ふたつぶの涙

こま

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7 ふたつぶの涙

7_⑥

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 ユッポが動かなくなった日から、もうすぐ一年になるだろうか。僕は、ヘミオラの工房で、家具職人として忙しい日々を送っている。戻ってすぐは気が塞いでいたし、しばらく留守にしていたこともあり、仕事が軌道に乗り始めたのはここ半年のことだ。
 家具や建具の修理依頼は、波があれども尽きることは少ない。まれに、離れた町から依頼が舞い込むこともある。
 突然、工房に大きな届け物があって、驚いたこともあったな。大人ふたりがかりで運んできたのは、覚えのある揺り椅子。手紙が添付されていた。
「お久しぶりね、セコ。元気にしているかしら。あれからも、孫は椅子を揺らして遊んでいるけれど、何も問題はないわ。なのに、今回そちらに送ったのは、頼みたいことがあるからなの。息子家族はどうしても私が心配で、何度も同居できないか相談を重ねたわ。私も、賑やかな生活も悪くないかしら、なんて思い始めた。ふたりめが出来たから、育児を手伝ってほしいなんて言うんだもの。それで、あの椅子と一緒にお引っ越しする方法をみんなで考えたの。どうか、手のひらに乗るような小さな椅子に、あれを作り替えてくれないかしら。同じデザインの新しいものでなく、あの椅子から小さな椅子にしてほしいの。それなら、花瓶の横にでも飾っておけるでしょう」
テクマスマで出会った、おばあさんからだ。家族で共に暮らすことを、決めたんだな。
思い出と共に暮らす方法を思いついたのは、孫だったそうだ。柔軟な発想に舌を巻く。
 ただ、それでは素材がたくさん余る。こちらで処分してしまうのも、淋しいような。
代金は先払いで、ずいぶん気前良く貰っている。何かオマケをつけたって、バチは当たらないだろう。
おばあさんへと送り返した包みは、家族が想像しているより大きいはずだ。首を傾げながら開けた時、喜んでくれるといいな。ミニチュアの椅子と一緒に、子ども用の揺れない椅子を仕立て直した。
 こんな風に、依頼に応じて工夫する仕事が出来ている。工房は目新しさで仕事が貰える時期を過ぎていたが、代わりに町に馴染んで来たようだ。この前は、彫刻したコートハンガーが売れて、自分でも驚いた。
それに、以前よりずっと、僕自身が町に馴染めていると思う。仕事が増えただけでなく、ここに暮らしていて楽しいからだ。
「おっ、セコ。いいところに来たな」
 パン屋のマークは、少しは愛想のましになった客に笑いかけた。さては、新しいパンを試作したんだな。後で感想を聞かせてくれと、今日の買い物にはオマケがついた。
僕は、時々オマケが貰える常連客に仲間入りをしていた。そういえば、初めてのオマケも試作のパンだったな。皆が、帽子か扇子か、そもそも上下はどう見ればいいかと頭を捻る中、何を象ったパンなのか、僕にはわかったんだ。元気で明るい女の子をイメージしたパンは、ケープを模したもの。ユッポが着ていた、上着の形だった。柑橘の香りがよく似合う。
 さあ、今度はどんな試作だろう。家に帰って包みを開くと、箱のような真四角のパンが出てきた。片手の上がいっぱいになるくらいの大きさだけど、軽い。切ってみたら中は空洞だった。バターの良い香りが広がる。好きな具材を入れろってことかな?
 食事が済んだら仕事に戻る。ずっと根をつめて作業していると、深呼吸や伸び、小さな休憩が必要になる。
今は、手指も爪もどこも痛くない。あの時は、絆創膏や包帯だらけだったのにな。手元から離れた意識は、いつも決まって同じことを思い出した。
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