秋色のおくりもの

藤谷 郁

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その後、透さんは京都の大学に進み、卒業後はその土地の企業に就職した。新幹線で2時間の距離。たった2時間だけど、なんと遠いことか。

母の予測どおり、彼は地元に戻らなかったけれど、実家を出てからも、盆と正月、そして柿の収穫時期には必ず帰省した。


年に数回帰省する彼が柿畑で作業する姿を、ちらりと見るのが精一杯の私だったが、一度だけ、タクシーで帰ってきたところに偶然通りかかった。

彼は23歳の社会人。

そして私は13歳。やっと中学1年生。

タクシーから降り立つ彼はスーツ姿で、ますますイケメンに磨きがかかっている。素敵すぎて、私は卒倒しそうだった。

それに比べて私ときたら、コンプレックスの塊の思春期真っ只中。

あろうことか部活帰りのジャージ姿で、髪はぼさぼさ。汗まみれの顔を洗ってもいない。

背中にしょった黄色のリュックは薄汚れている。

『久しぶりだね、桃子ちゃん』

爽やかに微笑む優しい顔に一瞬見惚れるが、すぐ我に返る。

透さんのきれいに梳かした髪。高そうなスーツ。鞄も靴もぴかぴかで、一分の隙も見当たらない。

とてつもなく立派な成人男性に対し、萎縮しないのは無理だった。

透さんは運転手に料金を払うと、こちらを向いた。

『桃子ちゃんも中学生かあ』

私は目を合わせられないまま、こくりと頷く。

『部活の帰り? 何部に入ってるの』

『り、陸上……』

『そうか』

タクシーが行ってしまい、しーんとした道端で二人きり。

私は彼に近付くこともできず、会話をつなげることもできずに突っ立ったまま。みじめで、かっこ悪い、田舎の中学生。

(だめだ、限界だ)

もう、耐えられなかった。

『桃子ちゃん、もしよかったら……』

『失礼しまッス!』

透さんが何か言いかけるのを遮り、そのまま全力疾走で逃げ、家に飛び込んだ。

かっこいい。イケメンすぎる。

あんな素敵な人に恋人がいないわけがない。

もうだめだ!

『失礼しまッスってなんだよ。ッスって、スって……わたし!』

またしても失恋の気分。

私は涙ぐんだ。

馬鹿だと思うけれど、それが思春期。どうしようもなかった。



それ以降も、透さんが帰省するたびに遭遇した。場所は必ず柿畑であり、彼はいつも何かしら作業していた。

13歳の私がとった失礼な態度を怒りもせず、いつも優しく声をかけてくれた。収穫の時期に通りかかると必ず呼び止めて、柿の実をひとつ渡してくれる。

そして私は相変わらず、小さな声でお礼を言うのみ。少しずつ、笑みを返せるようにはなったけれど、気の利いた言葉は出てこない。

どこの高校か、クラブは、先生は……と、問いかけてくれる彼に答えるのみ。会うたび素敵になる初恋の人に、どきどきしてしまう。


高校時代に、同級生の男の子と少しだけ付き合ったことがある。

でも、友情止まりで恋愛には至らなかった。

透さんに抱くような感情は、誰を見ても湧いてこない。彼以上のイケメンでも、彼以上に優しい人でも無理だった。

透さんの魅力は自分にとって特別なものだと、徐々に気付いてくる。

忘れるなんてできない。


毎年手にする、彼からのおくりもの。美味しそうに色付いた実は秋色の宝物。

皮を剥き、彼を想いながらさくっとかじる。

そのたびに、恋が深まっていく。
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