蓮の呼び声

こま

文字の大きさ
82 / 84
【本編後】蓮が咲いたら

往復

しおりを挟む
 なんだか最近、雄人の様子が変だ。前ほど添花にこだわらなくなった。今までの惚れっぽさを考えたら普通のことだけど、添花に冷めるとは思えなくて。
 俺も添花も、いつかは誰かと結婚するだろう。そろそろ悠長な事は言ってられない年齢だし、男っ気のない添花には好機のはずだったのにな。変な男に引っかかるなら文句を言うつもりでいた俺は、雄人には任せてもいいかも、なんて考えていた。添花を女の子扱いしてくれるやつは滅多にいない。
「雄人、あんまり添花ちゃんって言わなくなったな」
「そりゃそうだよ、怒られるからやめろって説教してきたのお前じゃん」
 今だって、門下生達に届いた手紙を配り歩く中で添花からの手紙を見つけたのに。俺に開封を促したり、内容を気にしたりしない。普段と同じく元気で賑やかに去っていくから、告白して玉砕したってわけでもないんだろう。空元気なら見抜ける。
 急かされることがなかったから、添花からの手紙は就寝前に読むことにした。怪我から復帰して最初の遠出だ。これはきっと、無理はするなよと口酸っぱく言った俺へのやけっぱちの紙一枚。
「紅龍へ。無事に岩龍地区へ着いたので、とりあえず連絡することにしたよ。訪問予定がずれたり、その前に色々あったりで調べたい事が山積みみたい。私だけ蓮橋に戻るのが遅くなるかもしれない。これについては映さんにも手紙を出したので、心配かけることはないと思います。蓮が咲くまでに帰れたらいいかな。しばらく黄玉って町の白緑龍道場にいるから、何か連絡がある時はそこに送ってね」
 前に雄人が業務連絡みたいだと言ったような文面が十割。配達をするのが赤暁龍道場の人間とはいえ、一応は退魔士との連携や魂の経過観察についてはぼかした言葉を選んでいる。遠くの知人と連絡を取る手紙としてはつまんないかもしれないけど、飯が食えないとか体を動かせないとか、不満がない証拠だ。淡白な手紙の向こうに元気な添花が見えた。

 黄玉で行われる白緑龍と青藍龍の勉強会も、つつがなく終わった。間に入る役割は私には難しいけど、今回は師範もひとり同行した。偉い人とのやりとりはお任せして、門下生同士がギスギスしないかを見守る。
 接点がないせいで変な先入観があっただけ。蓋を開けてみれば、赤暁龍と大差なく円滑な交流ができた。継続して関われば、そのうち和解は誠になる。
 青藍龍の面子が発ち、私は魂の研究のためしばらく残る。何日かして、勉強会の時に退魔士との交流に出ていた門下生らが帰ってきた。
「宍戸はそっちに行ったんだ。ちょっと意外……でもないか」
 霊と接することに関心があるのは、少し考えれば想像できる。松成さんの魂を一緒に見送ったから、あの時の思いを整理しようとまだ踠いているのかもしれない。
「代赭では橙狐に会ったよ。添花が豪快に大暴れした話を聞いた」
「うわ、あいつ話盛ってないかな」
「退魔で相手にしたやつは熊の三倍くらいって言ってたよ」
「じゃあそこは盛ってないね。なんか宍戸と気が合いそう」
 この所、宍戸は表情の暗いことが多かった。今はけっこう明るいから、遠出は楽しかったんだろう。
「共通の友人がいるからな。途中で幾つかの町に寄ったけど、それも面白い。いつか白扇にも行けたらいいな」
 少し尾を引く切なさの理由はそれか。白扇は松成さんが最後にいた町だ。いつかもっと元気が出て宍戸が知りたがったら、松成さんがどういう経緯でそこに着いたか話してもいいだろうか。本人と相談できなくなってしまったから、その時は聞き手と相談でいいかな。ここは当たり障りないように話を繋ごう。
「青藍龍との勉強会に参加したら通れるよ。水芭蕉の時期だとけっこう綺麗な町」
「って言うけど、添花は花より団子だろ?」
「もちろん」
 帰還した門下生と黄玉にいた門下生がわいわいしていると、道場に届いた飛竜便の手紙が配られる。この地区は外部との出入りが少ないけど、稀に竜好きが外から入門してくるんだ。手紙の束の中に、紅が私に宛てたものもあった。一応ああは書いたけど、本当に送って来るとは。まめなやつ。
「地元から?」
「ううん、竜鱗から。まあ差出人は地元の幼馴染みなんだけどね」
 後で読もうと懐にしまったら、宍戸は変な顔になる。面倒だな、これは紅との関係を勘ぐってる。私、そう思われるような言い方したかな。
「なに?」
「大したことじゃないよ、添花に初めて男の影が見えたから」
「たった今、幼馴染みって言ったけど? あいつほぼ兄弟だし」
「鏡がなきゃ、自分の顔は見えないからな。自覚したら俺や橙狐が応援してるって思い出せよ」
 言葉じゃなくて表情でこんなこと言い出したんだ。変な顔をしてたのは私の方だって? どんな顔か聞いてみたけど、宍戸はにやにやするばかりで教えてくれなかった。何を応援しているかは分かるけど、私は特にそんなつもりは……ないのかな。紅だっていつか結婚するだろう。深好みたいな可愛いお嫁さんがいて、子どもが生まれたならそれはもう可愛がるだろう。あいつのことは想像できるのに、自分が誰かと結婚するとかどうとかこうとか……。
 翌朝身支度する時になって鏡を見てみたけど、癖っ毛と格闘していたら表情を観察し忘れた。更に手紙も読んでいなかったので、やっと封を切る。
「添花へ。長旅おつかれさん、無事で何よりだ」
 昔はもっと字が下手だったと思うけど、随分と読みやすい。映さん達とまめにやりとりしてるうちに、上手くなったのかな。辰さんの字に似なくて良かったね。
「今年は俺は蓮橋に帰れる回数が少ないかもしれないし、かえって多いかもしれない。勉強会とか諸々、言い出した手前あれこれ関わることになる。他の竜使いにも慣れてきたら、紅蓮だけ蓮橋にいくこともあると思う。予定がどうでも、おかえり参りだけは帰るつもりでいる。また一緒に行けたらいいな」
 そういえば、魂が元に戻ってから毎年のおかえり参りを紅と一緒に行っている。両親も兄さんも、私達の成長を見て喜ぶはずだ。ひとりで行ったら、みんな寂しがりそう。
 そうだね、今年も行けたらいい。手紙を畳んでいる時、寝泊まりする部屋の戸が叩かれた。返事をすると戸を開くのは大師範だ。
「おはようございます、どうされました?」
「もう身支度を整えているとは早いですね、丁度いい……何か手紙に良い知らせでもありました? 添花がそんなに嬉しそうな顔をするのは珍しい」
「嬉しそうですか? 手紙がちゃんと往復したからかな。私よく受け取りっぱなしにするので」
「ふぅむ? あぁ、本題なのですけれど。調べてみたいことを思い付いたので、居ても立っても居られなくてね。ちょっと付き合っておくれ」
 協力するのは約束だし構わないけど、昨日の宍戸みたいににやつく大師範はなんか嫌だな。私いったいどんな顔してたんだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

アガルタ・クライシス ―接点―

来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。 九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。 同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。 不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。 古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。

処理中です...