音をたてて再び開いた。
城の北側にある教会の入り口までこの列は続き、そこから侍従と侍女は下がり、最終的に教会の神の前に立つのは、司祭を抜けば新郎新婦と付き添い人及び立会人になる。
と、窓の開け放たれた廊下を歩いていると、いきなりわっというような賑やかなざわめきがした。
「広間に民衆が入って来たのでしょう」
そう、ヴィルマが言った。式の後、城内の広間に集まった人々に向けてのお披露目があるのだ。よくよく耳をすますと、遠くに楽器の音色やら少々騒がしげな音も聞こえる。
「久しぶりにお祭り騒ぎだなあ、いいよな、俺も行きたい」
今日の主役が隣で言う。
「何を言っているんですか、抜け出さないで下さいよ。夕方からは賓客招いての晩餐会ですからね」
エイスの念押しにカルは眉をひそめた。私は思わず笑ってしまったが、実のところ、カルの気持ちはわかる気がした。
諸侯たちを招いての食事なんて考えただけで大丈夫かしらって心配だし、城下は城からも酒や食べ物が振るまわれ大道芸人や踊り子たちも集まり、かなり賑わっているらしい。楽しそうで覗いてみたい。何より人々が喜んでくれているなら嬉しいと思う。
そんな事を考えながら北側に進むと、やがて賑やかな音は遠くなった。列は衣擦れの音をさせつつ静かに進む。
城から教会に続く回廊に出ると陽が降り注いで丸く廊下に影を抜いていた。回廊の外は中庭で、花壇には秋の花々が咲き水鉢には小鳥がとまって水を飲んでいた。
「綺麗」
私は思わず呟いた。
「この庭は教会側の管理だからな、綺麗にしてるね。南側にもう一つ中庭がある。あっちは王族専用らしいけど俺は興味ないし、気になるなら好きにしていいぞ」
カルの言葉に私は聞く。
「庭はお嫌い?」
「どうかな、作った庭よりは森のほうが好きかな」
そう彼は答える。私はカルと庭を歩くのを想ってちょっと恥ずかしいような心持ちになる。そして同時に、もう一度、今度はゆっくりと彼と森を歩きたいなと思う。きっと、どちらも叶えることができるだろう、そう思うと嬉しかった。叶うこともだけれど、叶えたいと思うささやかな想いを抱けることが。
回廊の先には階段と、その向こうに教会の重厚な木の扉があった。頭を下げる侍従たちを後にすると後ろで扉の閉まる音がした。
そこは風の間と言われる広間だった。窓は開け放たれ風が通り、色のついた硝子が陽を受けて床にとりどりの色を滲ませていた。広間からつづく礼拝のための部屋の扉はまだ閉められている。
司祭がその扉を開けようと手を伸ばした時、後ろで閉められていた扉が、重い音をたてて再び開いた。
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