5 / 94
三人組
しおりを挟む
リーさんとライセン堂で教えてもらったのは南一番館という宿屋だ。
五階建ての立派な建物だったので値段が心配だったけど、一泊朝食付きで銀貨二十一枚ということで数日は生き延びられそうだ。
というか、爺さんから渡された金貨十枚の価値が高いのか安いのかよく分からない。
働かなくても宿屋暮らしで一ヶ月以上いける金額だから安くはないんだろうけど、人を勝手に呼び出して捨てるには足りてないんじゃないだろうか。
まあ、今更言っても仕方ないので一階にある食堂で銀貨三枚の夕飯を食べて部屋でゆっくりすることにした。
ちなみにこの宿には風呂はない。
ベッドに横になって、明日からどうするかについて考える。
魔物や動物は街を出て街道を外れて歩けば遭遇できると聞いた。
この辺りに出てくるのはそれほど危険度は高くないが、その分、旨みも少ないそうだ。
ただ、ダンジョン以外の場所に出てくる魔物は宝物をドロップしないらしく、お金が欲しければ討伐部位を持ち帰らなくちゃならないそうなので色々と大変そうだ。
危険度は上がるけどダンジョン内に出てくる魔物を倒せばゲームよろしく宝物や金目の物を落とすらしいので、難度の低いダンジョンの入口辺りで活動するべきか。
まあ、何はともあれ、旨みが少なくてもまずは危険度が低い所で戦闘経験をしてみないとなんとも判断できない。
そんなことを繰り返し考えながら、僕はベッドに横になったままで《自由自在》の訓練をし続けたのだった。
ゴーンという低い鐘の音で目覚めた僕は、一瞬ここがどこなのか分からなくてパニックになりかけてしまった。
繰り返し鳴り響く鐘の音が六回目で終わったタイミングで、ああ、ここは今までの世界とは別の世界なんだったっけ、と思い出すことができた。
部屋を見回すと、昨日買った短刀が四本、抜き身の状態で床に散らばっていた。
昨夜、《自由自在》を訓練しててそのまま途中で寝てしまったようだ。
鐘の音が鳴るのは朝六時、昼十二時、夕方六時の三回だったな、確か。
夜まで寝過ごしたってことはないだろうから、きっと朝六時なんだろう。
上だけ昨日買ったTシャツに着替え、靴を履いて一階に降りた。
「おはようございます」
『お、早いね。昨日はゆっくり寝れたかい?』
「はい、おかげさまで」
『そりゃよかった。じゃ、朝飯持ってくるから好きな席に座っといて』
「はい、よろしくお願いします」
女将さんと挨拶を交わして、僕は四人掛けのテーブルの壁側の席に座った。
テーブルは全部四人掛けだから混んでる時間には相席とかもありそうだ。なるべく空いてる時間に利用するようにしよう。
と、思ったのだが。
「あ、フトウさんだ!」
「ほんとだ!」
急に名前を呼ばれて驚いてしまい、反射的に声のした方に顔を向けると、そこには昨日ハズレ部屋で一緒だった三人がいた。
素早く僕の座ってるテーブルにやってきて、僕の許可も得ずに椅子に座ってきた。
「もーっ! 昨日、なんで一人で先に行っちゃったんですか? ここで会えたからよかったですけど」
確か坂上さんだったっけか。が、僕の隣の椅子に座りながら、昨日とは打って変わって元気な声でいきなりの不満と疑問を投げかけてきた。
「そうっすよ。俺らもフトウさんが出てってすぐ後にあの館出たのにもういなかったから焦ったっすよ」
こっちは熊野君だったかな。彼は僕の正面に座ってからそんなことを言う。
その言葉に頷いているのは山口さんという人だったと思う。
でだ。僕は彼らの言ってる言葉の意味がよく分かってない。
「えっと……なんの話ですか?」
分からないことは聞くしかない。
分からないことを分かった振りし続けることはマイナスにしかならないことを、僕はここまでの人生で学んで来ていた。
「なんの話って……これから四人でやってこうって時にいなくなっちゃったから」
「そうっすよ」
「いや、一緒に行動するとかそんな約束しましたっけ?」
「いやいやいや、してないっすけど低レア同士、力を合わせてやってく場面じゃないっすか」
個人的には一人でやっていきたいところだ。子供の引率なんて面倒すぎてやってられないから。
「……三人はこれからどうするかとか話し合ったんですか?」
「まずはフトウさんと合流しようって話てたから特には」
「そっす」
なんで山口さんは何も喋らないんだろう。
「じゃあ自分達で考えてみてください。僕の考えとあまりにも違うようなら一緒に行動するのは無理だと思いますので」
「えー」
「そりゃないっすよ」
「じゃあ、先にフトウさんの考えを紙に書いておいてもらえますか?」
山口さん、ようやっと口を開いたかと思えば、僕の不正を警戒した発言だった。
「はい。あ、ただ後でもいいですか?」
「何故ですか?」
僕は山口さんの後ろを指差す。
彼女の後ろには、僕の朝食を持ってきた女将さんが立っていた。
五階建ての立派な建物だったので値段が心配だったけど、一泊朝食付きで銀貨二十一枚ということで数日は生き延びられそうだ。
というか、爺さんから渡された金貨十枚の価値が高いのか安いのかよく分からない。
働かなくても宿屋暮らしで一ヶ月以上いける金額だから安くはないんだろうけど、人を勝手に呼び出して捨てるには足りてないんじゃないだろうか。
まあ、今更言っても仕方ないので一階にある食堂で銀貨三枚の夕飯を食べて部屋でゆっくりすることにした。
ちなみにこの宿には風呂はない。
ベッドに横になって、明日からどうするかについて考える。
魔物や動物は街を出て街道を外れて歩けば遭遇できると聞いた。
この辺りに出てくるのはそれほど危険度は高くないが、その分、旨みも少ないそうだ。
ただ、ダンジョン以外の場所に出てくる魔物は宝物をドロップしないらしく、お金が欲しければ討伐部位を持ち帰らなくちゃならないそうなので色々と大変そうだ。
危険度は上がるけどダンジョン内に出てくる魔物を倒せばゲームよろしく宝物や金目の物を落とすらしいので、難度の低いダンジョンの入口辺りで活動するべきか。
まあ、何はともあれ、旨みが少なくてもまずは危険度が低い所で戦闘経験をしてみないとなんとも判断できない。
そんなことを繰り返し考えながら、僕はベッドに横になったままで《自由自在》の訓練をし続けたのだった。
ゴーンという低い鐘の音で目覚めた僕は、一瞬ここがどこなのか分からなくてパニックになりかけてしまった。
繰り返し鳴り響く鐘の音が六回目で終わったタイミングで、ああ、ここは今までの世界とは別の世界なんだったっけ、と思い出すことができた。
部屋を見回すと、昨日買った短刀が四本、抜き身の状態で床に散らばっていた。
昨夜、《自由自在》を訓練しててそのまま途中で寝てしまったようだ。
鐘の音が鳴るのは朝六時、昼十二時、夕方六時の三回だったな、確か。
夜まで寝過ごしたってことはないだろうから、きっと朝六時なんだろう。
上だけ昨日買ったTシャツに着替え、靴を履いて一階に降りた。
「おはようございます」
『お、早いね。昨日はゆっくり寝れたかい?』
「はい、おかげさまで」
『そりゃよかった。じゃ、朝飯持ってくるから好きな席に座っといて』
「はい、よろしくお願いします」
女将さんと挨拶を交わして、僕は四人掛けのテーブルの壁側の席に座った。
テーブルは全部四人掛けだから混んでる時間には相席とかもありそうだ。なるべく空いてる時間に利用するようにしよう。
と、思ったのだが。
「あ、フトウさんだ!」
「ほんとだ!」
急に名前を呼ばれて驚いてしまい、反射的に声のした方に顔を向けると、そこには昨日ハズレ部屋で一緒だった三人がいた。
素早く僕の座ってるテーブルにやってきて、僕の許可も得ずに椅子に座ってきた。
「もーっ! 昨日、なんで一人で先に行っちゃったんですか? ここで会えたからよかったですけど」
確か坂上さんだったっけか。が、僕の隣の椅子に座りながら、昨日とは打って変わって元気な声でいきなりの不満と疑問を投げかけてきた。
「そうっすよ。俺らもフトウさんが出てってすぐ後にあの館出たのにもういなかったから焦ったっすよ」
こっちは熊野君だったかな。彼は僕の正面に座ってからそんなことを言う。
その言葉に頷いているのは山口さんという人だったと思う。
でだ。僕は彼らの言ってる言葉の意味がよく分かってない。
「えっと……なんの話ですか?」
分からないことは聞くしかない。
分からないことを分かった振りし続けることはマイナスにしかならないことを、僕はここまでの人生で学んで来ていた。
「なんの話って……これから四人でやってこうって時にいなくなっちゃったから」
「そうっすよ」
「いや、一緒に行動するとかそんな約束しましたっけ?」
「いやいやいや、してないっすけど低レア同士、力を合わせてやってく場面じゃないっすか」
個人的には一人でやっていきたいところだ。子供の引率なんて面倒すぎてやってられないから。
「……三人はこれからどうするかとか話し合ったんですか?」
「まずはフトウさんと合流しようって話てたから特には」
「そっす」
なんで山口さんは何も喋らないんだろう。
「じゃあ自分達で考えてみてください。僕の考えとあまりにも違うようなら一緒に行動するのは無理だと思いますので」
「えー」
「そりゃないっすよ」
「じゃあ、先にフトウさんの考えを紙に書いておいてもらえますか?」
山口さん、ようやっと口を開いたかと思えば、僕の不正を警戒した発言だった。
「はい。あ、ただ後でもいいですか?」
「何故ですか?」
僕は山口さんの後ろを指差す。
彼女の後ろには、僕の朝食を持ってきた女将さんが立っていた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる