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40話 夜会に招待されましたわ!②
しおりを挟むその日もいつものようにクリストファー殿下にビシバシと厳しい言葉を浴びせていたが、まったく挫ける気配がない。
ランチタイムをいつものように食堂で過ごしていたが、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
こうなった原因がわかれば対処方法が見つかるかもしれない。
「クリストファー殿下。なぜ小国の伯爵令嬢でしかなないわたくしに、ここまで固執するのですか?」
「ああ、言っていなかったか? 初めて会ったあの海辺で、お前の強気な態度と他人のために怒りを露わにする姿に惚れたんだ」
「え?」
「これでも第二皇子だから、声をかければ擦り寄ってくる女ばかりだった。婚約者がいても恋人がいても、そんなのはいなかったように媚びてくる。だから本気で愛することはなかった」
「…………」
なんということだろう。
それが本心なら、今までわたくしが取ってきた行動は、物珍しさに拍車をかけただけなのでは?
「一途に婚約者を想うお前を見て、俺もこんなふうに愛してほしいと思った。だから俺はお前をなんとしても手に入れたい」
その言葉にクリストファー殿下の本心が垣間見えた。
自分を愛してほしい——その気持ちは痛いほどよくわかる。わたくしもずっとそう思ってきた。
でもそれは横から奪っても手に入れられるものではない。自分で築き上げていくものだ。
ライル様は態度こそ冷たかったけれど、行動には優しさがあふれていた。今ではそれが当時のライル様の精一杯だったと理解できる。そして、それがあったからわたくしはあきらめずに努力し続けられた。
わたくしがあきらめなかったから、呪いにかかった時に想いを打ち明けられたのだと思う。
どちらかだけの努力では、愛は続かない。互いに与え合うから育まれていくのだ。
「クリストファー殿下、わたくしはライル様だから一途に愛せるのです」
「だから、その婚約者がいなくなれば、俺を愛せるだろう?」
「そうではなくて——」
「ごきげんよう、クリストファー殿下、ハーミリアさん」
突然割り込んできたのは、マリアン様だ。
その手には王家の封蝋が施された手紙を持っている。
「ごきげんよう、マリアン様」
「なんだ、俺とハーミリアの時間に無粋だな」
「まあ、それは申し訳ございません。ですが、こちらの招待状をどうしてもおふたり一緒の時にお渡ししたかったのです。どうぞこの場でご覧いただけますか?」
そうして差し出されたのは、夜会の招待状だった。王家主催のもので、重大発表があるから招待状を受け取った貴族は絶対参加と書かれている。これはわたくし個人宛となっていた。
「ハーミリアさんのご家族にも同様のものが届いているはずですわ。私はこの場で渡したのは、ライオネル様がいらっしゃらないから、エスコート役をクリストファー殿下にお願いできないかと思ったのです」
「そういうことか! もちろん俺がハーミリアをスコートしよう」
「ありがとうございます、クリストファー殿下。私はお兄様のパートナーとして参加しますので、当日お会いできるのを楽しみにしてますわ」
わたくしの意見などまったく聞かずに話が進んでしまう。
このままではいけないと、不敬を覚悟で口を開いた。
「恐れ入りますが、マリアン様。わたくしは婚約者がいる身ですので、クリストファー殿下のエスコートを受けるわけにはまいりません」
「あら、それは問題ないわ。ライオネル様がご不在なのは王家でも把握してますから、これだけで不義だと追求しません。それよりも帝国の第二皇子であるクリストファー殿下が、おひとりで参加される方が問題でしょう? クリストファー殿下の世話役でもある貴女が適任よ」
「…………」
「では当日、よろしくお願いしますわ」
わたくしがうまく反論できずにいると、マリアン様がニヤリと口角を歪めてこれで終わりだと押し切った。
この夜会でクリストファー殿下のエスコートを受けたら、わたくしにとって嬉しくない状況になるのはわかりきっているのに、断る術がなかった。
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