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学園編
101 出立
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太陽はまだ上りかけ、霜が辺りを白く凍らせている朝。今日から遠征合宿が始まる。
「サァラ、おはよう!」
「おはようございま……にいに、今日は朝の会議があるのではないのですか?」
相変わらず、いつでも勝手に妹の部屋に入ってくる。
これでは呆れるなと言う方が無理な話だ。
「ん?そんな面倒なものはエドに投げてきた」
可哀想にエドモント様。
絶対、命令形で脅して無理矢理やらせたのだろう。
兄のシスコンはなかなか終わりを迎えてくれない。
「そんなことより、遠征まで時間もあるし少し遊ぼうよ」
お兄様は手に持っていたチェスを机に置く。
「あら、負けませんわよ?」
私は強気ににこりと笑って見せた。
チェスは私の完敗に終わり、お兄様に絶対にいつか勝つと宣戦布告をして登校した。
くぅ、なぜ負けるのだろうか?
なぜか私はボードゲームの類いが苦手だ。
ポーカーとか軍戯は出来るのになぜ?!
次は運ゲームにしてもらおうと思い直して、目の前の魔方陣の説明を受ける。
五百年前に作られたもので、解読は不可能とされ、そのままの状態で残っているらしい。
魔法を作った人が死んでも、魔力を送り続ければ動きはすると。
この世界特有のファンタジーで解決できるやつだ。
ちなみに、その転移魔法は私が使う滅茶苦茶魔法と似ていて、構造が不要なものばかりのやつだ。
ふむ、これは一生解読できませんなぁ。
しかも、これ。
なんと魔石を使って魔力を補給しているらしい。
その魔石は物凄く大きくて、世界でひとつ、自動で魔力を補充することが出来る。
道理で学園内は自然魔力が薄いはずだよ。
先生の説明は聞くに値しないと判断して、黙々と考えを広げていると、ふと魔方陣の縁に小さく見慣れた文字があることに気がついた。
ーーー日本語!?
いやまさかと、まじまじと見直すが間違いなく日本語である。
「ーーーそれでは今から魔方陣に乗って移動してもらう。順に並んで一人ずつ上に乗れ」
先生が移動を促したことで、それから意識が外れる。
私はもやもやとした気持ちで魔方陣の上に乗った。
遠征一日目。
今日は宿でそのまま自由行動となる。
皆疲れているだろうとのこと、いや、移動しかしてないがな。
しかし、私にとっては都合がいい。
連れてきたチェニーに紅茶を入れさせて、一人考え込む。
あの縁に書いてあった文字。
内容はーーー
学園長室の禁止庫の日記
そう、記されていた。
日本語はとても達筆で書道を習っていたものの字であった。
つまり、あれを書いたのは日本人で間違いない。
ーーー私以外に転生者がいた?
可能性はある。
私が妖精王たちと初めて会った日。
妖精王たちは私のことを「迷い人」と呼んでいた。
あれが異世界から来た者のことを指しているとしたら?
妖精王たちは迷い人について知っているようだった。
その迷い人が私と同じ日本人である確率は、ないとは言えない。
あの魔方陣は五百年前のもの、五百年前に私と同じ日本人があそこにいた。
その人が学園長室になにかがあると言っている。
そこまで考えて私は顔をしかめる。
ーーー知ってどうする?
私はあの世界に帰りたいわけじゃない。
いや、できるなら帰ってはみたいが、それはここでの生活を手放すのと比べられないのだ。
あの世界での私の人生はとうに終わりを迎えている。
両親はもういないし、弟妹は結婚して子供まで生まれている。
やり残したことなんてない、充実した人生だったと、私は満足したのだ。
あの世界に未練はない。
今さら繋がりたいと思わない。
私は魔方陣の角に書かれていた文字を紙に書いてみる。
しかし、なにかが引っ掛かる。
きっとそれだけじゃないとどこかで思うのだ。
戦場で培ったその勘は簡単に否定できるものじゃない。
ーーー危ない橋は渡りたくない主義なんだけど。
私の答えは決まった。
学園に帰ったら学園長に申し入れようと。
……それがもう手遅れだとは知らずに。
「サァラ、おはよう!」
「おはようございま……にいに、今日は朝の会議があるのではないのですか?」
相変わらず、いつでも勝手に妹の部屋に入ってくる。
これでは呆れるなと言う方が無理な話だ。
「ん?そんな面倒なものはエドに投げてきた」
可哀想にエドモント様。
絶対、命令形で脅して無理矢理やらせたのだろう。
兄のシスコンはなかなか終わりを迎えてくれない。
「そんなことより、遠征まで時間もあるし少し遊ぼうよ」
お兄様は手に持っていたチェスを机に置く。
「あら、負けませんわよ?」
私は強気ににこりと笑って見せた。
チェスは私の完敗に終わり、お兄様に絶対にいつか勝つと宣戦布告をして登校した。
くぅ、なぜ負けるのだろうか?
なぜか私はボードゲームの類いが苦手だ。
ポーカーとか軍戯は出来るのになぜ?!
次は運ゲームにしてもらおうと思い直して、目の前の魔方陣の説明を受ける。
五百年前に作られたもので、解読は不可能とされ、そのままの状態で残っているらしい。
魔法を作った人が死んでも、魔力を送り続ければ動きはすると。
この世界特有のファンタジーで解決できるやつだ。
ちなみに、その転移魔法は私が使う滅茶苦茶魔法と似ていて、構造が不要なものばかりのやつだ。
ふむ、これは一生解読できませんなぁ。
しかも、これ。
なんと魔石を使って魔力を補給しているらしい。
その魔石は物凄く大きくて、世界でひとつ、自動で魔力を補充することが出来る。
道理で学園内は自然魔力が薄いはずだよ。
先生の説明は聞くに値しないと判断して、黙々と考えを広げていると、ふと魔方陣の縁に小さく見慣れた文字があることに気がついた。
ーーー日本語!?
いやまさかと、まじまじと見直すが間違いなく日本語である。
「ーーーそれでは今から魔方陣に乗って移動してもらう。順に並んで一人ずつ上に乗れ」
先生が移動を促したことで、それから意識が外れる。
私はもやもやとした気持ちで魔方陣の上に乗った。
遠征一日目。
今日は宿でそのまま自由行動となる。
皆疲れているだろうとのこと、いや、移動しかしてないがな。
しかし、私にとっては都合がいい。
連れてきたチェニーに紅茶を入れさせて、一人考え込む。
あの縁に書いてあった文字。
内容はーーー
学園長室の禁止庫の日記
そう、記されていた。
日本語はとても達筆で書道を習っていたものの字であった。
つまり、あれを書いたのは日本人で間違いない。
ーーー私以外に転生者がいた?
可能性はある。
私が妖精王たちと初めて会った日。
妖精王たちは私のことを「迷い人」と呼んでいた。
あれが異世界から来た者のことを指しているとしたら?
妖精王たちは迷い人について知っているようだった。
その迷い人が私と同じ日本人である確率は、ないとは言えない。
あの魔方陣は五百年前のもの、五百年前に私と同じ日本人があそこにいた。
その人が学園長室になにかがあると言っている。
そこまで考えて私は顔をしかめる。
ーーー知ってどうする?
私はあの世界に帰りたいわけじゃない。
いや、できるなら帰ってはみたいが、それはここでの生活を手放すのと比べられないのだ。
あの世界での私の人生はとうに終わりを迎えている。
両親はもういないし、弟妹は結婚して子供まで生まれている。
やり残したことなんてない、充実した人生だったと、私は満足したのだ。
あの世界に未練はない。
今さら繋がりたいと思わない。
私は魔方陣の角に書かれていた文字を紙に書いてみる。
しかし、なにかが引っ掛かる。
きっとそれだけじゃないとどこかで思うのだ。
戦場で培ったその勘は簡単に否定できるものじゃない。
ーーー危ない橋は渡りたくない主義なんだけど。
私の答えは決まった。
学園に帰ったら学園長に申し入れようと。
……それがもう手遅れだとは知らずに。
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