のほほん真勇者録 アルファポリス版

ごーぐる

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少女編

人生初ヤンキー

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「あの、聞きたいことがあるのでーーー」
「おい!終わったならとっとと代われガキッ!」

ドンッと押されそうになった私は急いで飛び退き、後ろに回る。

「ちっ、勘のいいやつめ」

おいおい、それはないだろうと私は思った。
自分で言うのも悲しいが、十歳の子供に対してそれはとても危険な暴力だ。

「ちょっと、危ないでしょうが!!」
さすがに受け付けのお姉さんもこれには怒ったらしく、筋肉の塊のような男性に果敢にものもうしている。

「いえ、大したことないので」
「あんっ!?」

お姉さんを安心させようとしたが、言葉選びを間違ってしまったらしく、筋肉だるまが怒っている。

「なんだガキ!大人に向かって随分と偉そうな口聞くじゃねーか、ああ?!」

「すごい、初めて聞く生のヤンキー…」
ぼそりと聞こえるか聞こえないかくらいの声で私は呟いた。

初だ、初ヤンキーだ。
テレビの中では恋愛アニメの登場人物として見てきたが、実際に見ると感動した。

「バット、バットは持っていないんですか?!あの釘が刺さったやつ!」
「は!?なにいってんだよ!?バカにしてんのかっ?!!!」

うまく噛み合わず、バカにされたと思った筋肉は足元ではしゃぐ小さな女の子に殴りかかった。
それを楽しそうに避ける幼女に周りも筋肉も混乱していた。

「おお!!!やっぱり喧嘩上等とか言うやつですか!?………でも、なんていうか」
師匠キュリアスさんの方がそれらしいよなぁと言おうとして冷静になった。

自分は今なにをやっているのか。
ギルド内での乱闘は禁止されている。
始めっからルールを破るなんてとんでもない。

それに気がついた私ははたと止まると、チャンスだとばかりに筋肉は本気で蹴りをかましてきた。
それも上にジャンプして円を描きながら避ける。

「あの、すみません。乱闘は禁止なんですよね」
「っへ?!あ、はい!一応………」

受け付けのお姉さんは苦笑いをする。
周りの大人たちが関与してこないのはこのせいなのだろう。
暗黙の了解でもあるのか、口出しすらしてこない。

もうすでに筋肉は冷静でないのか話は耳に入っていないようだった。

「えー、こんなことは言いずらいのですが、これ、殴ってっも正当防衛になりますかね?」 
「なります。殴っちゃって下さい、こんなやつ」

即答だった。

「ーーーでは、遠慮なく」

このお姉さんもなにかしら因縁があるのか、是非やってくれと言わんばかりの表情だ。

私は『瞬間移動』でなおも諦めずに殴ろうとしてくる筋肉の後ろ上に移動し、脊椎………はまずいから右腕を狙って拳を振り下ろす。

「うあっああああぁぁぁっっつ!!!???」

骨が砕ける感触がして慌ててやめるが、筋肉は床に転がり悶えていた。

「あ、強く殴りすぎちゃった………」

キュリアスのところ以外では久しぶりに人を殴ったので(というか、ジェイさん以外は初)手加減がよくわからなかった。
本気だったわけではないし、殴るときに少し躊躇しちゃったのでかなり弱めだと思ったが、ここまでとは思わずびっくりした。

「ーーーいや、それどころじゃないか………」

このままでは殴ってしまった筋肉さんが可哀想なため、急いで駆け寄った。

「あー、だいじょ………」
「ひぃ!」

筋肉は私に怯えて押さえていた腕を離して後ろへと逃げた。
しかし、逃がさないと左腕を掴んだ私に「た、助けてくれ!」と悲痛な叫びを訴えている。

いや、私が助けるんだよ。

「そんなやつ!もっとやっちゃって下さいっ!!!」と更にやれと言うお姉さん。
本当にどんな恨みがあるんだろうね?

暴れる筋肉に飛びかかり、教科書を見て覚えた、袈裟固もどきを決め込み、右腕の様子を見る。
「………大人しくしてて下さいよ」
透視エコー

複雑骨折ではなく、むしろ綺麗に真っ二つになっていた。
治すまでもないと思った私は最低限痛み止めだけしてあげて、筋肉からぱっと手を離し逃がした。

すると、慌てて入口の方へと走っていった。
お姉さんは私がなにもしていないのに気がついたらしく、舌打ちをして元の笑顔に瞬間的に戻した。

「………ありがとうございました、あれにはいつも困らされていたんですよ。いつか一発殺りたいとは思っていましたが、手間が省けました」

ん?今、やるって………『殺る』か!?
………本当、私が殴っといてよかったかもしれない。

お姉さんの黒い笑顔が怖かった。
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