匿名希望の占い師

空木葉

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占い師、告白す

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-2025年7月31日地鎖市緑化植物園-
小町深幸は冷室の庭のベンチに座ると、『人狼は真夜中の庭で』の表紙を優しく撫でた後、1ページ目を開く。
「こんにちは」
そこへ声がかかった。
反射で目を上げる。
そこには、一昨日にアークランドで余った料理を食べてくれた柴犬がいた。
動きやすそうな半袖半ズボンを身にまとい、ヒラヒラと手を振っている。
「柴犬さん!」
深幸は優しく本を閉じて、煌めくような笑顔を浮かべた。
「わあ、すごい。偶然ですね!」
「いやーそれが」
柴犬はベンチの、深幸が開けたスペースにドカリと座ると
「偶然じゃないんですよね」
と目の前の立派な大樹を見つめる。
「あなた、匿名の占い師と文通してたでしょ?」
深幸は目を丸くして、頷く。
「は、はい」
「そいつに頼まれて来たんですよ。今日も一昨日もね」
「占い師さんが?」
深幸は更に目を丸くする。
と同時に納得する。
(それなら私の行動が分かっても不思議じゃない)
次に疑問が湧く。
(でも何故?)
「そいつはあなたの事が心配で心配で、しょうがないみたいで」
柴犬の語り口は軽いが、不思議と嫌悪感はない。
(そこまで面倒見がよろしかったとは)
腑に落ちると同時に、罪悪感が胃の中に広がる。
「それは、申し訳ございません。私が支援を断ってしまった所為で、却ってご迷惑をおかけしました」
「そう、そこですよ」
柴犬が深幸を見た。
「何でやめちゃったんです?文通」
心底不思議そうに、深幸の瞳を覗く。
「楽しそうだったのに」
深幸が寂しげな笑みを浮かべた。
「楽しんでしまったから、ですね」
彼女は本の表紙を優しく撫でた。
「実は私は、人の運を操作できるエスパーなんです。力は微弱程度ですけど」
柴犬は表情を変えずにそれを聞く。
(全く驚いていないな)
しかし深幸もそれに頓着せずに、話しを続けた。
「小さい頃から人の不運を自分に移す事が趣味で」
次は茶目っ気のある笑みを浮かべる。
「別に『私は不幸な目に遭って当然の人間だ!』とはこれっぽっちも思ってはいないのですが」
穏やかに笑う。
「アイスを落として泣いている子供などを見ると、うずうずしてしまって」
「それで『今日は不幸な目に遭っても、まあいいかな』という時にだけ、能力を使っていたんです」
「そうしていたら、ある日占い師さんからの手紙が届いて。あの時はとても驚きました。『勝手に人に介入して勝手に悦に浸る、私と趣味が同じ人が私に手紙を出すなんて!』って」
そう言いながらも、彼女の瞳はキラキラと煌めいている。
「それで文通をするようになって」
「最初の頃は、『ちょっと申し訳ないなあ』と感じていたのですが」
クスクスと笑う。
「あまりにも楽しくて、やめたくないと思ってしまって」
「自分勝手ですよね」
柴犬が楽しそうに笑う。
「そうじゃないやつは、バカっすよ」
深幸は声をあげて笑った。
「ありがとうございます」
深幸は思い出すように、大樹を見つめた。
「受験期に入った頃、『一旦能力を使うのはやめようかな』って考えたんです。回復魔法も万能じゃないですしね」
その笑みに影がさす。
「でもその時思ったんです『手紙をもらえないのは寂しいなー』と」
おかしそうに笑う。
「ビックリしました。『自分のために能力を使わない』という信念を、無意識に破っていた自分に気がついたんです」
「なーんだ」
柴犬は冷めた目をする。
「全然自分勝手じゃないじゃないですかー」
ガッカリだよーと拗ねる柴犬に、深幸は自慢げに指を立てた。
「『信念の優先順位が高い』というだけです」
「ふーん」
納得いかない様子の柴犬に、ふふと笑うと
「それでやめようと思ったんです」
とあっさり言った後、
「それに思ったんです」
とゆっくりため息をついた。
「私は彼を愛しているのに」
吐いた息から愛がこぼれる。
「彼は不運な人を助けるために文通をしているだけだって」
彼女は本の表紙を優しく撫でる。
「だからチョッピリ切ないなーって」
「それは」
背後からした小さい声に、深幸は後ろを振り向いた。
が、ベンチの後ろにあるのは、鬱蒼とした草むらだけだ。
「それは違います」
しかし確かにそこから声がする。か細い声だが。
おそるおそる覗こうと立ち上がると、草むらが大きく動いた。
ローブを着た男が草むらから立ち上がった。
カモフラージュの為かいたるところに、葉っぱをつけている。
(わあ、忍者っぽい)
深幸が呆然と見つめていると、男はフードを下を引っ張り顔を隠した。
その仕草を見た深幸が
(もしかして柴犬さんと一緒にいた、鈴木さんかな)
と内心で首を捻る。
「あの、わた、わ、私は」
緊張の頂点にいつつも勇気を振り絞る男に、深幸は優しく笑った。
「はい」
「貴方が!」
男の振り絞る声が少し大きくなった。
「せ、世界一の不運の人でも」
と思ったら急に小さくなる。
「世界一幸運な人でも」
更に小さくなる声を聞くために、深幸は慎重に耳をよせる。
「そばに」
声は遂に囁く様な大きさになり。
「いたいです」
蚊の鳴くような告白をした。
それを受け止めた深幸の瞳に、期待が宿る。
「貴方は」
しかしその瞬間男が草むらに足を引っかけ、派手に転倒した。
「大丈夫ですか!」
深幸が急いで男に寄り添う。
男はうつ伏せに伏したまま
「私の」
とボソボソ呟いた。
「はい」
深幸が優しく頷く。
「私の近くに来ないでください」
その泣きそうな声に、深幸は柴犬の姿を探した。
柴犬は説明を求める深幸の視線を受け流して、軽やかにため息をついた。
「こりゃ先は長そうっすね」
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