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占い師のスランプ
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-2025年7月30日地下室-
「スランプ?」
柴犬は読んでいた漫画から鈴木へ視線を移すと
「何それ?」
と軽く首を傾げた。
「…昨日、アークランドから帰ってから、突然占いができなくなった」
鈴木は頭上の水晶を、戸惑う様に見つめる。
「水晶を覗いても、何も感じないし、何も見えないんだ」
「へー、よくあることなんすか?」
「いや、こんなこと、初めてだ」
鈴木はそう言いながらも信じられないように、口に手を当てた。
「水晶以外は?星を見たりもするんでしょう?」
「そ、それは」
鈴木が、深幸の事を考えている時特有の表情になる。迷いと罪悪感と、しかしそれ以上の喜びが漏れる。
「なーるほど、彼女に合わせて、嘘をついたんすね」
鈴木は本棚の一番下に収まる、三冊の星の図鑑を見やる。
「『貴方の為に調べました』って素直に言やーいいのに」
と珍しく、呆れを表情に出した。
「…負担になりたくない」
鈴木は小さくこぼした後に、表情を切り替えた。
「俺には水晶しかない」
いつも通りの、陰気な占い師の顔で続ける。
「今日、近くの魔法科クリニックへ行った。そこの医者には『スランプだろう』と言われた。『そう珍しいものではないが』」
鈴木の顔が更に暗くなる。
「『おそらく精神的なものが原因だ』、とも。だから」
鈴木が不安定に息を吸った後、真っ直ぐに柴犬を見た。
「お前が彼女を守ってくれ」
柴犬は心底不思議そうに、瞬きをする。
「何でオレ?鈴木くんがやれば?」
鈴木は大きく目を見開いた。
「分かっているだろう」
声に憎しみが走る。
「俺は、俺には」
全身が震えて、声が大きくなる。
「占いしかないんだ」
「いやいや、そんな事ないでしょ」
柴犬が彼の口を指差した。
「声が出せるし」
次は手を指差す。
「物も持てる」
足を指差して
「移動もできる」
と笑った。
「いっぱいあるじゃないですか!できること」
「俺の家族は、異空の竜に殺された」
鈴木の重苦しい声に、柴犬は目を細める。
「異空の竜は占いには映らないから、降りてくるまで分からなかった」
感情を押し殺して、淡々と、彼は語った。
「俺たちは全員家の下敷きになった」
「叫んでもがいても、どうにもならなかった」
「養父も養母も義兄も義妹も飼い猫も全員死んだ」
「俺だけが生き残った」
「そのシチュエーションだと」
柴犬がいつもの笑みを浮かべる。
「オレがアンタでも同じ結末だったと思うけど」
「それでも、お前の方が優れている」
鈴木は大きく頭を下げた。
「頼む、報酬は出す」
鈴木の語尾が掠れる。
「もうあんな思いはしたくない」
柴犬は鈴木の後頭部を少し眺めた後
「よし」
と明るい声を出した。
「いいでしょう」
信じられないというように、ゆっくりと顔を上げる鈴木に笑いかける。
「でも条件があります」
鈴木の手首を優しく掴むと
「一緒にきてください」
勢いよく引っ張った。そして喉の奥でクツクツと笑う。
「そばに行かなきゃ守れねーぜ」
「スランプ?」
柴犬は読んでいた漫画から鈴木へ視線を移すと
「何それ?」
と軽く首を傾げた。
「…昨日、アークランドから帰ってから、突然占いができなくなった」
鈴木は頭上の水晶を、戸惑う様に見つめる。
「水晶を覗いても、何も感じないし、何も見えないんだ」
「へー、よくあることなんすか?」
「いや、こんなこと、初めてだ」
鈴木はそう言いながらも信じられないように、口に手を当てた。
「水晶以外は?星を見たりもするんでしょう?」
「そ、それは」
鈴木が、深幸の事を考えている時特有の表情になる。迷いと罪悪感と、しかしそれ以上の喜びが漏れる。
「なーるほど、彼女に合わせて、嘘をついたんすね」
鈴木は本棚の一番下に収まる、三冊の星の図鑑を見やる。
「『貴方の為に調べました』って素直に言やーいいのに」
と珍しく、呆れを表情に出した。
「…負担になりたくない」
鈴木は小さくこぼした後に、表情を切り替えた。
「俺には水晶しかない」
いつも通りの、陰気な占い師の顔で続ける。
「今日、近くの魔法科クリニックへ行った。そこの医者には『スランプだろう』と言われた。『そう珍しいものではないが』」
鈴木の顔が更に暗くなる。
「『おそらく精神的なものが原因だ』、とも。だから」
鈴木が不安定に息を吸った後、真っ直ぐに柴犬を見た。
「お前が彼女を守ってくれ」
柴犬は心底不思議そうに、瞬きをする。
「何でオレ?鈴木くんがやれば?」
鈴木は大きく目を見開いた。
「分かっているだろう」
声に憎しみが走る。
「俺は、俺には」
全身が震えて、声が大きくなる。
「占いしかないんだ」
「いやいや、そんな事ないでしょ」
柴犬が彼の口を指差した。
「声が出せるし」
次は手を指差す。
「物も持てる」
足を指差して
「移動もできる」
と笑った。
「いっぱいあるじゃないですか!できること」
「俺の家族は、異空の竜に殺された」
鈴木の重苦しい声に、柴犬は目を細める。
「異空の竜は占いには映らないから、降りてくるまで分からなかった」
感情を押し殺して、淡々と、彼は語った。
「俺たちは全員家の下敷きになった」
「叫んでもがいても、どうにもならなかった」
「養父も養母も義兄も義妹も飼い猫も全員死んだ」
「俺だけが生き残った」
「そのシチュエーションだと」
柴犬がいつもの笑みを浮かべる。
「オレがアンタでも同じ結末だったと思うけど」
「それでも、お前の方が優れている」
鈴木は大きく頭を下げた。
「頼む、報酬は出す」
鈴木の語尾が掠れる。
「もうあんな思いはしたくない」
柴犬は鈴木の後頭部を少し眺めた後
「よし」
と明るい声を出した。
「いいでしょう」
信じられないというように、ゆっくりと顔を上げる鈴木に笑いかける。
「でも条件があります」
鈴木の手首を優しく掴むと
「一緒にきてください」
勢いよく引っ張った。そして喉の奥でクツクツと笑う。
「そばに行かなきゃ守れねーぜ」
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