自由に自在に

もずく

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スカウト

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 結局、その日は店から出ずに、複数発動したレーダーとアラート機能の動作検証を行った。
 検証の為に、途中、何度かテレポーテーションで外に出てみたけど、僕を見張っている連中からは、僕はずっと家に居たように見えたはずだ。

 クレアボヤンスで再度確認したところ、赤茶色の髪の男のことを少し思い出した。確か、僕と同じ日にガチャで召喚された中に居た男だ。
 名前は忘れたけど、確かレア度赤の人だ。聖騎士か忍者だったはず。
 で、この男を含んだ三人は、丸一日店の近くで息を潜めていた。
 ハワードさん達にレーダーを付けることはできたけど、この状態が続くのはよろしくない。
 さて、どちらから片付けようかね。
 とりあえず、ギルドに行ってみようか。途中で誰かに動きがあれば、その時は対応するってことで。

 夕飯を頂いたあと、僕は「ちょっとギフのとこに行ってきます」と言って店を出た。
 僕が店を出ると、レア度赤とガロに動きがあった。ノーラはそのまま店の近くに残るようだ。
 特に攻撃などされることなく、ギルドに到着し、中に入ろうとしたところで声をかけられた。

「あのっ、すいません! フトウ君、ですよね。突然で悪いんですがちょっと時間を貰えないですか」
 別にナイフを突き付けられることなく、振り返ると二メートルほど後方に、少し背の低い、レア度赤の男がいた。
「……どちら様ですか?」
 実際、僕は彼の名前を知らない覚えてないので、こう聞くしかなかった。あの時はお互いに自己紹介もしてなかったし、じいさんに名前を言ってたかも知れないけど、彼のことはあまり記憶がない。それに、僕はすぐにハズレ部屋に隔離されてしまったからね。
「すいません、カゴシマといいます。あの、フトウ君とここに一緒に召喚されたもんです」
「はあ。その、カゴシマさんが僕に何のご用でしょうか」
「ここで立ち話もなんなんで、どこかで」
「だったらここで話しませんか?」
 僕はダンジョン攻略ギルドの扉を開けながら、レア度赤のカゴシマさんとやらにそう言いつつ、中に入っていった。カゴシマさんは、仕方なく、という様子で僕の後をついて中に入ってきた。

 中は相変わらず暗い。
 僕は誰もいないテーブルの席に着き、特にカゴシマさんに椅子を勧めることなく、カウンターにいるギフに話しかけた。
「ギフ、ちょっとこっちにこれますか?」
 カウンター側からは誰が入って来たのかよく分かってなかったようだ。僕の声を聞いて、「おう、随分と久しぶりに顔出しといて俺を呼びつけるたあ何様だこのやろう」と、不機嫌そう、かつ、少し嬉しそうな謎のトーンで返事を返してきた。
「いや、このギルドと僕の相性が良くないみたいなので。色々と気分の悪いことが起こるからちょっと離れようかと思って」
「まあ、この間の話は聞いたぜ。ありゃあ、現地のギルドから「交流の為に」ってんで受け入れさせられた奴でよ。魔石の換金やら備品やらをちょろまかしてやがってな。お前さんの時が一番酷かったみてえだ。すまなかったぜ」
 ギフは近くまで来るとしっかりと頭を下げてきた。
 ビッキーやプニルという現地人チャレンジャー入門者も、交流の為に来ていたらしい。ただ、ビッキーは現地人の冒険者ギルドのようなところから来たスパイだったようだ。ただ、彼は闘士という存在自体が嫌いだった為、スパイというよりは単に態度の悪い若者バカモノという立ち位置で終わったそうだ。
 既に現地人はこのギルドから追い出され、さらに現地人の冒険者ギルドとは確執ができてしまったそうだ。まあ、それはそうなるだろうね。
「で、今日はどうしたんだ? それとこっちは誰だ?」
「実はここ何日か誰かに尾行されているような気がして気持ち悪くて。こういうのってこの世界だとどこに相談すればいいのか聞こうかと思って」
 僕のこの言葉に、カゴシマさんもギフもピクっと反応した。当たり前だけど心当たりがあるんだろう。
「すいません、それ、僕かも知れません。ただ、僕の他にもフトウ君を監視してた人はいたみたいですけど」
 カゴシマさんが小さく手を上げて正直に答えた。ギフは少し困った顔をした。
「何故僕を?」
「実は……」

 カゴシマさんは、自分がチャールズ男爵のところに居る闘士であることと、人員補充のために強い闘士を探していること、その確認のために、まずは直近で召喚した人を見て回っているのだと、かなり正直ベースで話してきた。

「僕はハズレってことで放逐されたんですけどね。そんな人間まで回収しに来たってことは、かなりの人が抜けてしまったんですか?」
「いえ……その……」
「フトー、そいつらのパーティーが崩壊レベルでやられたって話は魔鉱窟じゃ有名なんだぜ」
「崩壊? やられたっていうのは」
「死んだってことだぜ」
 おお……人死が出ていたのか。
「はい。僕らの同期はゴブリンナイトとの戦いで四人亡くなりました。今はもうアキラ君とレンゲさんと僕しか残ってないです」
 アキラ君というのはよくわからないけど、レンゲという人とは温泉の所で少し話したような気がする。
「上位パーティーもレア度が高い人以外は殺られてしまって、今は男爵の所には五人しかいないんです」
「はっ、ざまあねえな。いや、クソだあな。俺等をこんなところに召喚したあの野郎がよ、無理難題押し付けて奥の階層へと無理矢理進めさせたんだろ?」
「アイカワさんもシラカワさんもトキタさんも悪い人じゃなかったです! アオヤギさんはちょっとアレでしたけど……でも彼らの死をざまあないとか言わないでほしいです」
「ああ、わりいな。別に死んじまった奴をバカにしたつもりはねえんだ。ただ、俺をここに呼び出しやがった男爵が失敗してんだって話がよ……いや、言い方が悪かった。すまん」
「いえ……」
「えっと。話の途中ですみません。申し訳ないんですが、僕は男爵の所には行きません。今ギフも言ってましたが、無理矢理この世界に呼び出しておいてポイ捨てしたような奴に使われたくないので」
「そ、そうですよね……昨日の鹿狩りとか凄かったので、来てくれたらパーティーの安定性が上がりそうだったので声をかけさせてもらったんですが……うん。了解です。ちなみにギフさん、でしたか。こちらに男爵の所に来たいって方は」
「いねえな」
「ですよね」

 前にも男爵のところにいる人と話した時に、ハズレとして外に出されたのが羨ましい、みたいに言われたことがあったけど、このカゴシマさんもそんな感じだったな。
 彼は肩を落として扉から出ていった。
 そして、彼が出て行って少し後に、ガロが入ってきたのだった。
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