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第二章:聖域の対価(ステート・オブ・サバイバル)
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首相官邸の地下深くに位置する「対外資源調整室」。
日本の阿久津総理は、大型モニターに映し出されたアメリカのエリス大統領の冷徹な眼差しに、冷や汗を拭った。
「……大統領、条件は以上です。我が国の『Sランク鎮静者』3名を、向こう2年間、貴国の優先治療枠へ貸与(リース)する。これは、日本の将来を担保に差し出すも同然の提案だ」
阿久津の震える声に、エリス大統領は指を組み、無機質に答えた。
「阿久津、評価が甘いな。今や世界中で、腹を膨らませた暴徒が議事堂を取り囲んでいる。ワシントンも同じだ。男性一人に対して、救える女性は一日100人が限界……それ以上の『直接抽出』は、個体の精神崩壊と心不全を招く『使い捨て』の作業だ。その3名の品質が保証されない限り、防衛システムと新型の魔力補完剤(マナ・サプリ)の輸出は認められない」
「くっ……。分かっている。彼らは既に『人間』ではない。国家の維持に必要な『生体中和モジュール』だ。2026年度の改正法案により、国内の全男性には個体識別タグの埋め込みを完了している。……一人たりとも、野放しにはさせん」
その頃、ネオンが消えかかったスラムの廃ビル。
レンは、血の混じった咳を吐きながら、カレンの膨らんだ腹部に手を添えていた。
「……っ、レン、もういい……。これ以上は、あなたの命が……」
カレンの腹は、皮肉にも「鎮静」を求めるかのように激しく胎動(マナ・パルス)を繰り返している。それは、中和因子を欲する身体が挙げる、生存への飢餓感だった。
「黙ってろ……。今、処置を止めれば、君の魔力回路が逆流して、腹の中から焼き切られる。……カレン、次は……もっと『深い』場所への直接的な処置が必要だ」
レンの指先は、重度の魔力欠乏によりどす黒く変色していた。
彼のような「野良の鎮静者」は、国家にとっては管理から漏れた「盗まれた資源」に過ぎない。もし捕まれば、麻酔なしで因子を絞り取られ続ける「種馬農場(ファーム)」送りだ。
「俺の魔力が尽きるのが先か、君の病が完治するのが先か……。だが、国に君を渡せば、君はただの『実験体』として腹を切り刻まれる。それだけは、させない」
レンは、震える手で最後のマナ・サプリを噛み砕いた。
外では、未登録男性を狩るための政府ドローンが、赤いサーチライトを回しながら旋回している。
「逃げよう、レン。……二人で、どこか……この『膨らんだ世界』の届かない場所へ」
カレンの悲痛な願いは、夜の静寂に吸い込まれていった。
二人の頭上には、2026年の法案により「国家資源」と定義された男性を執拗に追う冷たい包囲網が刻一刻と狭まっていた。
日本の阿久津総理は、大型モニターに映し出されたアメリカのエリス大統領の冷徹な眼差しに、冷や汗を拭った。
「……大統領、条件は以上です。我が国の『Sランク鎮静者』3名を、向こう2年間、貴国の優先治療枠へ貸与(リース)する。これは、日本の将来を担保に差し出すも同然の提案だ」
阿久津の震える声に、エリス大統領は指を組み、無機質に答えた。
「阿久津、評価が甘いな。今や世界中で、腹を膨らませた暴徒が議事堂を取り囲んでいる。ワシントンも同じだ。男性一人に対して、救える女性は一日100人が限界……それ以上の『直接抽出』は、個体の精神崩壊と心不全を招く『使い捨て』の作業だ。その3名の品質が保証されない限り、防衛システムと新型の魔力補完剤(マナ・サプリ)の輸出は認められない」
「くっ……。分かっている。彼らは既に『人間』ではない。国家の維持に必要な『生体中和モジュール』だ。2026年度の改正法案により、国内の全男性には個体識別タグの埋め込みを完了している。……一人たりとも、野放しにはさせん」
その頃、ネオンが消えかかったスラムの廃ビル。
レンは、血の混じった咳を吐きながら、カレンの膨らんだ腹部に手を添えていた。
「……っ、レン、もういい……。これ以上は、あなたの命が……」
カレンの腹は、皮肉にも「鎮静」を求めるかのように激しく胎動(マナ・パルス)を繰り返している。それは、中和因子を欲する身体が挙げる、生存への飢餓感だった。
「黙ってろ……。今、処置を止めれば、君の魔力回路が逆流して、腹の中から焼き切られる。……カレン、次は……もっと『深い』場所への直接的な処置が必要だ」
レンの指先は、重度の魔力欠乏によりどす黒く変色していた。
彼のような「野良の鎮静者」は、国家にとっては管理から漏れた「盗まれた資源」に過ぎない。もし捕まれば、麻酔なしで因子を絞り取られ続ける「種馬農場(ファーム)」送りだ。
「俺の魔力が尽きるのが先か、君の病が完治するのが先か……。だが、国に君を渡せば、君はただの『実験体』として腹を切り刻まれる。それだけは、させない」
レンは、震える手で最後のマナ・サプリを噛み砕いた。
外では、未登録男性を狩るための政府ドローンが、赤いサーチライトを回しながら旋回している。
「逃げよう、レン。……二人で、どこか……この『膨らんだ世界』の届かない場所へ」
カレンの悲痛な願いは、夜の静寂に吸い込まれていった。
二人の頭上には、2026年の法案により「国家資源」と定義された男性を執拗に追う冷たい包囲網が刻一刻と狭まっていた。
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