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あー!!
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「す、少し空気を入れ替えましょうか」
あのあとも、なにやら遠回しにクラさん、ナディアさんの二人から「クラさんと付き合っちゃえばいいじゃない」という流れの話をされていて僕は少し困っていた。
僕はどうやらロックオンされているらしい。
そもそも、ナーグマンの紹介でクラさんと出会ったのは一ヶ月前くらいだ。スキルは白魔道師だと言っていたけど、雰囲気はキャリア系や、エリート系という感じで凛とした雰囲気のある人だ。
商売相手としてやりやすくて好感度は高いけど、正直、現時点で男女として好き嫌いの感情は持ってない。だって、仕事以外の話をするのは今日が初めてなんだから。
そして、開始から一時間半ほどしてお開きの時間となった。
「美味しかった」「楽しかった」と言っていただけて何よりだ。
今の僕は、暫くはお茶の時間は一人で過ごしたい気分だけど。
でも、「また来てもいいですか?」と、ハイネちゃんとクラさんの二人から言われてしまった。ナディアさんが小さくほくそ笑んで「あらまあ」と楽しそうに口にしたのを、僕は聞き逃さなかった。
まだ子供のハイネちゃんを無碍に扱う訳にも行かず、そうなれば同じことを言っているクラさんにも同じ回答をせねばならず、で少し悩んだけど「また声をかけさせてもらいますね」と返すことにした。
それから、かつてのオープンカフェコーナーである家の前で少し話して、ではまた、と別れる瞬間になってそれはやって来た。
「あーーーーー! いたっ!」
「あっ!」
魔鉱窟ダンジョンが消えて、街の喧騒が落ち着いてきたこのエリアに、リンとエナの大きな声が響いたのだった。
僕はこの後用事があると告げてみたのだが、リンとエナが引き下がらず、困ってる僕を見かねてクラさんとナディアさん、それとハイネちゃんが、相手の予定を無視するのは良くないと言ってくれた。
その後、お互いにこの人誰という話になり、ナーグマンのことを知ってるリンとエナが彼を問い詰め始めて面倒なことになってしまった。
とりあえず家の前で騒がれるのは止めてほしかったし、近くにはまだ普通に営業してる店もあるので、一回、家に入ってもらうことにした。
ナーグマンは五人の間に挟まれて冷や汗を流していた。まあ、お茶の途中からずっと知らん顔してたからね。今は僕の身代わりになってください。
しばらくして五人の女性の話が落ち着いたあと、何故か「はっきりしないフトーが悪い」というところに着地したみたいだった。
いや、意味が分からない。
僕から粉をかけた訳じゃないんだけど、と、そんな感じのことを言ったら、ナディアさんが溜息を吐きながら首を横に振った。
「女性から想いを寄せられているのが分かっているのに知らん顔をするのは罪なことです」
この言葉で冷や汗が吹き出したのはナーグマンだ。彼には何か思い当たることがあるんだろう。
「私も過去には辛い思いを感じさせられたものです」
先輩であるナディアさんの言葉に、女性陣、何故かハイネちゃんまでが一緒になって頷いている。
「いや想いを寄せられているとか、そんな直接言われたわけでもないのに」
「言ったのです」
「わたしも言いました~」
え、言われてたっけ?
僕はきっと、本当に「え?」って顔をしてたんだと思う。何故なら、僕の顔を見たリンとエナが「え?」って顔を見せたから。
あれ~、本当に記憶がないんだけどなあ……。
「あの……私はまだちゃんと言えてませんでした。その、始めてやり取りした時からずっと気になってました。まずはまた、ご一緒するお時間をいただけませんか?」
これだけ正面切って大人の女性に言われたら、流石に無碍にはできないよなあ。別に付き合ってください、って言うわけじゃないんだし。
「はい。またお茶でもしましょう」
「はいっ」
そこでリンとエナからブーイングが上がったのだが、更にとんでもない爆弾が落ちてきた。
「わ、わたしもまた一緒にお茶を飲みたいです」
それはハイネちゃんだった。
「な、ハ、ハイネ? あ、あーっ! そうだね。フトーくんのところのブドウジュースは美味しかったからね」
「あらまあ。うふふ」
「違うもん。わたしもフトーさんがいいなって思ったんだもん!」
「ハイネッ……フッ、フトーくん!?」
「あー……うん。さっきも言いましたが、また声をかけさせてもらいますね。美味しい物を用意できるように頑張ります」
「……はいっ」
ハイネちゃんは、違う、という顔を少し見せたけど、それでも断られた訳ではないからか、はいと返事をしてお母さんのところに戻っていった。
よし、じゃあこれで解決かな。
「わたしは~?」
「私はどうなるのです?」
…………。
まあ、これまでのところ、女性として意識したことはほとんどないんだよね。エナの胸圧には反応仕掛けたけど、それは犯罪だと言い聞かせて耐えてきたわけだし。リンとの貸し切り小屋のことだって、僕がなにかした訳じゃないし。
だって、基本的にはダンジョンチャレンジでしか一緒にいないし、それ以外の場面で二人きりでいい雰囲気になったことなんてたぶんないしね。
そんな感じのことを言ったら、割と真面目な感じで「好きです」とか「付き合いたい」とか言われてしまった。
ここで彼女達だけを除け者にすることもできない感じがして困っていたら、ナディアさんが「オーケーしなさい!」という勢いの目力で僕を見てきてることに気が付いた。この人、人の修羅場を楽しんでるだけなんじゃないか……。
自分がいざという時に優柔不断なことが分かる一幕となってしまった。
僕は結局、自分で判断することができずに、リンとエナとも時間を作ることを約束してしまったのだった。
あのあとも、なにやら遠回しにクラさん、ナディアさんの二人から「クラさんと付き合っちゃえばいいじゃない」という流れの話をされていて僕は少し困っていた。
僕はどうやらロックオンされているらしい。
そもそも、ナーグマンの紹介でクラさんと出会ったのは一ヶ月前くらいだ。スキルは白魔道師だと言っていたけど、雰囲気はキャリア系や、エリート系という感じで凛とした雰囲気のある人だ。
商売相手としてやりやすくて好感度は高いけど、正直、現時点で男女として好き嫌いの感情は持ってない。だって、仕事以外の話をするのは今日が初めてなんだから。
そして、開始から一時間半ほどしてお開きの時間となった。
「美味しかった」「楽しかった」と言っていただけて何よりだ。
今の僕は、暫くはお茶の時間は一人で過ごしたい気分だけど。
でも、「また来てもいいですか?」と、ハイネちゃんとクラさんの二人から言われてしまった。ナディアさんが小さくほくそ笑んで「あらまあ」と楽しそうに口にしたのを、僕は聞き逃さなかった。
まだ子供のハイネちゃんを無碍に扱う訳にも行かず、そうなれば同じことを言っているクラさんにも同じ回答をせねばならず、で少し悩んだけど「また声をかけさせてもらいますね」と返すことにした。
それから、かつてのオープンカフェコーナーである家の前で少し話して、ではまた、と別れる瞬間になってそれはやって来た。
「あーーーーー! いたっ!」
「あっ!」
魔鉱窟ダンジョンが消えて、街の喧騒が落ち着いてきたこのエリアに、リンとエナの大きな声が響いたのだった。
僕はこの後用事があると告げてみたのだが、リンとエナが引き下がらず、困ってる僕を見かねてクラさんとナディアさん、それとハイネちゃんが、相手の予定を無視するのは良くないと言ってくれた。
その後、お互いにこの人誰という話になり、ナーグマンのことを知ってるリンとエナが彼を問い詰め始めて面倒なことになってしまった。
とりあえず家の前で騒がれるのは止めてほしかったし、近くにはまだ普通に営業してる店もあるので、一回、家に入ってもらうことにした。
ナーグマンは五人の間に挟まれて冷や汗を流していた。まあ、お茶の途中からずっと知らん顔してたからね。今は僕の身代わりになってください。
しばらくして五人の女性の話が落ち着いたあと、何故か「はっきりしないフトーが悪い」というところに着地したみたいだった。
いや、意味が分からない。
僕から粉をかけた訳じゃないんだけど、と、そんな感じのことを言ったら、ナディアさんが溜息を吐きながら首を横に振った。
「女性から想いを寄せられているのが分かっているのに知らん顔をするのは罪なことです」
この言葉で冷や汗が吹き出したのはナーグマンだ。彼には何か思い当たることがあるんだろう。
「私も過去には辛い思いを感じさせられたものです」
先輩であるナディアさんの言葉に、女性陣、何故かハイネちゃんまでが一緒になって頷いている。
「いや想いを寄せられているとか、そんな直接言われたわけでもないのに」
「言ったのです」
「わたしも言いました~」
え、言われてたっけ?
僕はきっと、本当に「え?」って顔をしてたんだと思う。何故なら、僕の顔を見たリンとエナが「え?」って顔を見せたから。
あれ~、本当に記憶がないんだけどなあ……。
「あの……私はまだちゃんと言えてませんでした。その、始めてやり取りした時からずっと気になってました。まずはまた、ご一緒するお時間をいただけませんか?」
これだけ正面切って大人の女性に言われたら、流石に無碍にはできないよなあ。別に付き合ってください、って言うわけじゃないんだし。
「はい。またお茶でもしましょう」
「はいっ」
そこでリンとエナからブーイングが上がったのだが、更にとんでもない爆弾が落ちてきた。
「わ、わたしもまた一緒にお茶を飲みたいです」
それはハイネちゃんだった。
「な、ハ、ハイネ? あ、あーっ! そうだね。フトーくんのところのブドウジュースは美味しかったからね」
「あらまあ。うふふ」
「違うもん。わたしもフトーさんがいいなって思ったんだもん!」
「ハイネッ……フッ、フトーくん!?」
「あー……うん。さっきも言いましたが、また声をかけさせてもらいますね。美味しい物を用意できるように頑張ります」
「……はいっ」
ハイネちゃんは、違う、という顔を少し見せたけど、それでも断られた訳ではないからか、はいと返事をしてお母さんのところに戻っていった。
よし、じゃあこれで解決かな。
「わたしは~?」
「私はどうなるのです?」
…………。
まあ、これまでのところ、女性として意識したことはほとんどないんだよね。エナの胸圧には反応仕掛けたけど、それは犯罪だと言い聞かせて耐えてきたわけだし。リンとの貸し切り小屋のことだって、僕がなにかした訳じゃないし。
だって、基本的にはダンジョンチャレンジでしか一緒にいないし、それ以外の場面で二人きりでいい雰囲気になったことなんてたぶんないしね。
そんな感じのことを言ったら、割と真面目な感じで「好きです」とか「付き合いたい」とか言われてしまった。
ここで彼女達だけを除け者にすることもできない感じがして困っていたら、ナディアさんが「オーケーしなさい!」という勢いの目力で僕を見てきてることに気が付いた。この人、人の修羅場を楽しんでるだけなんじゃないか……。
自分がいざという時に優柔不断なことが分かる一幕となってしまった。
僕は結局、自分で判断することができずに、リンとエナとも時間を作ることを約束してしまったのだった。
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