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ワールド・ゲート・カード
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男はカードを前にして言った。
「タロットでいえば大アルカナにあたるカードたちです」
「なるほど…」
たしかに、これらのカードには数字がふられていなかった。タロットの大アルカナが絵札であるように、大黙示も全てが絵札だった。
「私にはこれらのカードは初めて目にするものだが」
「そうでしょう。これらのカードはタロット・カードのように広くは知られてはいません。知る者はごくわずかな隠秘学者だけです。だが、占いができます。世界のことも国のことも人物のことも。そのために作られたのです。タロット占いも危険ですが、このカードでの占いはさらに危険です。あなたがタロット・カード世界へダイヴし、数々の危険と困難を乗り越え、真理を手にして戻ってきたことがあるのをわが主は噂に聞き及んでおります」
それから男はテーブルに配られたカードを手で示して言った。
「この大黙示の中にワールド・ゲート・カードがあります。そう、このカード世界へと入るための門となるカードです」
それから静かにこう付け加えた。
「そこはタロットと同じです」
ワールド・ゲート・カードということは……。
星鏡は思った。
このカードであのスプレッドが使えるというのか?
タロット・カードの最深奥部に入るための秘伝のスプレッド。
――ダイビング・スプレッド。つまり……。
「私にこのカード世界へダイヴせよと?」
「さよう。主があなたにこのカード世界の中にあるあるものを取ってきて欲しいとのことでございます」
それは深海に潜り、誰かのあるいは人類の命運を握るカギを海底の泥の中から見つけろ、というのに等しい。限られた酸素、身体にかかる水圧、危険な生物、激しい海流……。だが、宝石のような真理を手にすることもできる。タロット占い師がダイヴしてまで占うのは、依頼者が国王や皇帝、政治家、あるいは大スターや大金持ち、もしくは軍人ティトゥスや没落貴族ヴァレンシュタイン、修道士フェリーチェ・ペレッティのような特別な運命を有していると見えた人物にだけだ。
タロットなら今までに何度かダイブしたことがあるので、タロット世界がどのような世界なのかは少しはわかっている。それはいわば中世のファンタジーの世界に近い。しかし、初めて目にするカードの世界には何が待ちかまえているのか全くわからなかった。星鏡が考えているのをためらっていると思ったのか、男が言った。
「もちろん、謝礼ははずみます」
そう言うと、男は、懐に手を入れ、隠しからもぞもぞと何かを引っぱり出そうとした。しかし、その手は衿元までで止められた。男の手の中に黄金色に輝くものがちらりと見えた。男は、その輝きを星鏡に見せつけると、また、手を懐の中へと戻した。男の手の中にあったものは星鏡の目に金の延べ板に映った。
それを見て星鏡は冗談まじりにこう言った。
「造幣局が贋金作りを絞首台へ送ろうとやっきになって捜査してるようだが」
科学技術が発達した今では贋金を作ることは簡単ではないが、かつては贋金を作ることはそれほど難しくはなかった。それでこの犯罪に手を染めるものが後を絶たなかった。加えて、贋金が流通すれば貨幣価値が毀損され、経済の混乱を招きかねないので、贋金作りは死罪とされる場合が多かった。百年以上も前のことだ。
「ここまでは追ってこれますまい。もっとも、これはまぎれもない本物の黄金ですが」
そう答えて、男は小さく低く笑った。
男が冗談のつもりでそう答えたのか、あるいは本気で答えたのかはわからない。
金の輝きの残像がまだ星鏡の目に残っていた。星鏡はその目でテーブルの上のカードを眺め回してみた。どれも初めてみるカードだった。タロットのように寓意性を感じるものもあれば、歴史上の人物や実際にあった出来事を象徴しているようなものもある。自然現象を表したものもある。星鏡は精神を集中させて、一枚一枚見ていった。
カードに描かれた人物のどの顔もこちらへ何かを訴えかけてくる。
どれがこのデッキの門カードなのか。
と、突然、カン高い笑い声と野太い声の女言葉の嬌声が脳裏に響いてきた。
「タロットでいえば大アルカナにあたるカードたちです」
「なるほど…」
たしかに、これらのカードには数字がふられていなかった。タロットの大アルカナが絵札であるように、大黙示も全てが絵札だった。
「私にはこれらのカードは初めて目にするものだが」
「そうでしょう。これらのカードはタロット・カードのように広くは知られてはいません。知る者はごくわずかな隠秘学者だけです。だが、占いができます。世界のことも国のことも人物のことも。そのために作られたのです。タロット占いも危険ですが、このカードでの占いはさらに危険です。あなたがタロット・カード世界へダイヴし、数々の危険と困難を乗り越え、真理を手にして戻ってきたことがあるのをわが主は噂に聞き及んでおります」
それから男はテーブルに配られたカードを手で示して言った。
「この大黙示の中にワールド・ゲート・カードがあります。そう、このカード世界へと入るための門となるカードです」
それから静かにこう付け加えた。
「そこはタロットと同じです」
ワールド・ゲート・カードということは……。
星鏡は思った。
このカードであのスプレッドが使えるというのか?
タロット・カードの最深奥部に入るための秘伝のスプレッド。
――ダイビング・スプレッド。つまり……。
「私にこのカード世界へダイヴせよと?」
「さよう。主があなたにこのカード世界の中にあるあるものを取ってきて欲しいとのことでございます」
それは深海に潜り、誰かのあるいは人類の命運を握るカギを海底の泥の中から見つけろ、というのに等しい。限られた酸素、身体にかかる水圧、危険な生物、激しい海流……。だが、宝石のような真理を手にすることもできる。タロット占い師がダイヴしてまで占うのは、依頼者が国王や皇帝、政治家、あるいは大スターや大金持ち、もしくは軍人ティトゥスや没落貴族ヴァレンシュタイン、修道士フェリーチェ・ペレッティのような特別な運命を有していると見えた人物にだけだ。
タロットなら今までに何度かダイブしたことがあるので、タロット世界がどのような世界なのかは少しはわかっている。それはいわば中世のファンタジーの世界に近い。しかし、初めて目にするカードの世界には何が待ちかまえているのか全くわからなかった。星鏡が考えているのをためらっていると思ったのか、男が言った。
「もちろん、謝礼ははずみます」
そう言うと、男は、懐に手を入れ、隠しからもぞもぞと何かを引っぱり出そうとした。しかし、その手は衿元までで止められた。男の手の中に黄金色に輝くものがちらりと見えた。男は、その輝きを星鏡に見せつけると、また、手を懐の中へと戻した。男の手の中にあったものは星鏡の目に金の延べ板に映った。
それを見て星鏡は冗談まじりにこう言った。
「造幣局が贋金作りを絞首台へ送ろうとやっきになって捜査してるようだが」
科学技術が発達した今では贋金を作ることは簡単ではないが、かつては贋金を作ることはそれほど難しくはなかった。それでこの犯罪に手を染めるものが後を絶たなかった。加えて、贋金が流通すれば貨幣価値が毀損され、経済の混乱を招きかねないので、贋金作りは死罪とされる場合が多かった。百年以上も前のことだ。
「ここまでは追ってこれますまい。もっとも、これはまぎれもない本物の黄金ですが」
そう答えて、男は小さく低く笑った。
男が冗談のつもりでそう答えたのか、あるいは本気で答えたのかはわからない。
金の輝きの残像がまだ星鏡の目に残っていた。星鏡はその目でテーブルの上のカードを眺め回してみた。どれも初めてみるカードだった。タロットのように寓意性を感じるものもあれば、歴史上の人物や実際にあった出来事を象徴しているようなものもある。自然現象を表したものもある。星鏡は精神を集中させて、一枚一枚見ていった。
カードに描かれた人物のどの顔もこちらへ何かを訴えかけてくる。
どれがこのデッキの門カードなのか。
と、突然、カン高い笑い声と野太い声の女言葉の嬌声が脳裏に響いてきた。
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