自由に自在に

もずく

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三人組

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 リーさんとライセン堂で教えてもらったのは南一番館という宿屋だ。
 五階建ての立派な建物だったので値段が心配だったけど、一泊朝食付きで銀貨二十一枚ということで数日は生き延びられそうだ。
 というか、爺さんから渡された金貨十枚の価値が高いのか安いのかよく分からない。
 働かなくても宿屋暮らしで一ヶ月以上いける金額だから安くはないんだろうけど、人を勝手に呼び出して捨てるには足りてないんじゃないだろうか。
 まあ、今更言っても仕方ないので一階にある食堂で銀貨三枚の夕飯を食べて部屋でゆっくりすることにした。
 ちなみにこの宿には風呂はない。

 ベッドに横になって、明日からどうするかについて考える。
 魔物や動物は街を出て街道を外れて歩けば遭遇できると聞いた。
 この辺りに出てくるのはそれほど危険度は高くないが、その分、旨みも少ないそうだ。
 ただ、ダンジョン以外の場所に出てくる魔物は宝物をドロップしないらしく、お金が欲しければ討伐部位を持ち帰らなくちゃならないそうなので色々と大変そうだ。
 危険度は上がるけどダンジョン内に出てくる魔物を倒せばゲームよろしく宝物や金目の物を落とすドロップするらしいので、難度の低いダンジョンの入口辺りで活動するべきか。
 まあ、何はともあれ、旨みが少なくてもまずは危険度が低い所で戦闘経験をしてみないとなんとも判断できない。
 そんなことを繰り返し考えながら、僕はベッドに横になったままで《自由自在》の訓練をし続けたのだった。

 ゴーンという低い鐘の音で目覚めた僕は、一瞬ここがどこなのか分からなくてパニックになりかけてしまった。
 繰り返し鳴り響く鐘の音が六回目で終わったタイミングで、ああ、ここは今までの世界とは別の世界なんだったっけ、と思い出すことができた。
 部屋を見回すと、昨日買った短刀ドスが四本、抜き身の状態で床に散らばっていた。
 昨夜、《自由自在》を訓練しててそのまま途中で寝てしまったようだ。
 鐘の音が鳴るのは朝六時、昼十二時、夕方六時の三回だったな、確か。
 夜まで寝過ごしたってことはないだろうから、きっと朝六時なんだろう。
 上だけ昨日買ったTシャツに着替え、靴を履いて一階に降りた。
「おはようございます」
『お、早いね。昨日はゆっくり寝れたかい?』
「はい、おかげさまで」
『そりゃよかった。じゃ、朝飯持ってくるから好きな席に座っといて』
「はい、よろしくお願いします」
 女将さんと挨拶を交わして、僕は四人掛けのテーブルの壁側の席に座った。
 テーブルは全部四人掛けだから混んでる時間には相席とかもありそうだ。なるべく空いてる時間に利用するようにしよう。
 と、思ったのだが。

「あ、フトウさんだ!」
「ほんとだ!」

 急に名前を呼ばれて驚いてしまい、反射的に声のした方に顔を向けると、そこには昨日ハズレ部屋で一緒だった三人がいた。
 素早く僕の座ってるテーブルにやってきて、僕の許可も得ずに椅子に座ってきた。

「もーっ! 昨日、なんで一人で先に行っちゃったんですか? ここで会えたからよかったですけど」
 確か坂上サカガミさんだったっけか。が、僕の隣の椅子に座りながら、昨日とは打って変わって元気な声でいきなりの不満と疑問を投げかけてきた。
「そうっすよ。俺らもフトウさんが出てってすぐ後にあの館出たのにもういなかったから焦ったっすよ」
 こっちは熊野クマノ君だったかな。彼は僕の正面に座ってからそんなことを言う。
 その言葉に頷いているのは山口ヤマグチさんという人だったと思う。
 でだ。僕は彼らの言ってる言葉の意味がよく分かってない。

「えっと……なんの話ですか?」

 分からないことは聞くしかない。
 分からないことを分かった振りし続けることはマイナスにしかならないことを、僕はここまでの人生で学んで来ていた。

「なんの話って……これから四人でやってこうって時にいなくなっちゃったから」
「そうっすよ」
「いや、一緒に行動するとかそんな約束しましたっけ?」
「いやいやいや、してないっすけど低レア同士、力を合わせてやってく場面じゃないっすか」

 個人的には一人でやっていきたいところだ。子供の引率なんて面倒すぎてやってられないから。

「……三人はこれからどうするかとか話し合ったんですか?」
「まずはフトウさんと合流しようって話てたから特には」
「そっす」
 なんで山口さんは何も喋らないんだろう。
「じゃあ自分達で考えてみてください。僕の考えとあまりにも違うようなら一緒に行動するのは無理だと思いますので」
「えー」
「そりゃないっすよ」
「じゃあ、先にフトウさんの考えを紙に書いておいてもらえますか?」
 山口さん、ようやっと口を開いたかと思えば、僕の不正を警戒した発言だった。
「はい。あ、ただ後でもいいですか?」
「何故ですか?」
 僕は山口さんの後ろを指差す。
 彼女の後ろには、僕の朝食を持ってきた女将さんが立っていた。
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