自由に自在に

もずく

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地下二階

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 僕はナイフの操作を放棄して横に飛んだ。
 僕がいた場所に剣が振り下ろされて、地面に当たったそれがガキンと音を立てた。
 背後からの攻撃者は、長剣を持ったコボルトだ。
 人間じゃなかったことに心底ホッとする。
 僕はナイフ四本を再度浮かばせて、腰の曲がったヤツに四方から突き刺した。
 そして背後から来た長剣コボルトと短剣で戦う。

 僕は元々剣なんか握ったことのない人間だ。
 剣道さえもやったことがない。
 子供の頃、掃除の時間に箒でちゃんばらをやって先生に怒られた記憶くらいしかない。
 そんな僕だけど、この世界でレベルが上がったことによって、体力や運動神経が格段に良くなっている。
 訓練した能力が伸びるのではなく、レベルアップによって能力が全般的に上がっているのだ。本当にゲームのような仕組みだ。
 それとは別に、繰り返しやっていることはレベルとは別に上手くなる。サイコキネシスによる複数のナイフの取り扱いは最初はぐたぐただったけど、今ではナイフ四本までなら、並列処理をしているかのように別々の動きをさせることができるようになった。
 この異世界で、僕は確実に強くなっている。

 長剣と短剣の戦いとはいえ、コボルトよりも僕の方が動きが素早いので余裕がある戦いができている。倒そうと思えばたぶんすぐに倒せるんだけど、剣を盾で受けたり受け流したり色々と試している。
 一つ分かったことは、魔物も疲れるということだ。
 長剣を振った回数が二十回を越えた頃から剣速が鈍り始め、今ではかなり辛そうに見える。
 魔物とはいえ、なんだかかわいそうになってきたのでとどめをさしてあげた。

 しかし、音を立てずに背後から近付いてきて奇襲を仕掛けてくる敵がいるとは。
 それは僕がやってることだから卑怯とは言わない。けど、敵からやられるのはかなりの脅威だなと思う。
 ダンジョンにいる間は油断禁物だな。特に僕は一人だからクレアボヤンスに常に意識を残しておくことが重要になりそうだ。
 僕は更に慎重になってダンジョンを奥に進んだ。

 大樹の根のダンジョンは結構広いと思う。他のダンジョンに入ったことがないから、別のダンジョンと比較した訳ではないけど。
 地下一階は入口からボスエリアまで急いでも十分はかかる。急ぐとは言っても、魔物を警戒しながらの急ぎ歩き程度のスピードではあるけど。それでも一キロはあるんじゃないだろうか。
 地下二階も事前に確認した範囲にはボスエリアのような広い空間はなかった。今は行き止まりにて休憩をしながら、クレアボヤンスで他のルートを確認中だ。もちろん、もう一枚開いて付近に魔物が現れないかも見張っている。

(ロックバレット)

 そて、リモート探索と並行して、口に出さずに魔法を使う練習をしている。
 実はさっきステータスを確認したら、いつの間にかレベルが一つ上がって6になっていた。
 レベルが一つ上がったからか、それとも実行回数のおかげなのか、どちらかは分からないけど、ロックバレットもヒールも、どちらも使った時の疲労感が軽減しているようだ。

 あ、見つけた。

 ボスエリアっぽい広い空洞には、魔物はいないけど、気持ち悪いことに骨がたくさん落ちているようだ。
 人間の骨なんだろうか。
 この世界では、倒された魔物は魔石かドロップアイテムを残して消えてしまう。
 ダンジョンの中に現れるのは全て魔物らしく、コボルトだけでなく、ネズミもモグラもミミズもダンジョン内で倒したものは消えてしまっている。
 つまり、魔物の死骸とかではないはずなのだ。
 単に雰囲気を盛り上げるための装飾という可能性もあるけど。

 少し休みつつ、ルートを三回確認し直してから移動を開始した。
 この階に出てくる魔物は一階よりも強いけど、クレアボヤンスで敵を発見し、サイコキネシスで奇襲を仕掛けるという必殺コンボがあるので全然問題ない。
 僕は一人だけど、単純な戦闘なら五人分として動くことができるし。
 今更だけど、サイキッカーというスキルは、所謂一つのチートってやつなんだな、と思う。
 そんなこんなで、僕はボスエリアっぽい骨が沢山落ちている空洞の手前まで来た。
 通路から観察しているけど、やはり魔物はいないようだ。
 地下一階のボスエリアと同じように、奥には地下へと続くと思われる樹の根でできた螺旋階段がある。
 ここには魔物がいないようだし進んでしまおうか?
 いや、できればクレアボヤンスで地下三階の事前調査をしてからにしたい。
 とはいえ、骨だらけの部屋でゆっくりするのも嫌だし、行き止まりじゃない通路にいたら敵に襲われるかも知れないし……よし、嫌だけど、とりあえず中に入ってみますか。このダンジョンの先に進むには、最終的にはここを通らないと行けないわけだし。

 決意を固めて空洞に入り、足元の骨を踏まないように真ん中くらいまで進んだときだった。
 すべての骨がカタカタと動き出し、空中に浮かび上がって来たのだった。
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