タロットダイバー

夏沢誠

文字の大きさ
6 / 17

ワールド・ゲート・カード

しおりを挟む
 男はカードを前にして言った。
「タロットでいえば大アルカナにあたるカードたちです」
「なるほど…」
 たしかに、これらのカードには数字がふられていなかった。タロットの大アルカナが絵札であるように、大黙示も全てが絵札だった。
「私にはこれらのカードは初めて目にするものだが」
「そうでしょう。これらのカードはタロット・カードのように広くは知られてはいません。知る者はごくわずかな隠秘学者だけです。だが、占いができます。世界のことも国のことも人物のことも。そのために作られたのです。タロット占いも危険ですが、このカードでの占いはさらに危険です。あなたがタロット・カード世界へダイヴし、数々の危険と困難を乗り越え、真理を手にして戻ってきたことがあるのをわが主は噂に聞き及んでおります」
 それから男はテーブルに配られたカードを手で示して言った。
「この大黙示の中にワールド・ゲート・カードがあります。そう、このカード世界へと入るための門となるカードです」
 それから静かにこう付け加えた。
「そこはタロットと同じです」
 ワールド・ゲート・カードということは……。
 星鏡は思った。
 このカードであのスプレッドが使えるというのか? 
 タロット・カードの最深奥部に入るための秘伝のスプレッド。
――ダイビング・スプレッド。つまり……。
「私にこのカード世界へダイヴせよと?」
「さよう。主があなたにこのカード世界の中にあるあるものを取ってきて欲しいとのことでございます」
 それは深海に潜り、誰かのあるいは人類の命運を握るカギを海底の泥の中から見つけろ、というのに等しい。限られた酸素、身体にかかる水圧、危険な生物、激しい海流……。だが、宝石のような真理を手にすることもできる。タロット占い師がダイヴしてまで占うのは、依頼者が国王や皇帝、政治家、あるいは大スターや大金持ち、もしくは軍人ティトゥスや没落貴族ヴァレンシュタイン、修道士フェリーチェ・ペレッティのような特別な運命を有していると見えた人物にだけだ。
 タロットなら今までに何度かダイブしたことがあるので、タロット世界がどのような世界なのかは少しはわかっている。それはいわば中世のファンタジーの世界に近い。しかし、初めて目にするカードの世界には何が待ちかまえているのか全くわからなかった。星鏡が考えているのをためらっていると思ったのか、男が言った。
「もちろん、謝礼ははずみます」
 そう言うと、男は、懐に手を入れ、隠しからもぞもぞと何かを引っぱり出そうとした。しかし、その手は衿元までで止められた。男の手の中に黄金色に輝くものがちらりと見えた。男は、その輝きを星鏡に見せつけると、また、手を懐の中へと戻した。男の手の中にあったものは星鏡の目に金の延べ板に映った。
 それを見て星鏡は冗談まじりにこう言った。
「造幣局が贋金作りを絞首台へ送ろうとやっきになって捜査してるようだが」
 科学技術が発達した今では贋金を作ることは簡単ではないが、かつては贋金を作ることはそれほど難しくはなかった。それでこの犯罪に手を染めるものが後を絶たなかった。加えて、贋金が流通すれば貨幣価値が毀損され、経済の混乱を招きかねないので、贋金作りは死罪とされる場合が多かった。百年以上も前のことだ。
「ここまでは追ってこれますまい。もっとも、これはまぎれもない本物の黄金ですが」
 そう答えて、男は小さく低く笑った。
 男が冗談のつもりでそう答えたのか、あるいは本気で答えたのかはわからない。
 金の輝きの残像がまだ星鏡の目に残っていた。星鏡はその目でテーブルの上のカードを眺め回してみた。どれも初めてみるカードだった。タロットのように寓意性を感じるものもあれば、歴史上の人物や実際にあった出来事を象徴しているようなものもある。自然現象を表したものもある。星鏡は精神を集中させて、一枚一枚見ていった。
 カードに描かれた人物のどの顔もこちらへ何かを訴えかけてくる。
 どれがこのデッキの門カードなのか。
 と、突然、カン高い笑い声と野太い声の女言葉の嬌声が脳裏に響いてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

処理中です...