琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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ブリーズへ

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 酒場は歓迎ムードで盛り上がる。
 サキはマスターに金塊の一部を渡し、居合わせたすべての客に酒を振舞った。気前のいい女傑の登場で場はお祭り騒ぎだが、男達は饒舌になり、サキはスムーズに仕事を進めることができた。
 ルズはカウンターの隅にちょこんと座り、マスターにもらったミネラルウォーターをチビチビと舐めている。
「さすが、ラルフの人選だね」
 海の荒くれどもを相手に、苦もなく情報収集するサキを、納得の表情で眺めるのだった。


 最悪なことに、出版社は潰れていた。
 20年ほど前のある日、建物が全焼したのだ。倉庫もかねていたので、出版物の在庫もなにもかも燃えて灰になったという。
 そして不思議なことに、出版社で働いていた記者や編集者、従業員らがその日を境にこつぜんと姿を消したらしい。焼け跡に遺体はなく、いまだ行方不明なのだ。
 ブリーズ最大のミステリーだと、酒場の男達はサキに語った。もう絶望かとうな垂れるサキだが、とある情報が顔を上げさせた。
「ただ1人、その時旅に出ていた男がいて、そいつだけは残っているがね」


 サキは酒場を出ると、適当な宿屋を探して身体を休めたが、なかなか眠れない。まんじりともしないまま夜が明け、彼女はすぐに捜査を再開させた。

 そして今、出版社で唯一残った人物が住むという、粗末な家の前にいる。
 ここは、街外れにある小山の麓。山小屋のような建物のドアをノックすると、その男がおずおずと顔を出した。
「……どなたですか」
 隠者のような風貌である。心を閉ざした者の目つきだった。
「突然、失礼します。私はゴアドア国からの旅行者でサキと申します。あなたが『世界の伝承・神秘の伝説』を出版した会社にお勤めだった記者だとお聞きして……」
 いきなり閉じられようとしたドアを、サキは足を突っ込んで止めた。
「帰ってくれ!」
「お話をするだけです。ご迷惑はおかけしません」
「今、迷惑なんだ」
「まあそう仰らずに。失礼ですが、聞くところによると暮らし向きは楽ではないようですねえ。これでいかがでしょう?」
 ラルフの金塊は大いにものを言った。サキはすんなり通されて、彼と向き合うことができた。

 元記者はエリックという名で、出版社が火事になった時は外国の取材をしており、不在だったそうだ。だからあの不気味な集団失踪事件に巻き込まれずに済んだと、ぽつぽつと語った。
 サキにはもう分かっていた。
 20年ほど前に起きた火災。そして集団失踪。プラドー家の伝承が取材されたのも同じ時期である。
 元記者の虚ろな目と、人生にすっかり疲れ、やせこけた頬。
「エリックさん、あなたですね。プラドー家の伝承について記事を書いたのは」


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