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占い師の外注依頼
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-2025年6月11日地鎖県立高校-
暗躍部の部室の扉をガラリと開けた占い師は、キョロキョロと無人の室内を見渡した。
部室の真ん中には二脚の長椅子が幅を利かせ、その上には飾り気のない投書箱がこじんまりと置かれている。
占い師は投書箱に貼られた紙を眺めた。
『ご依頼がある場合は投書箱にお入れください。
秘密裏に処理します。』
と書いてある。
占い師は再度周りを窺うと、素早く投書箱に紙を滑り込ませる。そして手を合わせると、目を瞑って頭を下げた。
目を開けた瞬間、目の前――投書箱の上に、いつの間にか男がしゃがんでいた。
「ウチは偽名NGですよ、お客さん」
音もなく現れた男は、占い師の書いた依頼書を見せながら、ニヤリと笑った。
「秘密裏にやるんじゃないのか」
「まあ、そこは気まぐれって奴ですよ。少し内容が気になりまして」
男は地下室に置かれたクッションに、ドカリと座り込んだ。
「でも良かったんですかー、怪しい人物を自宅に入れて」
「それはもう見た」
占い師は自室の真ん中に浮いている、直径50cmほどの水晶玉を見つめた。
「直接見た相手のことは占えるからな。少なくとも、お前が彼女を傷つけることはない。それは確かだ」
「へー便利っすね」
男は頭上の水晶玉を見上げると、首を傾げる。
「でも、そんなことできるんなら、なんで暗躍部に依頼を?信頼できる相手に直接頼めば良いじゃないですか」
占い師の体に緊張が走る。
「そ、それは」
占い師の視線が部屋中を泳ぎ回る。
「好きな子を守りたいんでしょう」
男は占い師の書いた依頼書を、再び掲げた。
『6月21日
本人にも誰にも気づかれずに、小町深幸の身の安全を守ってほしい。
鈴木太郎』
と書いてある。
「堂々と守れば良いじゃないですか」
男は心底分からないといった様子で、占い師の瞳を試すように見つめる。
「…一度拒絶されたことがある」
占い師が床の畳を見ながら苦々しく言うと、
男はまたニヤリと笑った。
「成程じゃあアンタは」
占い師の鼻先を真っ直ぐに指差す。
「『拒絶されたにも関わらず、人の未来を勝手に占って、勝手に守ろうとする、激キモストーカー占い師』って訳ですね!」
得意げに笑う男に、占い師は口を開けて絶句した。
何か言いたげに口をパクパクと動かすが、言葉にならず、喉の奥から動物じみたうめき声が漏れる。
音もなく近寄った男は、占い師の肩を馴れ馴れしく叩いた。
「そんなに落ち込むなよ!気に入りましたよ、その執着心」
占い師は顔を両手で覆い、あーーと力無い悲鳴をあげた。
「この一流忍者が手伝ってあげましょう」
男は心底楽しそうに笑った。
「んじゃ、経緯の説明からお願いします」
我が物顔で部屋のスナック菓子を食べる男に、ため息をつき、占い師は話し始めた。
「そう、あれは少し曇った秋の頃だった」
「あ、手短に頼んます」
顔を顰める占い師をよそに、男はチョコ菓子のパッケージを開けた。
「でも深幸さんに拒絶された所は詳しくお願いするっす」
占い師の眉間の皺が、更に濃くなる。
「お前が彼女の名前を呼ぶな」
「アンタどの立場で言ってるんすか」
笑いながら言う男に、また占い師は言葉に詰まった。どうにもならない感情を喉の奥に飲み込むと、占い師は口を開く。
「俺と彼女は文通相手だった」
「へー文通」
男が意外そうな顔をする。
「すげーや、マメっすね。
で、そのキッカケは?」
「…偶々彼女の未来が見えたんだ」
少し後ろめたそうに言う占い師に、占い師は片眉をあげた。
「へー、そりゃあ、『偶然』すっねえ」
その疑うような揶揄うような声に、占い師は分かりやすく動揺して、早口になった。
「その時は…本当に偶然だったんだ!その時は訓練中で、町ですれ違った人の未来が見える時があって
「いやだなあ、疑ってませんよー」
ニヤニヤと笑う男から逃げるように、占い師は視線を逸らした。そして少し言いづらそうに続ける。
「初めて彼女の姿を水晶玉で見た時、彼女は湖の近くに座って本を読んでいた。すると突然竜がその湖に不時着した」
「ありゃー」
男はカラカラと笑う。
「そりゃ、災難っすね」
「…バケツをひっくり返した様な、水の塊が彼女を襲った。お気に入りのワンピースも本も、びしょ濡れだ」
「ふーん」
男はチョコ菓子を口に放り込むと
「それで」
とチョコの甘さとパイのサクサク感を楽しみながら、占い師の瞳を見た。
「ワンピースは色がついて落ちなかったし、本は図書館の借り物で弁償が必要だった」
「で?」
占い師が水晶玉を見上げる。
「手紙を書いた。竜のことは伏せて、湖の近くには近づかない方がいいとだけ書いた」
男は逃さないと言う様に、目を細めた。
「それってよくあることなんすか」
占い師は苦しそうに、男の目を見る。
「…こんな事やっていたら、時間がいくらあっても足りない。だから依頼されない限り、誰かの未来を占ったり、その未来を変えようとするべきじゃない」
「ふーん」
「しかし」
占い師は懺悔するように下を向いた。
「役に立ちたかったんだ」
男はスナック菓子とチョコ菓子を交互に食べる。
「その時にはもう惚れてたんですか」
「な」
占い師が顔を赤く染める。
「だって、不運な全人類にやってる訳じゃないでしょう」
「そ、それとこれとは関係ない」
「でも文通、続けてたんでしょ」
男は冷蔵庫から瓶ジュースを取り出すと、ゴクゴクとラッパ飲みした。
「そ、それは、その」
占い師の声が小さくなった。
「手紙に返信が来たんだ。オレが手紙を挟んだ、図書館の彼女の好きな本に、今度は彼女が手紙を挟んだ」
男はグエっとゲップをした後に
「洒落てるっすねー」
と呟く。
「彼女の手紙は、とても丁寧で…やさ」
と言った所で、言おうとした言葉を飲み込み
「丁寧だった」
と無理矢理に言い直す。
「オレは、手紙を書いて良かった、とそう思った。しかし」
占い師が苦い顔をする。
「その時、ふと思ったんだ。俺が未来を変えた事で、彼女が不幸になるかもしれない、と」
占い師は少し恨めしそうに、水晶玉を眺めた。
「怖くなったんだ」
「なるほどねー」
男が頬杖をついてニヤリと笑う。
「それでつい、勝手に占っちゃった、と」
占い師はまた苦い顔をする。
「…そうだ。そして俺が占った未来では、彼女はまた不幸な目にあっていた」
占い師はため息をつく。
「俺はまた手紙で警告をした。告白もした『実は私は占い師で、貴方の未来を勝手に占ってしまった』と」
「キター、激キモだー」
男が楽しそうに悲鳴を上げる。
「警察に言えば、一発逮捕じゃないすか~」
「多分…この場合は厳重注意ですむはずだ」
「へえ、詳しいっすね。調べたんですか」
墓穴を掘った占い師はまた顔を赤くする。
「かなり長い返事がきた。いろんな事が書いてあった」
占い師は何かを思い出す様に、チラリと部屋の隅を見る。
「彼女にはエスパーの友人がいて、私に悪意がない事が分かったこと」
「いやいや、悪意がなければいいってモンじゃなくね」
男がウゲッと、不味いものを食べた様な顔をした。
「知らない人に好かれても、キモイだけでしょ」
吐き捨てるように言うと、口直しをするように素早くジュースに口をつける。
また言いづらそうに、占い師は口を開けた。
「彼女は私の活動を『応援している』と書いていた」
男は一瞬沈黙した後、
「へえ、成程」
と表情を変える。
「『この占い師さんが手紙を出しているのは、私へだけじゃない!きっと皆んなに同じようなことをしているんだ!』
そう思ったんですねー」
男はカラカラと笑う。
「いやー、純粋だなー。深幸ちゃん」
眉をピクリと動かした占い師を、見つめた。
「それとも、ワザト勘違いさせたんですか?」
占い師はハッキリと男の目を見た。
「それは違う」
「へえ」
(ホントっぽいな)
男はスラック菓子の塩がついた指を舐めた。
「でも否定しなかったんだ」
占い師はグッと言葉に詰まる。
(分かりやすい奴)
男はニヤリと笑った。
「それでー、後は?どんな事が書いてあったの?」
「…彼女の不運は生まれつきらしい」
「はーん、先祖が神とか呪ったのかな?」
軽く言う男に、占い師は非難の目を向けた。
「可能性の話っすよ。で、他には?」
軽く言う男に、占い師がまた言葉に詰まった。記憶を引っ張り出すように、また部屋の隅を見つめる。
「後は、彼女の趣味の話…とか」
「あー、ホントだあ」
男は深幸からの手紙をしげしげと眺めながら、頷いた。
「ちゃんと楽しく、文通してたんですねえ」
その光景に、占い師の思考が固まった。
「そ、それ」
ひきつった声が漏れる。
「ああ普通に、その棚から取りましたよ」
男は手紙から目を離さずに、銀色の鍵を占い師に見せた。
「鍵もあったしね」
「返せ」
立ち上がる占い師を避けるように、男は水晶玉の上に乗った。
「あ、おい、返せ!」
「まあまあ、情報収集は基本のキでしょー」
男は水晶玉の上で、器用に胡座をかいた。
「ほうほう、中々順調なお付き合いだったみたいですねー」
男はサッと読んだ手紙を手から離すと、手紙は水晶玉を滑り、ヒラヒラと部屋に舞い落ちる。
「あ、おい!落とすな!」
占い師は床に落ちた手紙を、急いで、でも優しく回収する。
「んもー、返して欲しんじゃないんすかー」
男は次次と手紙を落とした。
「もっと丁重に扱え!」
「まあまあ、もう最後ですから」
「さ、最後」
占い師の顔が青くなる。
最後の手紙を無言で読み終えた男は、音も無く床に降り立つと、手紙を占い師に差し出した。
「まあ大体分かりました」
占い師はそっと手紙を受け取ると、棚にしまった。
男は占い師の横から手を伸ばし、棚に鍵を閉めると、鍵を占い師に手渡す。
占い師はそれを左胸のポケットにしまった。
次に右胸のポケットから、懐中時計状の計測器を取り出す。蓋を開け、静かに眺める。
「そろそろ星が動く」
占い師はそう言うと、蓋を閉めた。
「10分程で戻る」
と言うが早いが、魔法陣付きの絨毯を取り出した。
クッションに座り直した男が、瓶を口につけ高く傾ける。
「あー待ってください。このジュースもうちょっとで飲み終わるんで」
「お前は要らん!」
「まあまあ」
男がジュースを飲みながら魔法陣に足を踏み入れると、トトンとリズムを踏む。二人を乗せた魔法陣がスッと色を無くす。
「あ、おい」
発動した魔法陣が、二人を転移させた。
「なんだよ、図書館かあー」
「その瓶しまえよ。忍者なのに目立ってるぞ」
「だってえ、飲んでる途中で飛ぶから」
「スイッチを押したのはお前だろ」
二人はコソコソと喋りながら、図書館の奥へ向かった。
「で、何の用なんすかー。お手紙?」
「…違う」
占い師は隅から台を取り出すとその上に乗り、本棚の本を少し動かした。そしてすぐに台から降り
「終わった」
と短く告げた。
「それだけっすか」
「だから要らんと言った」
「確かにね」
男は本棚を見上げながら
「深幸ちゃんのためっすか」
と尋ねた。
「彼女がここに来た時に、本が落ちてくる光景が見えたんだ」
と占い師は頷く。
「もう要は無い。さっさと帰るぞ」
「えー、深幸ちゃん、ここに来るんでしょ。護衛するんなら実物を見ておきたいなぁ」
「止めろ、お前は今」
「柴犬です!」
「は?」
前を歩いていた占い師が振り返った。
「柴犬って呼んでください」
占い師が初めて少し脱力した。
「何だその、適当な名前は」
「鈴木くんには言われたくないっす」
柴犬がそう言うと、鈴木はまた言葉に詰まった
暗躍部の部室の扉をガラリと開けた占い師は、キョロキョロと無人の室内を見渡した。
部室の真ん中には二脚の長椅子が幅を利かせ、その上には飾り気のない投書箱がこじんまりと置かれている。
占い師は投書箱に貼られた紙を眺めた。
『ご依頼がある場合は投書箱にお入れください。
秘密裏に処理します。』
と書いてある。
占い師は再度周りを窺うと、素早く投書箱に紙を滑り込ませる。そして手を合わせると、目を瞑って頭を下げた。
目を開けた瞬間、目の前――投書箱の上に、いつの間にか男がしゃがんでいた。
「ウチは偽名NGですよ、お客さん」
音もなく現れた男は、占い師の書いた依頼書を見せながら、ニヤリと笑った。
「秘密裏にやるんじゃないのか」
「まあ、そこは気まぐれって奴ですよ。少し内容が気になりまして」
男は地下室に置かれたクッションに、ドカリと座り込んだ。
「でも良かったんですかー、怪しい人物を自宅に入れて」
「それはもう見た」
占い師は自室の真ん中に浮いている、直径50cmほどの水晶玉を見つめた。
「直接見た相手のことは占えるからな。少なくとも、お前が彼女を傷つけることはない。それは確かだ」
「へー便利っすね」
男は頭上の水晶玉を見上げると、首を傾げる。
「でも、そんなことできるんなら、なんで暗躍部に依頼を?信頼できる相手に直接頼めば良いじゃないですか」
占い師の体に緊張が走る。
「そ、それは」
占い師の視線が部屋中を泳ぎ回る。
「好きな子を守りたいんでしょう」
男は占い師の書いた依頼書を、再び掲げた。
『6月21日
本人にも誰にも気づかれずに、小町深幸の身の安全を守ってほしい。
鈴木太郎』
と書いてある。
「堂々と守れば良いじゃないですか」
男は心底分からないといった様子で、占い師の瞳を試すように見つめる。
「…一度拒絶されたことがある」
占い師が床の畳を見ながら苦々しく言うと、
男はまたニヤリと笑った。
「成程じゃあアンタは」
占い師の鼻先を真っ直ぐに指差す。
「『拒絶されたにも関わらず、人の未来を勝手に占って、勝手に守ろうとする、激キモストーカー占い師』って訳ですね!」
得意げに笑う男に、占い師は口を開けて絶句した。
何か言いたげに口をパクパクと動かすが、言葉にならず、喉の奥から動物じみたうめき声が漏れる。
音もなく近寄った男は、占い師の肩を馴れ馴れしく叩いた。
「そんなに落ち込むなよ!気に入りましたよ、その執着心」
占い師は顔を両手で覆い、あーーと力無い悲鳴をあげた。
「この一流忍者が手伝ってあげましょう」
男は心底楽しそうに笑った。
「んじゃ、経緯の説明からお願いします」
我が物顔で部屋のスナック菓子を食べる男に、ため息をつき、占い師は話し始めた。
「そう、あれは少し曇った秋の頃だった」
「あ、手短に頼んます」
顔を顰める占い師をよそに、男はチョコ菓子のパッケージを開けた。
「でも深幸さんに拒絶された所は詳しくお願いするっす」
占い師の眉間の皺が、更に濃くなる。
「お前が彼女の名前を呼ぶな」
「アンタどの立場で言ってるんすか」
笑いながら言う男に、また占い師は言葉に詰まった。どうにもならない感情を喉の奥に飲み込むと、占い師は口を開く。
「俺と彼女は文通相手だった」
「へー文通」
男が意外そうな顔をする。
「すげーや、マメっすね。
で、そのキッカケは?」
「…偶々彼女の未来が見えたんだ」
少し後ろめたそうに言う占い師に、占い師は片眉をあげた。
「へー、そりゃあ、『偶然』すっねえ」
その疑うような揶揄うような声に、占い師は分かりやすく動揺して、早口になった。
「その時は…本当に偶然だったんだ!その時は訓練中で、町ですれ違った人の未来が見える時があって
「いやだなあ、疑ってませんよー」
ニヤニヤと笑う男から逃げるように、占い師は視線を逸らした。そして少し言いづらそうに続ける。
「初めて彼女の姿を水晶玉で見た時、彼女は湖の近くに座って本を読んでいた。すると突然竜がその湖に不時着した」
「ありゃー」
男はカラカラと笑う。
「そりゃ、災難っすね」
「…バケツをひっくり返した様な、水の塊が彼女を襲った。お気に入りのワンピースも本も、びしょ濡れだ」
「ふーん」
男はチョコ菓子を口に放り込むと
「それで」
とチョコの甘さとパイのサクサク感を楽しみながら、占い師の瞳を見た。
「ワンピースは色がついて落ちなかったし、本は図書館の借り物で弁償が必要だった」
「で?」
占い師が水晶玉を見上げる。
「手紙を書いた。竜のことは伏せて、湖の近くには近づかない方がいいとだけ書いた」
男は逃さないと言う様に、目を細めた。
「それってよくあることなんすか」
占い師は苦しそうに、男の目を見る。
「…こんな事やっていたら、時間がいくらあっても足りない。だから依頼されない限り、誰かの未来を占ったり、その未来を変えようとするべきじゃない」
「ふーん」
「しかし」
占い師は懺悔するように下を向いた。
「役に立ちたかったんだ」
男はスナック菓子とチョコ菓子を交互に食べる。
「その時にはもう惚れてたんですか」
「な」
占い師が顔を赤く染める。
「だって、不運な全人類にやってる訳じゃないでしょう」
「そ、それとこれとは関係ない」
「でも文通、続けてたんでしょ」
男は冷蔵庫から瓶ジュースを取り出すと、ゴクゴクとラッパ飲みした。
「そ、それは、その」
占い師の声が小さくなった。
「手紙に返信が来たんだ。オレが手紙を挟んだ、図書館の彼女の好きな本に、今度は彼女が手紙を挟んだ」
男はグエっとゲップをした後に
「洒落てるっすねー」
と呟く。
「彼女の手紙は、とても丁寧で…やさ」
と言った所で、言おうとした言葉を飲み込み
「丁寧だった」
と無理矢理に言い直す。
「オレは、手紙を書いて良かった、とそう思った。しかし」
占い師が苦い顔をする。
「その時、ふと思ったんだ。俺が未来を変えた事で、彼女が不幸になるかもしれない、と」
占い師は少し恨めしそうに、水晶玉を眺めた。
「怖くなったんだ」
「なるほどねー」
男が頬杖をついてニヤリと笑う。
「それでつい、勝手に占っちゃった、と」
占い師はまた苦い顔をする。
「…そうだ。そして俺が占った未来では、彼女はまた不幸な目にあっていた」
占い師はため息をつく。
「俺はまた手紙で警告をした。告白もした『実は私は占い師で、貴方の未来を勝手に占ってしまった』と」
「キター、激キモだー」
男が楽しそうに悲鳴を上げる。
「警察に言えば、一発逮捕じゃないすか~」
「多分…この場合は厳重注意ですむはずだ」
「へえ、詳しいっすね。調べたんですか」
墓穴を掘った占い師はまた顔を赤くする。
「かなり長い返事がきた。いろんな事が書いてあった」
占い師は何かを思い出す様に、チラリと部屋の隅を見る。
「彼女にはエスパーの友人がいて、私に悪意がない事が分かったこと」
「いやいや、悪意がなければいいってモンじゃなくね」
男がウゲッと、不味いものを食べた様な顔をした。
「知らない人に好かれても、キモイだけでしょ」
吐き捨てるように言うと、口直しをするように素早くジュースに口をつける。
また言いづらそうに、占い師は口を開けた。
「彼女は私の活動を『応援している』と書いていた」
男は一瞬沈黙した後、
「へえ、成程」
と表情を変える。
「『この占い師さんが手紙を出しているのは、私へだけじゃない!きっと皆んなに同じようなことをしているんだ!』
そう思ったんですねー」
男はカラカラと笑う。
「いやー、純粋だなー。深幸ちゃん」
眉をピクリと動かした占い師を、見つめた。
「それとも、ワザト勘違いさせたんですか?」
占い師はハッキリと男の目を見た。
「それは違う」
「へえ」
(ホントっぽいな)
男はスラック菓子の塩がついた指を舐めた。
「でも否定しなかったんだ」
占い師はグッと言葉に詰まる。
(分かりやすい奴)
男はニヤリと笑った。
「それでー、後は?どんな事が書いてあったの?」
「…彼女の不運は生まれつきらしい」
「はーん、先祖が神とか呪ったのかな?」
軽く言う男に、占い師は非難の目を向けた。
「可能性の話っすよ。で、他には?」
軽く言う男に、占い師がまた言葉に詰まった。記憶を引っ張り出すように、また部屋の隅を見つめる。
「後は、彼女の趣味の話…とか」
「あー、ホントだあ」
男は深幸からの手紙をしげしげと眺めながら、頷いた。
「ちゃんと楽しく、文通してたんですねえ」
その光景に、占い師の思考が固まった。
「そ、それ」
ひきつった声が漏れる。
「ああ普通に、その棚から取りましたよ」
男は手紙から目を離さずに、銀色の鍵を占い師に見せた。
「鍵もあったしね」
「返せ」
立ち上がる占い師を避けるように、男は水晶玉の上に乗った。
「あ、おい、返せ!」
「まあまあ、情報収集は基本のキでしょー」
男は水晶玉の上で、器用に胡座をかいた。
「ほうほう、中々順調なお付き合いだったみたいですねー」
男はサッと読んだ手紙を手から離すと、手紙は水晶玉を滑り、ヒラヒラと部屋に舞い落ちる。
「あ、おい!落とすな!」
占い師は床に落ちた手紙を、急いで、でも優しく回収する。
「んもー、返して欲しんじゃないんすかー」
男は次次と手紙を落とした。
「もっと丁重に扱え!」
「まあまあ、もう最後ですから」
「さ、最後」
占い師の顔が青くなる。
最後の手紙を無言で読み終えた男は、音も無く床に降り立つと、手紙を占い師に差し出した。
「まあ大体分かりました」
占い師はそっと手紙を受け取ると、棚にしまった。
男は占い師の横から手を伸ばし、棚に鍵を閉めると、鍵を占い師に手渡す。
占い師はそれを左胸のポケットにしまった。
次に右胸のポケットから、懐中時計状の計測器を取り出す。蓋を開け、静かに眺める。
「そろそろ星が動く」
占い師はそう言うと、蓋を閉めた。
「10分程で戻る」
と言うが早いが、魔法陣付きの絨毯を取り出した。
クッションに座り直した男が、瓶を口につけ高く傾ける。
「あー待ってください。このジュースもうちょっとで飲み終わるんで」
「お前は要らん!」
「まあまあ」
男がジュースを飲みながら魔法陣に足を踏み入れると、トトンとリズムを踏む。二人を乗せた魔法陣がスッと色を無くす。
「あ、おい」
発動した魔法陣が、二人を転移させた。
「なんだよ、図書館かあー」
「その瓶しまえよ。忍者なのに目立ってるぞ」
「だってえ、飲んでる途中で飛ぶから」
「スイッチを押したのはお前だろ」
二人はコソコソと喋りながら、図書館の奥へ向かった。
「で、何の用なんすかー。お手紙?」
「…違う」
占い師は隅から台を取り出すとその上に乗り、本棚の本を少し動かした。そしてすぐに台から降り
「終わった」
と短く告げた。
「それだけっすか」
「だから要らんと言った」
「確かにね」
男は本棚を見上げながら
「深幸ちゃんのためっすか」
と尋ねた。
「彼女がここに来た時に、本が落ちてくる光景が見えたんだ」
と占い師は頷く。
「もう要は無い。さっさと帰るぞ」
「えー、深幸ちゃん、ここに来るんでしょ。護衛するんなら実物を見ておきたいなぁ」
「止めろ、お前は今」
「柴犬です!」
「は?」
前を歩いていた占い師が振り返った。
「柴犬って呼んでください」
占い師が初めて少し脱力した。
「何だその、適当な名前は」
「鈴木くんには言われたくないっす」
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