琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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エリックの苦悩

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 エリックは明らかに動揺している。 
 あちこちがたついた小屋には秋風が吹き込み、消えかかりそうな暖炉の火が、この男の貧しさを物語っていた。 
「俺は違う……あの記事には関わっていない。本当だ」 
「では、誰が書いたのでしょう? 私はそれを訊きに来たのです。教えてください」 
「訊いてどうしようって言うんだ。何を調べてるんだ、あんたは」 
 エリックはよろよろと立ち上がると、大小さまざまな瓶が並ぶ棚から、果実酒とラベルが貼られたものとグラスを二つ取り、テーブルに置いた。 

「すまないが、暖炉にくべる薪も少ない。これで温まってくれ」 
 黄褐色の液体を、曇ったグラスにトポトポと注いでサキに差し出す。 
「はしばみ酒だ。俺の手製だよ」 
 サキの肩からエリックの動きを目で追っていたルズが、そっと耳打ちする。
「飲んじゃ駄目だよ」 
 サキは頷くと、グラスに手を付けず話を続けた。 
「失礼ですが、『世界の伝承・神秘の伝説』という雑誌は、少部数の会報のようなものですか? 簡易な製本を見て、私は思ったのですが……」 

 エリックはサキの顔に暗い目を据えると、口に含んだ酒を急いで飲み下してから言った。 
「あんた、その雑誌をどこで見た。どこにあったんだ?」 
「協力していただければ、お教えしますよ。もう一杯どうです」 
 サキは自分のグラスを彼の前にすすめた。 
 エリックはその行為を、呆然として見返す。 
「それは、あんたの分だ」 
「いりませんよ。体が温まるどころか、芯まで冷たくなってしまいそう」 
 サキのグラスに、エリックが何か擦り付けたのをルズが見ていた。不穏な動きは、彼の持つ情報が深刻かつ重要なものであるのを知らせている。 

「エリックさん、私に何もかも話してください。残りの金塊を全部差し上げますよ。逃亡費用になるでしょう?」
 サキは椅子に深く腰掛け、落ち着いた口調で言う。ただし油断はしていない。
「……あんたは何者だ」 
「もう一度お訊ねします。プラドー家の記事を書いたのはあなたですね」 
 エリックの問いを無視して、最初の質問を繰り返す。彼は力なく顔を上げてサキを見やった。しばし考えていたが、やがてしっかりと顎を引く。 
「そうだ。俺は20年前……正確に言えば19年前の冬、俺はまだ記者として新人だった。好事家向けの少部数雑誌の取材だったが、素晴らしい記事を書いてやろうと意気込んでいた」 

「その雑誌が、『世界の伝承・神秘の伝説』ですね」 
 サキは懐からその雑誌を取り出してみせた。 
「ああ……」 
 エリックは複雑な表情になる。悲しいような、懐かしいような、そして恐怖するような。それらすべてが彼の感情なのだろう。 
「発行部数はたったの100部。売れ残ったぶんも含め99冊は回収したが、どうしても残りの1冊が見つからなかった。どこにあったんだ」 
「ゴアドア王国の世界図書館です」 
「ゴアドア? ……あの恐ろしい魔物が棲むという、暗黒の森に囲まれた国か」 
「ええ。ゴアドアの図書館員は、世界中の本を集めるため外国にも散らばっているの。少部数雑誌まで収集の対象とは、私も驚いています」
「そんな……国外にあったとは……」
 エリックは頭を抱えた。

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