蓮の呼び声

こま

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【本編後】蓮が咲いたら

勉強会の食卓で 3

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 ふと夜中に目が覚めて、深好は部屋を抜け出してみる。星空は地元と大きく変わらない。
「あれっ、深好?」
「紅龍くん。どうしたの、こんな遅くに」
 ふたりだけで話すとなると、言葉に詰まることがよくあった。今は平常心で自然と話せるのは、少し寝ぼけているせいだろうか。
「目が覚めたついでに、紅蓮の様子見ようと思って。他の竜も初めてここに泊まるしさ。冷えないうちに戻った方がいいよ」
「ええ、風邪ひきたくないもんね」
 竜舎の方に行く紅龍を見送りながら、ここに立っていたのが他の子でも同じように声をかけたのだろうと想像がつく。きっと添花にだって言うことだ。ため息は少しだけ白く残る。
「な~ん~で、引き留めないんだよぉ」
「雄人くんっ? いつからいたの?」
 別の方向から声が飛んできて、深好は思い切り肩が縮む。
「やっぱ不慣れな寝床だから目が冴えてさ、外出たらちょうどふたりが見えたもんで、息を潜めて見守りをね」
「意外と繊細なら、脅かさないでよ。本当に眠れなかったの?」
「まーね、でもたらを考えても仕方ないけど。俺もあいつみたいに、ここで生まれる可能性もあったからさ。不思議な気分で」
 深好の隣で月や星を眺める目線はあちこちに動く。空までも焼き付けるように蓮橋を見る理由を、聞いてもいいのだろうか。迷っているうちに雄人は勝手に喋る。
「俺の親父もさ、あいつの親父と同じように……竜討伐を辞退した身だから。臆病者の烙印って、子の世代に残ってるわけよ。よその町でやってくのに親は苦労したとしても、正直あいつが羨ましかったんだ。後ろ指差されずに育ったんだもん」
 討伐隊関係のことは竜鱗では有名な話だ。でも雄人が人から馬鹿にされているのは見たことがない。よくふざけるから怒られてはいるけれど。深好が知らない所で冷たい目に耐えながら、強くなって杼竜討伐をやり切った。
「でもな、仲良くなって聞いてみたら、全部分かった上で来てたんだ。自分が強くなるためと、親父の汚名返上のため。俺は自分が馬鹿にされないために頑張ったから、あいつカッコいい~って思って」
 両目をぎゅっと瞑っての言葉は、本人には伝えない本音だろう。深好が添花に対して可愛いと言うのは反射だが、雄人は紅龍に負けたみたいで悔しいのだ。
「成した事は一緒だもの、雄人くんもカッコいいと思うわ」
「そ? ありがと」
 暗さにはとうに目が慣れているから、雄人の苦笑いも見える。彼の明るさも一種の戦いで、少し鎧をはがした瞬間が今なのかもしれない。
「どうして私にそんな話を?」
「俺はおしゃべりだからさ。本人に言ったら謙遜されてむかつくだろうし、誰かさんに言ったらあいつのカッコいいのがばれちゃうし。こんな話、深好にしかできねえだろ」
 語尾が空気に溶けるのが、さっき紅龍を見送った深好と同じだ。白い息はすぐ消える。
「……うそつき。諦めようとしているくせに」
「分かるか~、さすが。深好も同じだから?」
「そうかもね。……やっと、認められそう」
 以前、紅龍のモテない理由について、添花が「あいつ誰にでも優しいから」と語った。素朴な優しさに惹かれる人が引っ込み思案だっただけで、実は水面下で恋敵はたくさんいた。深好は紅龍を好きだが、添花を知るにつれ彼女も好きになっていく。そうして変化してきた気持ちが、ひとつの形を得ようとしていた。
「私、だんだんふたりのことを好きになっちゃって。紅龍くんの隣には添花がいて欲しいと思ってるみたい。ううん、気持ちの中ではふたりはきっと側にいるの。それを気づかせたいというか」
「ああ、それ! それだ。俺もそうなの。でもさあ、添花に紅龍の良さを語るのって野暮だよな。どうしたらあいつらくっつけられる?」
「そこが問題ね。雄人くんの方がそういうの詳しいでしょう」
「だめだよ、あいつら型にはまんねえから」
 これまでは、添花と紅龍の話をするのは傷の舐め合いだった。今はすっかり作戦会議で、まず明日の昼食の時はふたりを隣に座らせてみようと決める。お似合いな様子を新しい気持ちで見たら、いいことが思いつくかもしれない。
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