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昼寝部

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3章 大学入学編

9年ぶりの再会

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~雨宮桃華視点~
 
 夏目様との幸せな時間はあっという間に終わってしまった。

「2人ともお疲れ様。とても良い写真が撮れたよ」
「「ありがとうございました!」」

 私と夏目様が監督に挨拶をする。
 そしてスタッフに挨拶をしながら夏目様と一緒に撮影現場を後にする。

 撮影時のドキドキは収まっておらず、現在も夏目様の隣を歩くだけでドキドキしているが、会話できる程度には落ち着くことができた。

「雨宮さん、ありがとうございました。それと、ごめんなさい」

 お互いの休憩室を目指して歩いている時、夏目様がそう言って頭を下げる。

「……?なぜ夏目様が謝るのですか?」

 私は夏目様の行動理由が分からず首を傾げる。

「だって彼氏でもない俺が雨宮さんに抱きついたりしました。だから謝ろうかと……」
「そのことなら謝らなくていいですよ」

 私は夏目様の言葉を遮って言う。

「撮影前にも言いましたが、夏目様ならどんなことをされても絶対に嫌な気持ちになりませんよ。だって、夏目様は私が嫌がることを絶対にしない方ですから」
「た、確かに雨宮さんが嫌がることは絶対にしませんが……なぜ言い切れるのですか?」

 私と今日初めて会ったと思っている夏目様は、言い切った私のことを不思議に思い、聞いてくる。

「それはですね。私と夏目様が9年前に会ってるからです」
「えっ!?」

 夏目様が目を見開いて驚く。

「ふふっ、さて問題です。どこで私と夏目様がお会いしたのでしょうか?」

 夏目様に思い出してほしかった私は、少しイジワルな問題を出す。

「ヒントは桃ちゃんです」
「桃ちゃん……」

 私は当時、夏目様に呼ばれていたあだ名をヒントに出す。
 すると、すぐに思い出したようで“はっ!”とした顔となる。

「えっ!も、もしかして東條林檎とうじょうりんごさんと一緒に居た桃ちゃん!?」

「はいっ!大正解です!」

 私は思い出してくれたことが嬉しくなり、パーっと笑顔になる。

「ぜ、全然気づきませんでした……」
「ふふっ、あの頃とは随分変わりましたからね」
「そ、そうですね。特に……いえ、なんでもありません」

 私の大きくなった胸をチラッと見た後、顔を赤くして視線を逸らす。

(あ、ようやく見てくれました!)

 大胆に胸元が開いた服を着ているにも関わらず、今まで頑なに私の胸を見てくれなかった夏目様がようやく見てくれた。
 そのことに嬉しさを感じてしまう。
 それと同時に、いつもなら男性から胸を見られた際に表現できないほどの嫌悪感を感じるが、何故かもっと見てほしいと思った。
 そのため、撮影時にはできなかった年上の色気を見せようと思う。

「あら?夏目様?今、どこを見てそう思いましたか?」

 私は夏目様の顔を下から覗くように上目遣いで尋ねる。
 その際、自然と胸元が強調されるような動作を加える。

「っ!そ、それはですね……」

 私の胸元は一切見ず、視線を逸らしたまま口を開く。

(夏目様、かわいいっ!)

 正直、恥ずかしくて顔は赤くなっていると思うが、私以上に顔を赤くした夏目様の反応が可愛いため、このままグイグイ迫ってみる。

「私、夏目様ならどんなことをされても絶対に嫌な気持ちになりませんよ?」
「~っ!」

 少し色っぽく言ってみると、夏目様の顔が更に赤くなる。

(~~っ!可愛すぎですっ!)

 そんな夏目様を見て、私は心の中で悶える。

「そ、そんなこと、軽々しく言ったらダメですよ。もっと自分を大切にしてください」
「ふふっ、分かりました」

 夏目様の反応に満足した私は上目遣いと揶揄うのをやめて話をもとに戻す。

「夏目様が言った通り、私は東條林檎の娘、雨宮桃華です。9年前はお母様の演技を見るために収録現場に来てました。そこで夏目様と出会いました」
「出会った時や遊んだことの内容は覚えてるよ。って、雨宮さんのことを忘れてたから説得力はないと思うが」
「それは仕方ありませんよ。当時の私は雨宮の名前が嫌いだったので、夏目様には下の名前で呼んでもらいましたから」

 夏目様と出会った当時は雨宮財閥という肩書きが付いてくる雨宮の名前が嫌いだった。
 そのため名前で呼ぶよう夏目様に言った。

 そしたら…

『なら桃ちゃんって呼ぶよ!』

 そう言ってくれた。

「だから、雨宮桃華と聞いても気づかなかったのだと思います」
「そ、そうですね。当時の俺って雨宮財閥とか知らなかったので、雨宮さんのことを雨宮財閥の長女という認識を持ってませんでした。だから雨宮さんと9年前の女の子が結びつきませんでした。と言っても言い訳にしか聞こえませんが……」
「ふふっ。今、気づいてくれましたので気にしなくていいですよ」

 私は笑いながら本心で思っていることを伝える。

「で、ですが、気づかなかったことは事実です。罪滅ぼしにはならないと思いますが、俺にできることなら何でもします!」
「なっ、何でもですか!?」

 その言葉に私はテンションが上がる。

「は、はい。俺にできることなら。何かしてほしいことはありますか?」

 そんな私を見て驚きながらも肯定してくれる。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 私は夏目様へそう言って熟考する。

(ど、どうしましょう!何でもと言われました!な、何にしましょうか!?美柑からのミッションである連絡先の交換は必須ですね!他にも……)

 そんなことを思いつつ、考えること5分。

「き、決めました!」

 私は堂々と夏目様へ伝える。

「私と連絡先の交換と、昔みたいな関係に戻ることをお願いします!」
「れ、連絡先の交換は構いませんが……昔みたいな関係に戻る……とは?」
「それはですね。私との会話に敬語を使わず、昔みたいに桃ちゃんと呼んでください!」
「も、桃ちゃん!?」

 私の提案に夏目様が驚く。

「はいっ!」

 そんな夏目様に笑顔で頷く。

「っ!そんな笑顔見せられたら断れないよな。その……も、桃ちゃんの頼みだし……」

 どこか諦めた顔で、照れながら呟く。

「夏目様っ!」

 そんな夏目様を見て私は正面から抱きつく。

「わっ!も、桃ちゃん!?」
「ふふっ、何ですか?」
「え、いや……こ、ここで抱きつかれるのはマズいと思うんだけど……」

 現在、人の行き来はないものの、私たちがいる場所は廊下である。
 そのため誰かに見られることを恐れての発言だと思うが、私は夏目様とのスキャンダルなら悔やんだりしないので問題ない。

(出会った時から夏目様に抱きつきたかったんです。これくらい神様も許してくれますよね?)

 我慢の限界を迎えた私は夏目様の胸板に顔を埋める。
 そんな私を引き剥がそうとせず、両手を上に上げて固まっている夏目様。

(幸せです……ずっとこの時間が続くといいのですが……)

 そんなことを願いながら夏目様を堪能していると、後ろの方で“ガタンっ”という音が聞こえてくる。
 そして「り、凛くん……何してるの?」という女性の声が聞こえてくる。

(むぅ…誰ですか?私の幸せな時間を邪魔した方は……)

 私は不機嫌になりながら夏目様に抱きついた状態で後ろを振り向くと、スマホを落とした状態で固まっている愛甲真奈美さんがいた。
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