ライカ

こま

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10章 碧眼の追憶

10_①

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 今や、災禍の元凶はかつての英雄。天使と呼ばれ伝承となったレマである。近い将来、ほとんどの生命を根絶やしにする災禍を止めるため、天使を探す旅を続けていたライカ達は、真実を知りレマに立ち向かうことを決めた。
レマがその心を憎しみに染め魔物に変じた過去を、もっと詳しく知るには、英雄の精神を宿した玉石が必要だ。竜族の戦士キート、司祭セイルのふたりは、獣族の射手トンクの玉石が安置される場所を教えてくれた。
 クーンシルッピの森にある洞窟で、出発する一行を見送り、キートとセイルは姿を玉石に潜めた。去り際、ライカは一度玉石を振り返ったが、緊張の面持ちで頷くと、仲間と共に歩いていった。
 五日に一本の定期船でトロムメトラに渡り、船を乗り継いで北にある島国に上陸した。深い山林を擁するこの国が、トンクの故郷だ。玉石は、町から離れた遺跡にある。
 遺跡を目指す途中、森で野宿することになった。ふと、見た中にライカの姿がなくて、トラメはぐるりと首を回す。すると、焚き火から離れた木の枝に、ぼんやり座っているところを見つけた。
「よ……っと」
幹を挟んで反対側の枝によじ登っても、ライカはトラメに気付かない。
「元気ないな、腹減ったのか?」
「……あ、トラメ」
話しかけて、返ってくる言葉にも覇気がない。クーンシルッピを発ってから、何だか様子が変に思えたのは当たりらしい。わけを聞く前に、トラメは「ほい」と幹の後ろに手を回し、ライカのほうに捻った紙包みを突き出した。飴玉だった。
「キョウネがみんなに配ってた。甘い物好きのライカがいないから、おかしいなーと思って」
「あはは、無邪気な顔して、言うことがヴァルに似てきちゃったねえ」
 笑って、乾いた声になってしまった。飴玉と一緒に心配を受け取り、素直に話す事にする。
「……あのね、セイルが言ってたの。もっと自分を信じろって」
腕輪を見つめる顔は、トラメからは見えない。玉石の赤い輝きが、ライカの瞳を映すように月光に揺れている。
セイルたちは、玉石を安置した洞窟を去る時、ライカに語りかけたのだそうだ。
「信じた人に剣を向けられて、怪我して……私の過去を、ここにいるレマがセイル達に教えたのかな?」
爪でつついて文句をつけても、玉石は答えない。ライカは腕をだらんと下ろして、飴玉だけはしっかり握り締めた。
「過去を見ることで、心がレマに重なるなら……私がいちばん憎しみに食われやすい。私が弱いほど、その可能性は高くなるって」
それは、ライカが魔物になってしまう危険性を示していた。きちんと知った上でレマと、災禍と向き合いたいとは思うが、ライカは不安だった。信じろと言われて信じられる自分なら、正体を隠して旅することはなかったのだ。
「怖い?」
 いつの間にか、木の下にキョウネが立っていた。真っ直ぐな問いに少し震えて、ライカは短く答える。
「怖いよ」
「……じゃ、大丈夫だろ!」
勢いよく幹に寄りかかり、トラメが力強く言った。思いがけない言葉に拍子抜けしたのと、木の揺れに驚いたので、ライカは飴玉を取り落とす。上手く宙で掴んだキョウネが、トラメらしい言い方だと快活に笑った。
「あのなあ、俺は大真面目だぞ。こんな時に、怖くないって強がってる方が心配だよ」
「そうだね。素直なことが言えるのは、あたし達を信じてるってことだ」
 やけに嬉しそうなトラメとキョウネの様子を見ていると、何だか恥ずかしくなってきた。
(なんだ、悩むようなことじゃなかったんだ)
話をするうちに不安は溶けていく。ライカは枝から飛び降りて、ぱっと笑って見せた。
「……うん。みんなと一緒だったら、大丈夫だね!」
キョウネが投げて寄越す飴玉を受け取ると、口に含んでまた笑う。トラメも木から降りて、揃って焚き火の近くに戻る間、飴玉を転がす横顔には「ありがとう」と書いてあった。
 トンクの玉石を手に入れ、クーンシルッピに戻ったライカ達は、早速キートとセイルの玉石の元へ集まった。
玉石から像を結んだトンクは、耳や尻尾を隠した状態で自らの姿を残していたようだ。目には、あどけない容姿と掛け離れた静けさを宿している。シダンを封じた後に過ごした人生が、垣間見える目だ。
 再会の挨拶もそこそこに、トンクは玉石を一か所に集めるよう指示した。セイルの玉石を置いた台座に腕輪を置き、三つの玉石を中に並べる。
準備が整うと、キート、セイル、トンクの像が消えた。代わって玉石が光りだし、ライカ達の視界を染め上げる。そして唐突に、足の裏から地面の感覚が消えた。
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