蓮の呼び声

こま

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【本編後】蓮が咲いたら

岩龍地区へ 1

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 故郷に蓮の花が咲き、不穏な初夏はいつもと変わらない夏へと季節をすすめていく。添花と紅龍はそれぞれの目的を持って歩き始めた。
 添花は魂が割れている間に半身が過ごした場所へ。紅龍は故郷の無事を確かめて竜使いの修行に戻る。道が分かれるのは白扇の町で、そこに向かって洞窟の中を降っている。
「へえ。少し蓮橋と似た感じの町なんだ」
「水芭蕉の見頃は過ぎただろうけど、まだ咲いてるかもね……って、修行に出る時にここ通ったんじゃないの?」
 行き先の話題に疑問が浮かぶのは当然のことで、蓮橋から大地の裂け目を足で渡る道はない。紅龍が苦笑いするのは、別の道で行った理由が情けないからだ。
「長く歩いたら怖気付くと思ってさ。飛竜便に乗せてもらって一気に渡ったんだ」
「ははっ、空飛ぶほうが怖いって人もいるだろうに。紅の肝は太いんだか細いんだかわかんないね」
 笑い飛ばされると、自分を卑下する気持ちが薄れてくる。今度は歩いて行っても平気なのだから、成長しているではないか。
「添花だって躊躇なく紅蓮に乗ったよな。怖くなかったのか?」
「それどころじゃない状況だったし。考えたら討伐隊も含めてよく飛んだね、素人なのに」
「ああ、みんな驚いてた。でも……もう、あんなに向こう見ずなことはしないよな」
 相変わらず紅龍は心配性だ。ため息をつきかけて、やめる。添花は幼馴染みにしかめ面をさせるくらい心配をかけた。
「大丈夫。今回は白緑龍まで怒られに行くだけだから」
「それはともかく、巨竜の足跡を歩くのがさ。あそこはかなり鍛えた飛竜じゃないと手紙も届けに行けないんだ」
「大物がゴロゴロいる地域だとしても、人ひとりならかえって気付かれないもんだよ。一度は自分で切り抜けてるし、他の例も知ってる」
 魂が分かれていた時、添花は白緑龍の道場にいた。そこを抜け出して半身と対峙するに至ったのだ。「大丈夫」は嘘ではない。
「おかえり参りくらいには蓮橋に戻るから。心配なら紅も帰る?」
 強気の笑みに油断が見えれば、まだ小言を言うけれど。
「今度は紅蓮と一緒に帰ってみようかな。言ったからにはちゃんと帰って来いよ」
「うん。……明るくなってきたね。貸し常灯の返却はあそこか」
 洞窟の出口に屋台のようなものがあり、灯りの貸し借りをしている。借りる時に料金を支払っているから、返すのはすぐに済む。ふたりは外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
 そうしたら、すぐ白扇の町に着く。前に訪れた時と同じ宿に泊まろうと、岩盤どうしを繋ぐ橋を渡った。そこで亡くなった白緑龍の男性を故郷に帰すため、添花は竜鱗へと走ったことがある。飛竜に託した後のことを知りたい。
「あなたは……あの時の!」
 ひと月も経ったかという最近の事なので、宿の受付が添花の顔を覚えていた。だいたい、四日の行程を二日に縮めると言って走り出す客などなかなか忘れられない。
「はい。彼は間に合いましたか?」
「ええ、大急ぎで飛竜が来てくれました。御仁も喜ばれたでしょう」
「よかった……松成さん、帰れたんだ」
 ほっとしてから部屋をお願いすると、受付係は何やら妙な顔をした。景観も階層も問わず二人部屋を希望したのは、ただ安くあげるためなのだが。
 さあ、夕飯の時間までは温泉に入ろう。前回は松成に話しかける糸口として町紋入りの着物を着ていたが、今は普通に食べて寝るだけでいい。町をぶらぶらする位なら、大抵の客が宿の用意した浴衣を着る。それを手に浴場へ行こうとしたら、ふと紅龍の目が添花の腕に留まる。
「その傷、風呂入って平気か?」
「ああ、湯船につけなければいいんじゃないかな。元に戻ってからけっこう浅くなったんだ」
 半分の添花に紅龍がつけた傷だ。痛い本人よりも気にしている背中を叩いて、男湯へと送り出す。
「このくらい、治るから。あとで食堂でね」
 温泉や食事まではのんびり楽しんで、また一人旅になれば気を引き締める。湯船のへりに腕を乗せ、手の甲に顎をあずけて心を決めた。針を向けたのが自分自身でも、人に向けてはならないとの掟を破ったのは事実。白緑龍の道場に着いたら、まず素直に頭を下げよう。
 白扇の宿を出て、添花と紅龍が別々の方向へ歩いて行く。ふたり旅だと思っていた宿の従業員達は、一様に首を傾げた。
「夫婦か恋人じゃないのかな?」
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