ハズレスキルで世界革命

鈴磁星 龍襲

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#2 選ばれたのはハズレスキルでした

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「やった! あたし、ママと同じサイだって!」

「飛舞空だったよー!」

 死んだ顔で順番を待つ子と、判定を終えた子はまるで別人だ。

 馬鹿煩い金切り声、手振りまで煩い。
 でもそれを許してしまうぐらいの愛らしい満面の笑みで、自分のスキルを親に知らせる子供たち。

 まるで、何かを避けれたのを喜んでいるように見えるが……。


 ……おっと。

 サポートらしい、これまた俺と同い年ぐらい(精神年齢の方)の可愛い姉ちゃんが、俺を見ながら手をパタパタさせている。

 もう俺か。
 判定を行う場所はいくつかあり、また俺がここに来た時点で殆どの子が判定を終えていたので、並んですぐに番が巡ってきた。


 その女の側によると、食パンみたいな形をした灰色の石版が、丁度俺のへそあたりの高さに浮いていた。

 明らかに非科学的な現象であったが、もう驚きはしなかった。
 人が翼で飛ぶのだから、石だって勝手に浮くだろう。

「はい、判定石に右手を置いてください~」


 よーし、外れでも当たりでもない、普通のスキル来い、普通のスキル来い!


 石版に彫られた手の模様に、己の手のひらを合わせた。

 この石は、ずっとこうやって色々な奴の手のひらを乗せてきたはずだというのに、まるで長時間冷凍室で放置されたかってぐらい冷たかった。


 見た目に反した温度に内心ビビって数秒後。

 俺の中へ、手を通してエネルギーが流れ込んでくるような感覚を得た。
 そしてほぼ同時に、ホログラムのように、文字列が宙に浮かび上がる。

「スキル 武器生成……」


 言葉の意味は、一瞬で理解できた。


 さっき入ってきたエネルギーとは、このスキルについての知識だったのだ。


 このスキルの名前、発現方法がいつの間にかあたかも既存の知識だったと言わんばかりに理解できている。
 脳にメモリーカードでもぶち込まれた気分だ。


 このスキルは、名の通り武器を生成出来る。

 剣、弓、槍、槌……武器なら何でも好きな種類を、好きなときに一個だけ、自分の魔力とやらを利用して、無から生み出せる。

 そして、好きな時に消せる。


 結構便利そうで面白いスキルじゃあないの。
 包丁だって武器だし、フライパンも武器って思えば武器だし、結構色んな道具を呼び出せそうだ。

 スキル鑑定も済んだし、さっさと退散して試したいねぇ。
 この辺の路地裏にでも行こうかな。

 この場を去る前に、サポートの姉ちゃんに一応お礼を述べよう。


 そう思って顔を上げた時、ようやく気付いた。


 彼女が、汚物を見るような目で俺を見ているのに。


「えっと……俺、何か……やったかな?」

「武器生成はこっち!」

 鬼の形相で、俺のまん丸の手首を掴むと、児童相談所直行不可避レベルのむごすぎる力で、俺の行きたい方向とは逆……広場の中心の時計台の麓まで引き摺られる。


 そして訳がわからんまま、既に集められていた子供の群れの中に投げ込まれた。

 彼女はごみ出しの如く、あくまでも子供である俺に心配や葛藤を見せることもなく、振り向きもせず、ズカズカ元の場所へと帰っていってしまった。


 …………一体全体なんなんだぁ?

 子どもになんて暴力を振るうんだと抗議に行きたいのは山々なんだが、ちょっと離れた場所から強靭な野郎どもがギラッギラに眼光輝かせ、ここの群れを監視しているので動けん。


 仕方がないので、周りの子供に耳打ちしようと思って横を向いたのだが、横の子供はこの世の終わりかってぐらいに酷く顔を歪ませ、泣いていた。


 この子だけじゃあない。この群れは、皆絶望を表情に見せていた。


 どういうことなのだ?

 明らかに不穏な雰囲気に、俺の不安と何が起きたか把握したい欲求が募っていく。


 隣の奴は話が出来る様子ではない。
 後ろも駄目だ、前も。
 辺りを見回して、まあ言葉のキャッチボールが可能そうな状態の子供を見つけて、こっそり聞いた。

「なあ、ここの集まりはなんだ?」

「いらない子……これから、地下、やだ、やだ! ママぁ!」

「???!?」


 俺に見る目は無かったらしい。
 意味不明な返答をされた挙げ句、死ぬ前に聞いた逃げ惑う人の悲鳴といい勝負な声音でしゃくりあげられた。
 お陰で監視野郎の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まった。


「おい貴様ら、煩いぞ!! いい加減にしやがれ!」


 俺が来る以前から、度々大声で叫ぶ子供が居たのだろう。初めて号泣に鼓膜を揺らされた反応ではない。


 こっちに歩いてくる奴の右手は硬く握り締められ、プルプル小刻みに揺れている。

 今にも飛びかかってきて殴られそうだ。

 さっきの女の態度と行動から、手を出す可能性は十二分にある。
 あんな筋肉の隆々がはっきりしているぶっとい腕で殴られたら、頭蓋砕けてぽっくり逝っちまう。


 慌てて叫ぶ子の口を塞ぎ、媚を売る。


「ああ、すみませんでした、申し訳ありません、私がちょっとばかし、不適切な質問をしてしまってぇ……悪気は無いんです、どうか赦しを」


「煩いって言ってるのがわからねえのか餓鬼! 黙らせてやる!」

「?????????」


 男はその強張った拳を天に掲げた。


 はーもうわけわからん。


 そもそもこの世界が夢なのか、死後に来れる発見されてない世界なのか、地獄なのか、なんなのかわかってないのに、わからんまま殺されるのか。


 こんな理不尽な目に合わない普通の人生が欲しかった、そう願って死んだのに、どうして……。


 死を覚悟し、拳の軌跡を眺めていた。
 でも、誰かを狙うといった訳でもなくて、拳は無を殴った。
 その鉄拳の軌跡に描かれたピンクの靄が、あっという間に俺たちを包んで…………。


────────


「うぐっ!?」
 
 まるで今の現実が悪い夢だったかのように、俺の意識が突飛に蘇った。

 夢も見ず、何も見ず。

 肺は大きな拡縮を繰り返し、心臓は跳ね、冷や汗が背を伝う。

 …………あ、あれ。俺……生きてる?
 ……デジャヴだ。


 はぁ、俺は呑気に寝てたのか。

 今度はすぐにまぶたを開けた。

 第一に目に入ったのは、鉄格子だった。


 一面の壁。
 冷たい空気。
 乗ったら痒みが収まらなくなりそうなザラザラのボロボロベッドに、鼻を刺す糞尿の匂いが僅かに漂ってくるトイレ。


 俺は、犯罪者の如く独房にぶち込まれていた。
 ……犯罪者でも、もっと良い部屋だよな、普通。

 もしかしたら、また死んで別の世界へ……?

 そう思って手を触った。さっきと変わらぬ、丸い手があった。

 俺は、第二の俺のままだった。


 ……眠らされている間に、連れてこられたみたいだ。

 ここはどこで、俺はどうしてここに入れられ、誰がいて、何の意図があるのか。
 全く見当もつかない。


 とりあえず、ここが何か知ろう。

 鉄格子に顔面を押し付けるようにして、この隔たりの向こうを見ようと目を凝らした。

 ……夜なのか、太陽……か太陽的な星の明かりが入り込まない場所なのかはまだわからないが、なんも見えない。

 明かりはまあ、星明かりっぽいのが存在するのだが、死にかけのホタルの方がマシかってぐらいにしょぼい。

 俺のいる部屋は、天井が空気穴かちょこっと割れていて、そのおかげで辛うじて見えるぐらいの薄暗さを保っているが、当然格子の向こうまでこの光は届かない。


 オリの中が世界の全てで、鉄の柱の向こうには空間さえないのではないのだろうか?


 そんな事を思ってしまう程に、暗かった。


 ……仕方ねえなぁ。

「す、すみませーん、誰かそこに居ます?」

 囁くように聞いてみた。
 幼い声帯から発せられた高い声は、無音の空間に虚しく響いて消える。
 …………返事は、無い。


 誰もいないのか、寝てるのか、死んでるのか、本当に外が存在しないのか、全然わからないが……返事が来ないんじゃあ仕方が無い。


 今のこの状況が、ただ深夜だからという可能性に賭けて、暗黒と暗黙を打破する朝日が差し込むことを願って、もう一度寝よう。


 鉄格子がある方の部屋の隅、要するに、部屋の壁で囲まれた方の角にあるトイレから一番遠い場所に腰を降ろし、出来るだけ体の熱を奪われぬよう猫のように丸まった。

 あーあ、こんな事なら鑑定式なんか出なきゃ良かったなぁ。

 自分が持つスキルなんだから、調べなくてもそのうち感覚が出来て使えるようになるだろうに。

 訳のわからないまま連れてかれ、訳のわからないまま捕まっ…………スキル? あそこにいた子供たちも、また武器生成スキルを、天賦の才として持っていたのだろうか……?


──────


「朝だぞ起きろ出来損ない共!」

「ぐおおおおお!!! うるせええええええ!!」


 アラームより不快な野太い声と、耳にキンキン来る、シンバルでも鳴らしてんのかってぐらい騒々しすぎる金属の轟音に叩き起こされた。


 うずめていた顔を咄嗟にあげると、願い通り辺りは朝日に照らされて、自分の肌の色も、周りの様子も知れるようになっていた。それでも薄暗いけど。
 ……俺の目の前、明らかに人が死んだであろうシミがある……。
 気付かなかった……。

 最悪の気分で、背を向けていた廊下側を見る。

 THE・ボクサーって感じの、筋骨隆々の若い男が、格子に体を押し付け、こっちを睨んでいた。

 気配に気付かなかったから、ついビビって声出して飛び跳ねてしまった。
 なんでこんな……あ、うるせーー! って怒鳴っちゃったからな……。


「……あ、あー、あー、おはようございます。私~、つい寝ぼけて大声出してしまったみたいで……申し訳ございません。ところで逞しいお体してますね~」

 殴られたら堪らないので、なんとか激昂させぬよう媚びへつらうと、溜飲を下げるどころか気味悪そうな表情を浮かべて、格子から後退り俺から目を逸らす。

 ……うーん、褒めるの失敗したかな。

 男はそのままどこかに逃げ去ろうとしたので、慌てて鉄格子から小さな手を伸ばし、ブンブン振って呼び止めた。


「ま、待ってくださいよ~! あの、もう怒ってないんですか? 私全然わからないんですよ、置かれている境遇が! 怒ってないのなら、教えてくださいよ! ぜひ! 学の無い哀れな私に!」


「!! てめえ! 檻から手を出すんじゃない!」


 鬼の如く面で振り返ると、迫真の怒号と共に腕を振り上げる。

 奴の立っている位置は、精一杯伸ばしても俺の腕を殴れる位置じゃ無かったが、俺は第六感のままに後ろへ下がった。

 次の瞬間。

 腕では無い何かが鉄格子に衝突し、鉄の悲鳴とけたたましい破裂音が鳴り響き、刹那視界が赤に染まった。


 音も光もすぐに消え、何事も無かったかのような光景に戻ると、謎の何かをしてきた男が、ひょっこり顔を出した。


「あ、あ、危ねえだろ……あああああああ!! もう我慢なんねえ! なんでそんな敵意剥き出しにされなきゃいけねえんだよ……!?」


 感情が、一気に燃え上がる。
 無理もないだろう。

 突然無差別殺人に巻き込まれ、突然知らん世界で目覚め、突然人間で無いかのような扱いを受け、突然牢屋にぶち込まれ、突然怒鳴られて攻撃される……キレねえ奴はいねーぜ。

 いつの間にか、俺の手には槍が握られていた。さっきの謎の爆発から自分を守ろうとして、知らずに生み出してしまったようだ。

 自分の生み出した槍は、あの野郎の身長と同じ程度の長さで、当然重いはずなのだが、不思議と重さは感じなかった。
 物理的に軽いわけではない、槍としての重量は持っている。
 恐らく、自分の能力だから辛くないのだろう。


 武器を出してしまったものの、いくらなんでも殺人は駄目。


 ここから脳天目掛けて投擲したい衝動をグッと堪え、武器は防御の為だけに使うと心の中で唱え、野郎が消え失せるのを待つ。


 もう用はねえ。情報を得ようと媚びへつらう気分じゃ無くなった……早く消えろ、何まじまじ見てやがる? 俺は動物園の猿じゃねーぞ。


 ……しばらく睨見つめ合った後。

 不思議そうにボクサーが口を開いた。


「何故武器を持てる……? 何故流暢に話せるのだ…………?」


 まるで、本当に動物園の猿を見ていたような疑問をされ、槍投げちゃおうかと思ってしまった……。
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