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8章 始まりの地へ
8_②
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船を直す間にキート達が話せる状態になればと思ったが、玉石に力が満ちるのを待つ余裕はないらしい。島に来る魔物が増えたのは、災禍の影響と考えられる。準備が整い次第、ライカ達は旅立つことになった。ナバナが、ヒスイが、コティが手を振っていた。村人も口々に応援してくれた。少し離れた所から、アキレアも船を見送った。
島の姿が水平線に消えるまで、島の方をじっと見ているライカの頭を、唐突にキョウネが小突いた。
「まだ、巻き込んじゃったなって面してるね。いつまでも淋しいこと言ってると怒るよ」
隣に立つと、一緒に海を眺める。ライカはその横顔を見て、小さな溜息をついた。
確かに巻き込んだという意識はあるが、皆が自分の意思で一緒に来たのはわかっている。他に抱える気持ちを見透かされた気がした。
「そんなんじゃない。天使と同じ道を通ってるんだなって思うと……何か緊張しちゃって」
辿ってきた道程が違えど、クーンシルッピからメネ・ウロスへの航路は一本だ。つい、当時の天使たちに思いを馳せる。
そこへセルがやってきて、ふたりの背中に見える緊張感を切り捨てた。
「第二の天使になろうというわけじゃないんだ。自分達が行く道を重ねても、意味はない」
出来ることをやるだけだと、メネ・ウロスへ行く決意をした時に立ち戻れるような言葉だった。確かに、伝承に語られる天使達は旅のさなかも多く人の目に触れ、目立った行動もあったのだろう。それに比べたら、自分達は随分ひっそりした旅路を来ている。
「珍しく、前向きなこと言うね?」
振り返ってにやりと笑うキョウネに続いて、ライカもセルの顔を見る。
「はは、なんだか、誰かさんみたい」
「ああ……そうかもな」
セルは皮肉っぽい笑みを浮かべ、ひとつ咳払いをした。
「へくしっ」
舵を取るトラメがくしゃみをしたので、近くを歩いていたユニマが立ち止まる。気配を察してか、トラメは前を向いたまま「噂されてんなあ」と呟いた。
ここが海だからか、その背中は頼もしく見える。ユニマはどうしても自分が弱々しく感じて、背中を見ないようにトラメの隣に立った。
「十日くらいの航路って言ってたよね」
「ああ、風向きと潮によっちゃ、もっとかかるけどな」
ヴァルと交代で舵を取りながら行くので、目的地までに疲れ果てるような旅路ではない。だが、災禍で世界が崩れるまで、明確な猶予がわからない中の十日は長い。不安になるのは目に見えていた。航海が長引けば、海上で魔物に襲われることも多くなるだろう。
そこでユニマは速く移動する方法を考えた。船を進めるのは風と海、すなわち水。魔術で操れるものだ。大式神と同じ要領で、船のサポートも出来るかもしれない。
「じゃあ、私は早く着くようにお祈りでもしようかな」
そう言って船首の方に行き、ひとりでこっそり、風と波を動かしてみたのだった。
魔術で航海を進めるのは、うまく行った。できるとなれば、舵取りを担当するトラメやヴァルと相談して術を調整し、ユニマはさほど消耗せずに航海を終えることが出来た。コリトの一族を背負う者として、期待をかけられるのも頷ける器用さだ。
予定より数日早く上陸し、雪の積もった廃墟に足を踏み入れる。
「これ……都市だった場所なんだよね?」
疑わしげに言うのはキョウネだ。他の皆も、同じような感想を持っていた。見慣れた形の住居はなく、およそ建物は半球を伏せた形をしていた。材質も木や石ではないらしい。時折、文字が刻まれた看板らしきものも見かけるが、古語で記された内容は読めなかった。
「まあ、気持ちのいい景色じゃないね。寒いし」
ちょっと眉をひそめたライカは、その場でくるりと回って、嘘みたいに整った町並みを眺めた。キチンと整列した建物たちを囲むのは、巨大な円形の塀だった。都市が健在だった頃は、それを土台とした半球に街が覆われていたのだろう。時と共に作られてきた街というより、街の始まりから形が変わっていない気がする。空想小説で読んだ、はるか遠い未来のような世界が、廃墟として広がっているのも不思議な感じだ。手ごわい魔物が集まっているのも、陰惨な雰囲気を強める要因だった。
「全部を相手にはしていられないな」
「あぁ、ここは魔物が集まりやすいらしい。奴の根城はもっとひどい有様だろう」
意見を一致させるヴァルやセルは、一際大きな建物がある、小高い区画を睨んだ。魔物を象る負の感情は、強いほどに人里を離れ、廃れた街でひしめいているのだ。
島の姿が水平線に消えるまで、島の方をじっと見ているライカの頭を、唐突にキョウネが小突いた。
「まだ、巻き込んじゃったなって面してるね。いつまでも淋しいこと言ってると怒るよ」
隣に立つと、一緒に海を眺める。ライカはその横顔を見て、小さな溜息をついた。
確かに巻き込んだという意識はあるが、皆が自分の意思で一緒に来たのはわかっている。他に抱える気持ちを見透かされた気がした。
「そんなんじゃない。天使と同じ道を通ってるんだなって思うと……何か緊張しちゃって」
辿ってきた道程が違えど、クーンシルッピからメネ・ウロスへの航路は一本だ。つい、当時の天使たちに思いを馳せる。
そこへセルがやってきて、ふたりの背中に見える緊張感を切り捨てた。
「第二の天使になろうというわけじゃないんだ。自分達が行く道を重ねても、意味はない」
出来ることをやるだけだと、メネ・ウロスへ行く決意をした時に立ち戻れるような言葉だった。確かに、伝承に語られる天使達は旅のさなかも多く人の目に触れ、目立った行動もあったのだろう。それに比べたら、自分達は随分ひっそりした旅路を来ている。
「珍しく、前向きなこと言うね?」
振り返ってにやりと笑うキョウネに続いて、ライカもセルの顔を見る。
「はは、なんだか、誰かさんみたい」
「ああ……そうかもな」
セルは皮肉っぽい笑みを浮かべ、ひとつ咳払いをした。
「へくしっ」
舵を取るトラメがくしゃみをしたので、近くを歩いていたユニマが立ち止まる。気配を察してか、トラメは前を向いたまま「噂されてんなあ」と呟いた。
ここが海だからか、その背中は頼もしく見える。ユニマはどうしても自分が弱々しく感じて、背中を見ないようにトラメの隣に立った。
「十日くらいの航路って言ってたよね」
「ああ、風向きと潮によっちゃ、もっとかかるけどな」
ヴァルと交代で舵を取りながら行くので、目的地までに疲れ果てるような旅路ではない。だが、災禍で世界が崩れるまで、明確な猶予がわからない中の十日は長い。不安になるのは目に見えていた。航海が長引けば、海上で魔物に襲われることも多くなるだろう。
そこでユニマは速く移動する方法を考えた。船を進めるのは風と海、すなわち水。魔術で操れるものだ。大式神と同じ要領で、船のサポートも出来るかもしれない。
「じゃあ、私は早く着くようにお祈りでもしようかな」
そう言って船首の方に行き、ひとりでこっそり、風と波を動かしてみたのだった。
魔術で航海を進めるのは、うまく行った。できるとなれば、舵取りを担当するトラメやヴァルと相談して術を調整し、ユニマはさほど消耗せずに航海を終えることが出来た。コリトの一族を背負う者として、期待をかけられるのも頷ける器用さだ。
予定より数日早く上陸し、雪の積もった廃墟に足を踏み入れる。
「これ……都市だった場所なんだよね?」
疑わしげに言うのはキョウネだ。他の皆も、同じような感想を持っていた。見慣れた形の住居はなく、およそ建物は半球を伏せた形をしていた。材質も木や石ではないらしい。時折、文字が刻まれた看板らしきものも見かけるが、古語で記された内容は読めなかった。
「まあ、気持ちのいい景色じゃないね。寒いし」
ちょっと眉をひそめたライカは、その場でくるりと回って、嘘みたいに整った町並みを眺めた。キチンと整列した建物たちを囲むのは、巨大な円形の塀だった。都市が健在だった頃は、それを土台とした半球に街が覆われていたのだろう。時と共に作られてきた街というより、街の始まりから形が変わっていない気がする。空想小説で読んだ、はるか遠い未来のような世界が、廃墟として広がっているのも不思議な感じだ。手ごわい魔物が集まっているのも、陰惨な雰囲気を強める要因だった。
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「あぁ、ここは魔物が集まりやすいらしい。奴の根城はもっとひどい有様だろう」
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