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尾行
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持ち帰ったウサギはハワードさんたちに喜んでもらえた。毎回お金を出すと言ってくれるけど断っている。なぜなら、ご飯は銅貨三枚という話だったけど、それを払おうとしても断られてしまうからだ。
その日の夕飯は僕が取ってきたウサギ肉を使ったシチューだった。
次の日。
今日はまた大樹の根のダンジョンに行こうかと思う。
ただ、西門に向かっている途中、普段は感じない妙な視線を感じて振り返ってしまった。
僕の後ろには、この西側地区には珍しく冒険者の格好をした男女が歩いていた。僕が急に振り返ったものだから驚いていたようだが、立ち止まっている僕をすぐに通り越して西門に向かっていった。
ここら辺はお店が少なく、あるのは普通の住宅街だ。門まで行けば門番さんの詰め所や、乗り合い馬車の乗り場があるけど、馬車はあまり本数がないし、利用する人をほとんど見たことがない。
ということは同業者が大樹の根のダンジョンに向かうということか。
昨日のいちゃもんをつけられた件もあるし、できれば知らない人と同じ所に行きたくないな。
僕は少しタイミングをずらして門に向かうことにした。
門番さんに身分証(仮)を見せて街の外に出る。さっきの二人組はもう後ろ姿も見えない。僕はのんびりと街道を歩いた。
途中、街道脇の草原の中にウサギを見つけたので、せっかく気が付いたのだからと狩ることにした。
ウサギを倒し、ハワードさんに教わった通りに血抜きをする。血を垂らしながら歩きたくないので、ウサギを草を踏み潰した上に置いて、僕も地面に寝そべった。
少しすると付近の草がガサガサと揺れて音を立て始めた。そして「見失った」「どこだ?」などと男女の声が聞こえてきた。
さっきの二人組だろうか。
もしかして、僕は狙われていたのか?
となると、ここ最近で考えられることといえばヒール・スクロールか。
ということは、ギルドから情報が漏れた、またはギルドが僕を監視、または無理矢理情報を吐かせようとしてきた可能性が考えられるのか。
僕は一気にげんなりとした気持ちになってきた。
ダンジョン攻略ギルドのあのおっさんのことは比較的信じてたのにな。それどころか「いい人」だと思ってたくらいなのに。
さてと、だ。
こういう時はどう対処したらいいんだろうか。
このまま横になってたら襲われる可能性があるし、とりあえずは武器を構えておいた方がいいかな。
対人の真剣勝負はやったことがないけど、自分が殺される未来はできれば回避したい。となると「殺るしかない」訳だ。
幸いというか、僕は既に人型の魔物であるコボルトとは何度も戦っている。人もコボルトも「敵」という括りにする。
そうだ。
魔物も人も、僕の命を狙うのならどちらも同じ敵だ!
男は腰を屈めながら草を掻き分ける。そして草が踏み潰された小さな空間に顔を出すこととなる。
人為的に草を踏んで作られたスペースに、血の跡が赤黒く残っている。
「ノーラ」
「なんだい」
「フトーってヤツ、魔物にやられたようだ」
「えっ」
慌てたのか、ガサガサッと大きな音を立てて女が屈んた姿勢から立ち上がって辺りを見渡す。
「ぶへっ!」
「ぐふっ!」
男の顔面と女の腹に、草むらから飛び出してきた拳よりも大きな石がぶち当たる。
男はその一発で意識を失ったようだ。そしてされは幸運なことだった。
女は腹の痛みで蹲ったものの、また意識が残ってしまっていた。
「な、なに……?」
それは、頭部に第二撃を受けるという不幸を呼ぶ言葉となった。
僕は、暫くの間二人を観察した。
そして、二人が呼吸をしていることに少しほっとして、でも、ちゃんと意識を失って動かなくなったことを確認してからその場を去った。
街道から近いここら辺には、この時間帯にはコボルトが現れる可能性はあまりないと言われているし、僕も見たことがない。だから放置していっても大丈夫だろう。たぶん。
しかし……あの男女は、西門の手前で僕を追い抜いていったはずの二人だ。
更に、男は「フトーってヤツ」と言っていた。僕の名前を知っているということは、ギルドか男爵か、それか同郷の闘士達が絡んでいることになるだろう。
なんにしても、僕は、明らかに誰かに狙われているようだ。
街道に戻った僕は、少しペースを上げて大樹を目指した。他にも僕を追いかけて来ている奴がいるかも知れないので、挙動不審なくらいにキョロキョロしながら急いだ。
大樹の周りは下草がなくて見通しがいい。
ここは今日に限らず、誰かに見られてても仕方ない場所だ。今迄だって離れた所からナイフを操っているのを見られていたかも知れない。そう考えると、自分の馬鹿みたいな甘さに嫌気が差してくる。
今更だけど、とりあえずコボルトは相手にせずに、一気に駆け抜けて樹の根の螺旋階段に飛び込んだ。
その日の夕飯は僕が取ってきたウサギ肉を使ったシチューだった。
次の日。
今日はまた大樹の根のダンジョンに行こうかと思う。
ただ、西門に向かっている途中、普段は感じない妙な視線を感じて振り返ってしまった。
僕の後ろには、この西側地区には珍しく冒険者の格好をした男女が歩いていた。僕が急に振り返ったものだから驚いていたようだが、立ち止まっている僕をすぐに通り越して西門に向かっていった。
ここら辺はお店が少なく、あるのは普通の住宅街だ。門まで行けば門番さんの詰め所や、乗り合い馬車の乗り場があるけど、馬車はあまり本数がないし、利用する人をほとんど見たことがない。
ということは同業者が大樹の根のダンジョンに向かうということか。
昨日のいちゃもんをつけられた件もあるし、できれば知らない人と同じ所に行きたくないな。
僕は少しタイミングをずらして門に向かうことにした。
門番さんに身分証(仮)を見せて街の外に出る。さっきの二人組はもう後ろ姿も見えない。僕はのんびりと街道を歩いた。
途中、街道脇の草原の中にウサギを見つけたので、せっかく気が付いたのだからと狩ることにした。
ウサギを倒し、ハワードさんに教わった通りに血抜きをする。血を垂らしながら歩きたくないので、ウサギを草を踏み潰した上に置いて、僕も地面に寝そべった。
少しすると付近の草がガサガサと揺れて音を立て始めた。そして「見失った」「どこだ?」などと男女の声が聞こえてきた。
さっきの二人組だろうか。
もしかして、僕は狙われていたのか?
となると、ここ最近で考えられることといえばヒール・スクロールか。
ということは、ギルドから情報が漏れた、またはギルドが僕を監視、または無理矢理情報を吐かせようとしてきた可能性が考えられるのか。
僕は一気にげんなりとした気持ちになってきた。
ダンジョン攻略ギルドのあのおっさんのことは比較的信じてたのにな。それどころか「いい人」だと思ってたくらいなのに。
さてと、だ。
こういう時はどう対処したらいいんだろうか。
このまま横になってたら襲われる可能性があるし、とりあえずは武器を構えておいた方がいいかな。
対人の真剣勝負はやったことがないけど、自分が殺される未来はできれば回避したい。となると「殺るしかない」訳だ。
幸いというか、僕は既に人型の魔物であるコボルトとは何度も戦っている。人もコボルトも「敵」という括りにする。
そうだ。
魔物も人も、僕の命を狙うのならどちらも同じ敵だ!
男は腰を屈めながら草を掻き分ける。そして草が踏み潰された小さな空間に顔を出すこととなる。
人為的に草を踏んで作られたスペースに、血の跡が赤黒く残っている。
「ノーラ」
「なんだい」
「フトーってヤツ、魔物にやられたようだ」
「えっ」
慌てたのか、ガサガサッと大きな音を立てて女が屈んた姿勢から立ち上がって辺りを見渡す。
「ぶへっ!」
「ぐふっ!」
男の顔面と女の腹に、草むらから飛び出してきた拳よりも大きな石がぶち当たる。
男はその一発で意識を失ったようだ。そしてされは幸運なことだった。
女は腹の痛みで蹲ったものの、また意識が残ってしまっていた。
「な、なに……?」
それは、頭部に第二撃を受けるという不幸を呼ぶ言葉となった。
僕は、暫くの間二人を観察した。
そして、二人が呼吸をしていることに少しほっとして、でも、ちゃんと意識を失って動かなくなったことを確認してからその場を去った。
街道から近いここら辺には、この時間帯にはコボルトが現れる可能性はあまりないと言われているし、僕も見たことがない。だから放置していっても大丈夫だろう。たぶん。
しかし……あの男女は、西門の手前で僕を追い抜いていったはずの二人だ。
更に、男は「フトーってヤツ」と言っていた。僕の名前を知っているということは、ギルドか男爵か、それか同郷の闘士達が絡んでいることになるだろう。
なんにしても、僕は、明らかに誰かに狙われているようだ。
街道に戻った僕は、少しペースを上げて大樹を目指した。他にも僕を追いかけて来ている奴がいるかも知れないので、挙動不審なくらいにキョロキョロしながら急いだ。
大樹の周りは下草がなくて見通しがいい。
ここは今日に限らず、誰かに見られてても仕方ない場所だ。今迄だって離れた所からナイフを操っているのを見られていたかも知れない。そう考えると、自分の馬鹿みたいな甘さに嫌気が差してくる。
今更だけど、とりあえずコボルトは相手にせずに、一気に駆け抜けて樹の根の螺旋階段に飛び込んだ。
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