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6章ーMr.Freedom
53話
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バルクの競技の後、牢屋に戻るとロイロは包帯を外しているところだった。
「あれ、ロイロ包帯なんか外してどうしたんだ?」
「ああ、もう完治したんだ」
「良かったじゃないか!」
「いいや。これでまた競技に駆り出されることになる。ここに来るまで無かったな、怪我が治ることをこんなに恨んだことは」
「そうか……」
「まあ俺は生き抜くさ」
ロイロは詩音に笑って見せる。その笑顔はあまり心配するなと言っているようだった。
「それよりも、お前バルクさんと競技するんだろ?」
「お、もう知ってるんだ」
「あたりまえだ。超ビッグニュースだぞ。俺どころかここの連中みんな知ってんじゃねえか?」
「結構大事なんだな……」
「ともかくよかったじゃねえか。やりたかったんだろ?」
「ああ」
「俺も生きて見届けなきゃな。ルームメイトなんだから」
「ロイロ……」
ロイロは両手を剣を握るように構え、素振りをする。
「うん。感覚は全然なくなってねえな。運もあるがこれならいけそうだ」
「ロイロって強いんだ」
「どうだろうな。まあ自信はあるぜ。強いやつはお前が倒してくれたし、今だったら大型新人が来ない限り、お前とあたらなきゃ生き延びれるだろうよ」
「そりゃいいや。俺もロイロには生きていてほしいし。話し相手がいなくなるのは寂しいからな」
2人は顔を見合わせて笑い合った。
「俺たちは生きるぞ。絶対にだ」
「もちろん。約束」
詩音はロイロに親友の様な強い絆を感じた。そしてたわいのない会話をしながら一日が過ぎて行く。
次の日、早速ロイロを呼びに看守がやってきた。
「ロイロ、出ろ」
「もう出番か」
「頑張れよ」
「おう、行ってくる」
そう言うとロイロは看守に連れられて闘技場へ向かった。
その10分後、詩音の元にも看守がやってきた。
「右京、出ろ」
「俺も競技か?」
「そうだ。いいから出ろ」
特に反抗する理由もないので、素直に看守と闘技場へ向かう。
入場門手前の武器庫で準備体操をしながら今日の相手を考える。そして最近人を殺すことにあまり抵抗感が無くなってきたことに恐怖を覚え、頬を叩いて気合を入れなおした。
「俺は生きなきゃいけないんだ。ロイロと約束したから。こんな事かんがえてる余裕ないんだ」
気合を入れなおした詩音は、競技場へ入場していった。
入場すると、ロングソードを持った対戦相手が立っていた。
「………………は?」
詩音は驚愕した。
「…………ロイロ?」
詩音の相手はロイロだったのだ。
「し、詩音」
「嘘だろ?」
「俺だって信じたくねぇよ……」
2人の困惑をよそに、開始の合図が出された。
「な、なあ」
「詩音」
ロイロの顔は完全に覚悟ができている表情だった。
「なんだよ」
「俺、お前とはやりたくなかったし、こういう事態が来ないことをずっと祈ってた。でももう仕方ないみたいだな。いいか、俺は生きたい。だから恨みっこなしだ。本気で行く。お前も本気で来い!!」
ロイロが剣を振りかぶり突進してくる。対する詩音はまだ行動出来ずにいた。
「うあああああああああああああ!!!!!」
ロイロは剣で連続攻撃を仕掛ける。だが詩音は何も反撃しない。ただ避けるだけだ。
「本当に戦わなきゃいけないのかよ!」
「仕方ねえだろ! そんな調子じゃ俺がお前をやっちまうぞ!!!」
尚もロイロは剣を振る。剣筋はいい。この実力ならば今まで生き延びてこられたのも理解できた。
詩音はどうしてもロイロに攻撃できなかった。どこかで期待していたからだ。実は自分より強くて、自分を殺して生きてくれることを。
剣を振り続ける。それを避け続ける。この状況が続いている。そして詩音は段々と分かってきた。
急に詩音が動きを止めた。
「もらったぁ!!!」
すかさずロイロは渾身の力で詩音の横腹に斬りつけた。
2人は闘技場に音が無くなったように感じた。ただ剣の折れる音が虚しく2人の間に響き渡る。
「………………あ?」
詩音に剣は通らなかった。腹斜筋に当たり、剣が負けて折れてしまったのだ。
なのに詩音は泣いていた。完全に気付いたからだ。期待通りでは無かったこと。それどころか全くの無傷でロイロを葬ることができるほどの実力差を。
「…………そうか。なあ、詩音」
ロイロは悟り、詩音に笑いかける。その目からは何粒も涙がこぼれていた。
「バルクとの戦いも、その先も、必ず生き残れ、俺の分も。そして俺にお前の勝利を、最強の世界を見せてくれ」
「だったら生きなきゃ……生きなきゃだめだ!」
「どっちかが死ななきゃ終わらねぇ。そういうもんだ…………俺は天国でいつでもお前を見てる。いつか世界最強になるその日まで、いつまでも見届ける。約束するよ…………さぁ、やってくれ」
「…………絶対成し遂げるから……最強を証明するから!!!」
詩音は構える。大きく息を吸い、気を高める。そして一歩踏み込んだ。
「行くぞ!」
「来い!!」
「島場流、水波紋ッ!!!!!」
一瞬で間合いを詰め、右拳をロイロの腹部へ送り込む。魔力が反応し、会場内の空間に波紋が走る。
拳が到達するまでの一瞬が、2人にとっては永遠のように長く感じられた。ゆっくりと、2人の今までの時間をたどるように流れていく。
そのときは訪れた。詩音の拳がロイロに到達し、衝撃と振動を与えていく。ロイロの体は液体のように波打ち、波紋を作っている。
そのままロイロは倒れた。白目をむいて完全に意識が無かった。
詩音が駈け寄り、脈を測る。何も感じない。もう生きていなかった。
しかし突然、ロイロの口が動いた。
「こ……これはすげえや…………お前なら……必ず……やれ……る」
これがロイロの最後の言葉だった。
もう詩音は何も言わなかった。涙を拭き、入場門へ戻っていく。そのときの詩音は、迷いが晴れ、覚悟を決めた目をしていた。
「あれ、ロイロ包帯なんか外してどうしたんだ?」
「ああ、もう完治したんだ」
「良かったじゃないか!」
「いいや。これでまた競技に駆り出されることになる。ここに来るまで無かったな、怪我が治ることをこんなに恨んだことは」
「そうか……」
「まあ俺は生き抜くさ」
ロイロは詩音に笑って見せる。その笑顔はあまり心配するなと言っているようだった。
「それよりも、お前バルクさんと競技するんだろ?」
「お、もう知ってるんだ」
「あたりまえだ。超ビッグニュースだぞ。俺どころかここの連中みんな知ってんじゃねえか?」
「結構大事なんだな……」
「ともかくよかったじゃねえか。やりたかったんだろ?」
「ああ」
「俺も生きて見届けなきゃな。ルームメイトなんだから」
「ロイロ……」
ロイロは両手を剣を握るように構え、素振りをする。
「うん。感覚は全然なくなってねえな。運もあるがこれならいけそうだ」
「ロイロって強いんだ」
「どうだろうな。まあ自信はあるぜ。強いやつはお前が倒してくれたし、今だったら大型新人が来ない限り、お前とあたらなきゃ生き延びれるだろうよ」
「そりゃいいや。俺もロイロには生きていてほしいし。話し相手がいなくなるのは寂しいからな」
2人は顔を見合わせて笑い合った。
「俺たちは生きるぞ。絶対にだ」
「もちろん。約束」
詩音はロイロに親友の様な強い絆を感じた。そしてたわいのない会話をしながら一日が過ぎて行く。
次の日、早速ロイロを呼びに看守がやってきた。
「ロイロ、出ろ」
「もう出番か」
「頑張れよ」
「おう、行ってくる」
そう言うとロイロは看守に連れられて闘技場へ向かった。
その10分後、詩音の元にも看守がやってきた。
「右京、出ろ」
「俺も競技か?」
「そうだ。いいから出ろ」
特に反抗する理由もないので、素直に看守と闘技場へ向かう。
入場門手前の武器庫で準備体操をしながら今日の相手を考える。そして最近人を殺すことにあまり抵抗感が無くなってきたことに恐怖を覚え、頬を叩いて気合を入れなおした。
「俺は生きなきゃいけないんだ。ロイロと約束したから。こんな事かんがえてる余裕ないんだ」
気合を入れなおした詩音は、競技場へ入場していった。
入場すると、ロングソードを持った対戦相手が立っていた。
「………………は?」
詩音は驚愕した。
「…………ロイロ?」
詩音の相手はロイロだったのだ。
「し、詩音」
「嘘だろ?」
「俺だって信じたくねぇよ……」
2人の困惑をよそに、開始の合図が出された。
「な、なあ」
「詩音」
ロイロの顔は完全に覚悟ができている表情だった。
「なんだよ」
「俺、お前とはやりたくなかったし、こういう事態が来ないことをずっと祈ってた。でももう仕方ないみたいだな。いいか、俺は生きたい。だから恨みっこなしだ。本気で行く。お前も本気で来い!!」
ロイロが剣を振りかぶり突進してくる。対する詩音はまだ行動出来ずにいた。
「うあああああああああああああ!!!!!」
ロイロは剣で連続攻撃を仕掛ける。だが詩音は何も反撃しない。ただ避けるだけだ。
「本当に戦わなきゃいけないのかよ!」
「仕方ねえだろ! そんな調子じゃ俺がお前をやっちまうぞ!!!」
尚もロイロは剣を振る。剣筋はいい。この実力ならば今まで生き延びてこられたのも理解できた。
詩音はどうしてもロイロに攻撃できなかった。どこかで期待していたからだ。実は自分より強くて、自分を殺して生きてくれることを。
剣を振り続ける。それを避け続ける。この状況が続いている。そして詩音は段々と分かってきた。
急に詩音が動きを止めた。
「もらったぁ!!!」
すかさずロイロは渾身の力で詩音の横腹に斬りつけた。
2人は闘技場に音が無くなったように感じた。ただ剣の折れる音が虚しく2人の間に響き渡る。
「………………あ?」
詩音に剣は通らなかった。腹斜筋に当たり、剣が負けて折れてしまったのだ。
なのに詩音は泣いていた。完全に気付いたからだ。期待通りでは無かったこと。それどころか全くの無傷でロイロを葬ることができるほどの実力差を。
「…………そうか。なあ、詩音」
ロイロは悟り、詩音に笑いかける。その目からは何粒も涙がこぼれていた。
「バルクとの戦いも、その先も、必ず生き残れ、俺の分も。そして俺にお前の勝利を、最強の世界を見せてくれ」
「だったら生きなきゃ……生きなきゃだめだ!」
「どっちかが死ななきゃ終わらねぇ。そういうもんだ…………俺は天国でいつでもお前を見てる。いつか世界最強になるその日まで、いつまでも見届ける。約束するよ…………さぁ、やってくれ」
「…………絶対成し遂げるから……最強を証明するから!!!」
詩音は構える。大きく息を吸い、気を高める。そして一歩踏み込んだ。
「行くぞ!」
「来い!!」
「島場流、水波紋ッ!!!!!」
一瞬で間合いを詰め、右拳をロイロの腹部へ送り込む。魔力が反応し、会場内の空間に波紋が走る。
拳が到達するまでの一瞬が、2人にとっては永遠のように長く感じられた。ゆっくりと、2人の今までの時間をたどるように流れていく。
そのときは訪れた。詩音の拳がロイロに到達し、衝撃と振動を与えていく。ロイロの体は液体のように波打ち、波紋を作っている。
そのままロイロは倒れた。白目をむいて完全に意識が無かった。
詩音が駈け寄り、脈を測る。何も感じない。もう生きていなかった。
しかし突然、ロイロの口が動いた。
「こ……これはすげえや…………お前なら……必ず……やれ……る」
これがロイロの最後の言葉だった。
もう詩音は何も言わなかった。涙を拭き、入場門へ戻っていく。そのときの詩音は、迷いが晴れ、覚悟を決めた目をしていた。
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