6 / 62
6話 歯が痛いですわ!!②
いつものように校舎に入ってからは、ライオネル様と別行動になる。
ずっと気になっていたのは、馬車での無言の時間だ。なんとなくライオネル様の様子もおかしかった。
私が俯いていたから、心配されたのかしら?
嫌だわ、わたくしのことでライオネル様のお心を煩わせたくないのに。
ドリカさんがいなくなっても、嫌がらせがなくなることはない。移動教室の時に教科書が隠されてしまったので、予備のものをカバンから取り出した。
日常茶飯事なので常に予備を持ち歩いているから、わたくしにはノーダメージだ。
さらにいつも突っかかってくるシルビア様まで様子がおかしかった。
「ちょっと、あなた。どうしたの? その貼り付けたような笑顔は。なにかおつらいことでもありましたの?」
「…………」
わたくしは返事ができないので、コクリと頷く。
シルビア様は話しかけにくいところがあるけれど、心根は優しい方だ。なにより陰口を叩かない。しかもわたくしが心から笑っていないと、ひと目で見抜いた。
当然、シルビア様は早々にライオネル様に紹介済みである。貴族としては素直すぎるところがあるけれど、公爵家のご令嬢ならば家の力である程度のことはどうとでもなる。
できることなら家がどうこうは関係なく、わたくしも友人になりたいものだ。
「どうなさったの? 私でよければ話くらい聞いて差し上げるわよ」
ツンとすました横顔なのに、話している内容は温かい。そんなシルビア様の魅力に気付いている人はどれくらいいるのかしら?
でも、困ったわね。歯が痛すぎてなにも話せないわ。
「勘違いしないでよ!? ライオネル様の様子がいつもと違っていたのは、あなたが原因なのではなくて!?」
「…………」
なんと、シルビア様もライオネル様がいつもと違うと感じ取っていた。ファンクラブの会員番号一桁は伊達じゃないようだ。
しかしどうやっても、歯が痛くて声を出せない。そこでノートとペンを取り出して、筆談することにした。
【ご心配いただきありがとうございます。実は、歯が痛くて口を開けられないのです】
わたくしの書いた文字をチラリと見て、シルビア様は保健室まで連れていってくれた。最後の最後まで「ライオネル様のためですからね!」と言っていたけど、わたくしはやっぱりシルビア様と友人になりたい。
素直じゃないのはまったく気にならないし、むしろあの必死な感じがかわいらしく見えるもの。
保健室では治癒魔法を使える先生がわたくしの状態を見てくれた。
筆談を交えて状況を伝えると、まずは治癒魔法をかけてくれる。温かな白い光に包まれて身体がぽかぽかして心地よかった。
「どう? 痛みはよくなったかしら?」
表情筋を動かそうとして、やはりズキーンと痛みが走る。
わたくしはゆっくりと顔を左右に振った。
「そう、うーん困ったわね。今使った治癒魔法より上の魔法だと、専門機関でないと受けられないわ。もしくはお屋敷に上級治癒魔法の使い手はいらっしゃる?」
「…………」
伯爵家の領地まで戻れば確かにいるけれど、この学院に通うため暮らしているタウンハウスにそこまでの治癒魔法の使い手はいない。
でもお父様もお母様もちょうど社交シーズンでタウンハウスに滞在しているから、帰ったら相談してみよう。
それにしても治癒魔法でも消えない痛みとは、原因がさっぱりわからない。
【屋敷に戻ったら父に相談してみます。授業だけ受けて帰ります】
そう書き記して保健室を後にした。
保健室の先生が教科ごとの先生に周知してくれたので、授業で当てられることもなく静かに過ごすことができた。
教室に戻ってからシルビア様にお礼を伝えると「そんなのはいいから早く帰りなさい!」と叱られてしまった。
でも帰るつもりはない。
なによりもライオネル様を心配させてしまう。心優しいライオネル様は例え嫌いな婚約者だとしても、気にせずにはいられない方だもの。
それにライオネル様と過ごせるランチタイムと帰りの馬車の時間を失いたくなかった。
そう、わたくしは呆れるほど、この愛に盲目なのだ。
あなたにおすすめの小説
傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました
みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。
ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。
侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw
さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」
ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。
「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」
いえ! 慕っていません!
このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。
どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。
しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……
*設定は緩いです
世界の現実は、理不尽で残酷だ――平等など存在しない
こもど
恋愛
「学園内は、身分に関係なく平等であるべきです」
その“正義”が、王国を崩しかけた。
王太子ルイスは、貴族学院で平民出身の聖女マリアがいじめられたと信じ、
婚約者である公爵令嬢アリエノール・ダキテーヌを断罪し、婚約破棄を宣言する。
だが――
たとえそれが事実であったとしても、
それは婚約破棄の正当な理由にはならなかった。
貴族社会において、婚約とは恋愛ではない。
それは契約であり、権力であり、国家の均衡そのものだ。
「世界は、残酷で不平等なのです」
その現実を理解しないまま振るわれた“善意の正義”は、
王太子の廃嫡、聖女の幽閉、王家と公爵家の決定的な断絶を招く。
婚約破棄は恋愛劇では終わらない。
それは、国家が牙を剥く瞬間だ。
本作は、
「いじめられたという事実があっても、それは免罪符にはならない」
「平等を信じた者が、最も残酷な結末に辿り着く」
そんな現実を、徹底して描く。
――これは、ざまぁではない。
誰も救われない、残酷な現実の物語である。
※本作は中世ヨーロッパをモデルにしたフィクションです。
学園制度・男女共学などは史実とは異なりますが、
権力構造と政治的判断の冷酷さを重視して描いています。
---
【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-
七瀬菜々
恋愛
ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。
両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。
もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。
ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。
---愛されていないわけじゃない。
アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。
しかし、その願いが届くことはなかった。
アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。
かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。
アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。
ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。
アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。
結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。
望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………?
※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。
※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。
※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。
【完結】ヒーローとヒロインの為に殺される脇役令嬢ですが、その運命変えさせて頂きます!
Rohdea
恋愛
──“私”がいなくなれば、あなたには幸せが待っている……でも、このまま大人しく殺されるのはごめんです!!
男爵令嬢のソフィアは、ある日、この世界がかつての自分が愛読していた小説の世界である事を思い出した。
そんな今の自分はなんと物語の序盤で殺されてしまう脇役令嬢!
そして、そんな自分の“死”が物語の主人公であるヒーローとヒロインを結び付けるきっかけとなるらしい。
どうして私が見ず知らずのヒーローとヒロインの為に殺されなくてはならないの?
ヒーローとヒロインには悪いけど……この運命、変えさせて頂きます!
しかし、物語通りに話が進もうとしていて困ったソフィアは、
物語のヒーローにあるお願いをする為に会いにいく事にしたけれど……
2022.4.7
予定より長くなったので短編から長編に変更しました!(スミマセン)
《追記》たくさんの感想コメントありがとうございます!
とても嬉しくて、全部楽しく笑いながら読んでいます。
ですが、実は今週は仕事がとても忙しくて(休みが……)その為、現在全く返信が出来ず……本当にすみません。
よければ、もう少しこのフニフニ話にお付き合い下さい。
私の婚約者と駆け落ちした妹の代わりに死神卿へ嫁ぎます
あねもね
恋愛
本日、パストゥール辺境伯に嫁ぐはずの双子の妹が、結婚式を放り出して私の婚約者と駆け落ちした。だから私が代わりに冷酷無慈悲な死神卿と噂されるアレクシス・パストゥール様に嫁ぎましょう。――妹が連れ戻されるその時まで!
※一日複数話、投稿することがあります。
※2022年2月13日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう
おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。
本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。
初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。
翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス……
(※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。