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八人
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ゴーン。
朝六時の鐘が街に鳴り響く。
西門の前にはギフを始めとした武装集団が集まっている。
意外に思って「ギフも行くんですか?」と聞いたら「当たり前だ。俺は現役だぜ」と、鼻息荒くドヤ顔をされた。どうやらタンクらしい。
他に知っている顔は、ガロとアトリくらいかな。
あとの人は、大樹の根に移動しつつ、着くまでの間に自己紹介と戦闘時の意識合わせをしようということになった。
でだ。
実はもう一人、思いもしなかったメンバーがいた。
「何でここに?」
「来ちゃった。あはは」
いや、来ちゃった、じゃないよ。
あははと笑ったのはエナさんだ。
なんと、昨日の内に冒険者ギルドを辞めてきて、ダンジョン攻略ギルドに移籍してきたというのだ。
「で、聞いたんだけどさ。フトーさん、ソードマンじゃないんだってぇ?」
随分と馴れ馴れしい感じで僕の肩に自分の肘を(無理して)乗せながら言ってから、彼女は追加で「嘘つき」とも言ってきた。
その言葉を聞いた僕がギフを見ると、彼はそっぽを向いて知らん顔をした。
まあ、最初に、というか今もだけど、正直に話していない僕が悪いのか。
何を言っても回り回って僕に矢が飛んできそうな状況に、僕は出発前からお疲れモードに入りつつあった。
やっぱり一人で動いた方が楽でいいのかなぁ。
大樹の根のダンジョンに向かう道中。
新人のエナさんもいるので、全員が自己紹介をしていった。
ギフはタンク。左手と背中に大盾を持つ大男だ。縦にも横にも大きい。
シュガーもタンク。こちらは右手に中くらいのサイズの菱形の盾、左手には槍を持っている。優しい顔つきの人で喋り方も丁寧だ。この人もギフと同じくらい背が高い。
ボルは物理アタッカー。ソードマンで両手剣で戦闘時は攻撃全振りで動くそうだ。寡黙な人だけど戦闘時には人が変わるから驚かないようにと言われた。
ガロはスカウト。索敵や罠の発見、戦闘時にはアタッカーとしても動けるオールラウンダーだ。性格はお調子者なんだと思う。
アトリはヒーラー。ポーションやスクロール、ヒール魔法での治癒が担当の気怠い感じのお姉さん。切り傷くらいなら魔法で治せるけど、重症レベルのダメージまでは回復できないから気をつけるのよぉ、と本人から言われた。
リンは魔法アタッカー。黒魔導師で使える魔法はウインドアローとストーンバレット、ファイアボールとファイアウォールだそうだ。魔術師としてかなり優秀な人だそうだ。大きな丸眼鏡をかけて如何にも魔術師という雰囲気の人だ。
エナは物理アタッカー。ソードマンだ。魔鉱窟でそれなりに頑張ってレベルが4まで上がったんだそうだ。魔鉱窟だと四階層まで行けてたらしい。
フトーは魔法アタッカー。とりあえず魔法使いで、使える魔法は……リンのストーンバレットってなんなんだろう。ロックバレットの上位互換なのか下位互換なのか。とりあえず土系に特化した感じで、ストーンバレットとロックバレット、それとロックウォールを使えるということにしておいた。
今回、地下三階に行かない&一人じゃない、ということもあって、僕は鉄棍と短剣を持ってきている。それと一応の保険で円盾をリュックに括り付けてある。
リュックにはナイフと石が入っているので、リンの魔法の強さ次第では石をストーンバレットとして使う予定だ。
でだ。
ダンジョン攻略ギルドの方針らしいのだけど、お互いのことを敬称略して呼び合う必要があるそうだ。
今日はじめましての人はいいんだけど、エナさん……エナを呼び捨てするのがちょっと面倒だ。別に嫌な顔をされたりはしないのだが、お互いにさん付けで呼び合ってたのでちょっと変な感じがする。
あ、ちなみに自己紹介で聞いて思い出したんだけど、彼女のフルネームはサカガミエナさんだった。
大樹の根の入口。
ここには今日はコボルトは少なめで四匹しかいなかった。
「お前さんがどれくらいやれるかみたいんだぜ。いつも一人で突破してんだろ?」
「突破することもありますけど、魔石も欲しいからだいたいは倒してますよ?」
「はあ?」
「ギフ、報告したろ?」
ガロが話に入り込んでくる。
「まあな。でもなかなか信じられるもんかよ」
「まーなー。実際に見た俺も夢だったかもとか思ってるとこがあるもんな」
「まあ、とりあえず何匹かやれるか見せてくれねえか? あとはエナ、お前さんもフトーが残したヤツをやってみてくれ。必要ならサポートするからよお」
「コボルトをわたし一人で? う~ん、まあいいけど勝てるかな……フトウさん、あ、フトウ、三匹お願いしてもいい?」
「別にいいですけど」
コボルトだよ?
なんで皆こんなに神妙な感じなんだ?
別にいい、と言った時に他の皆の顔が引きつってたし……コボルトってホントは強い魔物なのか?
魔石はたったの銀貨二枚でしか買い取ってくれないのに。そんなに強い魔物だと思うなら大銀貨くらいで買い取ってほしいものだ。本当に。
とりあえず僕は草むらから出て、一人で大樹に向かって歩いて近付いていった。
魔法も見せる必要があるかな。本当ならリンのストーンバレットを見てからにしたかったんだけど……僕はリュックからアポートで石を一個取り出して、サイコキネシスでそれを一匹のコボルトの頭に撃ち込む。頭を貫通させたところでアスポートでリュックの中にしまった。
そして腰から抜いた短剣をもう一匹に投げつけてから、別の一匹にダッシュして鉄棍の大振りを胴体に打ち付けた。コボルトの体がくの字に曲がって吹っ飛んでいき、少し離れたところで短剣に首を撥ねられた別のコボルトと、頭を撃ち抜かれたコボルトの三匹が程同時に消えていった。
ようやっともう一匹が動き出し、錆びた短剣を振りかざして攻撃してきたけど、これはエナさんの相手だから手を出せない。
鉄棍で剣を捌きつつ後ろを振り返ると、ギフを始め、全員が驚きの顔で固まったままこちらを見ているのが見えた。
朝六時の鐘が街に鳴り響く。
西門の前にはギフを始めとした武装集団が集まっている。
意外に思って「ギフも行くんですか?」と聞いたら「当たり前だ。俺は現役だぜ」と、鼻息荒くドヤ顔をされた。どうやらタンクらしい。
他に知っている顔は、ガロとアトリくらいかな。
あとの人は、大樹の根に移動しつつ、着くまでの間に自己紹介と戦闘時の意識合わせをしようということになった。
でだ。
実はもう一人、思いもしなかったメンバーがいた。
「何でここに?」
「来ちゃった。あはは」
いや、来ちゃった、じゃないよ。
あははと笑ったのはエナさんだ。
なんと、昨日の内に冒険者ギルドを辞めてきて、ダンジョン攻略ギルドに移籍してきたというのだ。
「で、聞いたんだけどさ。フトーさん、ソードマンじゃないんだってぇ?」
随分と馴れ馴れしい感じで僕の肩に自分の肘を(無理して)乗せながら言ってから、彼女は追加で「嘘つき」とも言ってきた。
その言葉を聞いた僕がギフを見ると、彼はそっぽを向いて知らん顔をした。
まあ、最初に、というか今もだけど、正直に話していない僕が悪いのか。
何を言っても回り回って僕に矢が飛んできそうな状況に、僕は出発前からお疲れモードに入りつつあった。
やっぱり一人で動いた方が楽でいいのかなぁ。
大樹の根のダンジョンに向かう道中。
新人のエナさんもいるので、全員が自己紹介をしていった。
ギフはタンク。左手と背中に大盾を持つ大男だ。縦にも横にも大きい。
シュガーもタンク。こちらは右手に中くらいのサイズの菱形の盾、左手には槍を持っている。優しい顔つきの人で喋り方も丁寧だ。この人もギフと同じくらい背が高い。
ボルは物理アタッカー。ソードマンで両手剣で戦闘時は攻撃全振りで動くそうだ。寡黙な人だけど戦闘時には人が変わるから驚かないようにと言われた。
ガロはスカウト。索敵や罠の発見、戦闘時にはアタッカーとしても動けるオールラウンダーだ。性格はお調子者なんだと思う。
アトリはヒーラー。ポーションやスクロール、ヒール魔法での治癒が担当の気怠い感じのお姉さん。切り傷くらいなら魔法で治せるけど、重症レベルのダメージまでは回復できないから気をつけるのよぉ、と本人から言われた。
リンは魔法アタッカー。黒魔導師で使える魔法はウインドアローとストーンバレット、ファイアボールとファイアウォールだそうだ。魔術師としてかなり優秀な人だそうだ。大きな丸眼鏡をかけて如何にも魔術師という雰囲気の人だ。
エナは物理アタッカー。ソードマンだ。魔鉱窟でそれなりに頑張ってレベルが4まで上がったんだそうだ。魔鉱窟だと四階層まで行けてたらしい。
フトーは魔法アタッカー。とりあえず魔法使いで、使える魔法は……リンのストーンバレットってなんなんだろう。ロックバレットの上位互換なのか下位互換なのか。とりあえず土系に特化した感じで、ストーンバレットとロックバレット、それとロックウォールを使えるということにしておいた。
今回、地下三階に行かない&一人じゃない、ということもあって、僕は鉄棍と短剣を持ってきている。それと一応の保険で円盾をリュックに括り付けてある。
リュックにはナイフと石が入っているので、リンの魔法の強さ次第では石をストーンバレットとして使う予定だ。
でだ。
ダンジョン攻略ギルドの方針らしいのだけど、お互いのことを敬称略して呼び合う必要があるそうだ。
今日はじめましての人はいいんだけど、エナさん……エナを呼び捨てするのがちょっと面倒だ。別に嫌な顔をされたりはしないのだが、お互いにさん付けで呼び合ってたのでちょっと変な感じがする。
あ、ちなみに自己紹介で聞いて思い出したんだけど、彼女のフルネームはサカガミエナさんだった。
大樹の根の入口。
ここには今日はコボルトは少なめで四匹しかいなかった。
「お前さんがどれくらいやれるかみたいんだぜ。いつも一人で突破してんだろ?」
「突破することもありますけど、魔石も欲しいからだいたいは倒してますよ?」
「はあ?」
「ギフ、報告したろ?」
ガロが話に入り込んでくる。
「まあな。でもなかなか信じられるもんかよ」
「まーなー。実際に見た俺も夢だったかもとか思ってるとこがあるもんな」
「まあ、とりあえず何匹かやれるか見せてくれねえか? あとはエナ、お前さんもフトーが残したヤツをやってみてくれ。必要ならサポートするからよお」
「コボルトをわたし一人で? う~ん、まあいいけど勝てるかな……フトウさん、あ、フトウ、三匹お願いしてもいい?」
「別にいいですけど」
コボルトだよ?
なんで皆こんなに神妙な感じなんだ?
別にいい、と言った時に他の皆の顔が引きつってたし……コボルトってホントは強い魔物なのか?
魔石はたったの銀貨二枚でしか買い取ってくれないのに。そんなに強い魔物だと思うなら大銀貨くらいで買い取ってほしいものだ。本当に。
とりあえず僕は草むらから出て、一人で大樹に向かって歩いて近付いていった。
魔法も見せる必要があるかな。本当ならリンのストーンバレットを見てからにしたかったんだけど……僕はリュックからアポートで石を一個取り出して、サイコキネシスでそれを一匹のコボルトの頭に撃ち込む。頭を貫通させたところでアスポートでリュックの中にしまった。
そして腰から抜いた短剣をもう一匹に投げつけてから、別の一匹にダッシュして鉄棍の大振りを胴体に打ち付けた。コボルトの体がくの字に曲がって吹っ飛んでいき、少し離れたところで短剣に首を撥ねられた別のコボルトと、頭を撃ち抜かれたコボルトの三匹が程同時に消えていった。
ようやっともう一匹が動き出し、錆びた短剣を振りかざして攻撃してきたけど、これはエナさんの相手だから手を出せない。
鉄棍で剣を捌きつつ後ろを振り返ると、ギフを始め、全員が驚きの顔で固まったままこちらを見ているのが見えた。
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