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78話 ここに居るために戦うのです
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「仕方ない、しばらくカイトは国王陛下に貸します。ちゃんと返してくださいね」
「……返さないとダメか?」
「ダメです。うちもまだ長期出張のものが戻ってないので、人手不足です」
「むぅ、ダメか……では、カイト、追って指示を出す。下がってよいぞ」
「……失礼します」
もしかして、国王は隊長には弱いのか……? はぁ、どんな指示かちょっと恐ろしいけど、やるしかない。
***
国王から指示が出たのは、それから1週間後のことだった。国王との連絡役のリュージンさんが伝えてくれる。闇魔法の使い手で、影移動であちこち空間移動できるらしい。便利な魔法だ。
「え……? 隣国から使者が来てるから、そいつと一緒に行けって?」
「はい、国王陛下からはそのように伺っております」
「イヤです! カイトさん、私あの国には帰りたくありません!!」
「ねえ、カイト、国王陛下は何か考えがあるのかな?」
「うん、どうも何か考えてるらしいんだけど、教えてくれなかったんだよな。ウラノス、何があってもオレが守ると約束するから、一緒に行ってくれないか?」
ウラノスはうつむいて黙り込んでしまった。いつもはこんな我儘なんて言わないんだ、それだけ嫌なんだよな……。
「リュージンさん、返事は明日でもいいですか? 無理強いしたくないんです。あと、使者はなんて言ってきてるんですか?」
「承知しました。使者は炎極の谷から不死鳥の長フェニンの使いが来て、ウラノスを谷に戻せと言って来たそうです。もし戻さなければ、国を焼き払うと……必死に探して、ようやく居場所を突き止めたと泣いてましたよ」
おぅ……それは見つけたら泣いちゃうかもな。でも国を焼き尽くすって、そもそも置き去りにしたのは別の不死鳥じゃないか。ここにも何か食い違いがあるのか?
「じゃぁ、申し訳ないんですけど、また明日お願いします」
リュージンさんは「大丈夫ですよ」と言って、影の中に消えていった。
「ウラノス、ちょっと話をしようか」
「……はい」
***
オレはウラノスを連れて練習場の屋根の上にのぼった。ここは穴場で、アトリアの街を一望できるんだ。他の人に、特にリナに聞かれたら恥ずかしいから、こんなところを選んだ。
「オレさ、最初はFランクのハンターで融合魔法しか使えなかったんだ。でも諦めずに練習したおかげでリュカオンと融合してこんなに強くなれた。そしてリナと出会って、ウラノスも仲間にできたんだ」
「Fランクのハンター? そうなんですか?」
「そうだよ、元のパーティーメンバーからも追放されたし」
「……追放されたんですか? カイトさんが?」
「うん、でもそこで決心したんだ。もう何も奪われないように強くなるって」
「……私には、そんなの……できません」
ウラノスは膝に乗せた手をかたく握っている。
そうだな。いままで、たくさん傷ついてきたんだよな。わかるよ。オレも本当に強くなれたのは、きっとリナがオレの仲間になってくれたからだ。だから、ウラノス、お前がひとりじゃないって気付いてほしい。
「ウラノスはひとりじゃないだろ? オレもリナもリュカオンもいるだろう? みんなで戦おう。ウラノスの居場所を奪われないように」
「……私を、役立たずの私でも仲間だと認めてくれるのですか……? ずっとここに居てもいいのですか?」
「ウラノスはウラノスだろ。役立たずとか関係ないよ。もうオレのパーティーメンバーなんだから、ずっとここに居ればいいだろ」
ウラノスの紅い瞳から涙がひとすじ流れる。そのまま目一杯溜まった涙は流れつづけた。
「私っ……いつか出て行かなければと、思っていたので……居ていいんだ……」
「うん、そのために、一度決着つけてこよう」
「決着……もし、どうしてもの時は手伝ってもらえますか……?」
「任せとけ!」
「はい! よろしくお願いします!!」
涙を流しながら笑うウラノスの笑顔は、輝いていた。
そして、翌日にリュージンさんに同行すると返事をして、オレたちは炎極の谷にむかった。
「……返さないとダメか?」
「ダメです。うちもまだ長期出張のものが戻ってないので、人手不足です」
「むぅ、ダメか……では、カイト、追って指示を出す。下がってよいぞ」
「……失礼します」
もしかして、国王は隊長には弱いのか……? はぁ、どんな指示かちょっと恐ろしいけど、やるしかない。
***
国王から指示が出たのは、それから1週間後のことだった。国王との連絡役のリュージンさんが伝えてくれる。闇魔法の使い手で、影移動であちこち空間移動できるらしい。便利な魔法だ。
「え……? 隣国から使者が来てるから、そいつと一緒に行けって?」
「はい、国王陛下からはそのように伺っております」
「イヤです! カイトさん、私あの国には帰りたくありません!!」
「ねえ、カイト、国王陛下は何か考えがあるのかな?」
「うん、どうも何か考えてるらしいんだけど、教えてくれなかったんだよな。ウラノス、何があってもオレが守ると約束するから、一緒に行ってくれないか?」
ウラノスはうつむいて黙り込んでしまった。いつもはこんな我儘なんて言わないんだ、それだけ嫌なんだよな……。
「リュージンさん、返事は明日でもいいですか? 無理強いしたくないんです。あと、使者はなんて言ってきてるんですか?」
「承知しました。使者は炎極の谷から不死鳥の長フェニンの使いが来て、ウラノスを谷に戻せと言って来たそうです。もし戻さなければ、国を焼き払うと……必死に探して、ようやく居場所を突き止めたと泣いてましたよ」
おぅ……それは見つけたら泣いちゃうかもな。でも国を焼き尽くすって、そもそも置き去りにしたのは別の不死鳥じゃないか。ここにも何か食い違いがあるのか?
「じゃぁ、申し訳ないんですけど、また明日お願いします」
リュージンさんは「大丈夫ですよ」と言って、影の中に消えていった。
「ウラノス、ちょっと話をしようか」
「……はい」
***
オレはウラノスを連れて練習場の屋根の上にのぼった。ここは穴場で、アトリアの街を一望できるんだ。他の人に、特にリナに聞かれたら恥ずかしいから、こんなところを選んだ。
「オレさ、最初はFランクのハンターで融合魔法しか使えなかったんだ。でも諦めずに練習したおかげでリュカオンと融合してこんなに強くなれた。そしてリナと出会って、ウラノスも仲間にできたんだ」
「Fランクのハンター? そうなんですか?」
「そうだよ、元のパーティーメンバーからも追放されたし」
「……追放されたんですか? カイトさんが?」
「うん、でもそこで決心したんだ。もう何も奪われないように強くなるって」
「……私には、そんなの……できません」
ウラノスは膝に乗せた手をかたく握っている。
そうだな。いままで、たくさん傷ついてきたんだよな。わかるよ。オレも本当に強くなれたのは、きっとリナがオレの仲間になってくれたからだ。だから、ウラノス、お前がひとりじゃないって気付いてほしい。
「ウラノスはひとりじゃないだろ? オレもリナもリュカオンもいるだろう? みんなで戦おう。ウラノスの居場所を奪われないように」
「……私を、役立たずの私でも仲間だと認めてくれるのですか……? ずっとここに居てもいいのですか?」
「ウラノスはウラノスだろ。役立たずとか関係ないよ。もうオレのパーティーメンバーなんだから、ずっとここに居ればいいだろ」
ウラノスの紅い瞳から涙がひとすじ流れる。そのまま目一杯溜まった涙は流れつづけた。
「私っ……いつか出て行かなければと、思っていたので……居ていいんだ……」
「うん、そのために、一度決着つけてこよう」
「決着……もし、どうしてもの時は手伝ってもらえますか……?」
「任せとけ!」
「はい! よろしくお願いします!!」
涙を流しながら笑うウラノスの笑顔は、輝いていた。
そして、翌日にリュージンさんに同行すると返事をして、オレたちは炎極の谷にむかった。
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