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ブリーズへ
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暗黒の森を抜け、猛烈な勢いで飛ぶこと半日。
サキ博士とルズは、広大な港を中心に漁業と観光産業で発展する国、ブリーズに辿り着いた。大陸の南に位置し、ゴアドアからもトーマからもさして遠くない場所にある。
ルズは夜になるのを待ち、山側から密やかに入国した。辺境警備の兵士にも、その羽音は聞こえなかった。
「あなたは飛行の天才ね、ルズ」
背中で姿勢を低くするサキに褒められ、妖獣はまんざらでもない。
「まかせといてよ。伊達にラルフの相棒を1000年もやってませんってね」
指示された場所まで飛ぶと、ルズはサキをそっと降ろし、素早く元の姿に戻った。
「ここら辺でいいんだよね」
サキの肩に掴まり、キョロキョロと見回す。
レンガ造りの建物が並ぶ通りは静まり返っている。人家ではなく、商業用の建物のようだ。人が住んでいる気配はなかった。
道は緩やかな下り坂で、真っ直ぐ行くと港に出るようだ。通りの先に、暗い海が横たわっているのがルズの丸い目に映った。
「そうね。暗くて分かりにくいけれど、ここで間違いないようね」
サキは手の甲に記された住所と、建物に貼られたプレートを見比べた。
「番地は……」
建物を順番に見てゆく。
「3の45…3の45……ああ、なんてこと!」
住所どおりの番地を見つけたが、そこには何もない。不自然に切り取られたような、空き地があるだけだった。
「出版社が建物ごとくなっている。 一体どうして?」
サキは暗い中、空き地の隅々まで目を凝らした。よく見ると、周りの建物の壁が焦げている。
「火事……火事で建物が焼失したようね」
悔しそうにつぶやき、眉根を寄せた。しかしルズが不安げに覗き込むと、サキは眼鏡の位置をきちんと直し、前を向いた。
「港のほうは明るいわ。手がかりを探してみましょう」
懐の金塊を確かめた。これを生かして、何とかしようではないか。
酒場は土地の男達、他国の船乗り、観光客らで賑わっていた。
サキは場違いな白衣姿のまま、その間を縫って奥のカウンターへ進んだ。
むくつけき男達が、あからさまな好奇の視線を投げかけてくる。サキは何も恐れず、何も気にならなかった。ラルフの眼差しに比べたら、どれも皆かわいいものである。
カウンター席に座ると、マスターに地酒でいちばん強いものを頼んだ。
「知りませんよ。火を噴いて倒れたって」
親切に言うマスターから酒を受け取ると、サキは後ろを向いた。さっきからこちらを気にしている、土地の男達に高々と掲げてみせる。
「いいぞー、美人のお姉さん! 一気に空けちまえよ。ぶっ倒れたら俺達が介抱してやらあ」
野太い冷やかし、口笛と猥雑な笑い声が飛び交った。
黙って見守っていたルズは、顔をしかめた。荒っぽい雰囲気は好きではない。
しかしサキは余裕の顔。男達に乾杯すると、グラスを一気に空けた。あまりにも気持ち良い飲みっぷりに、店中が歓声を上げる。
「ああ美味しい! やっぱり地酒がいちばんね」
サキはにっこりと笑った。
サキ博士とルズは、広大な港を中心に漁業と観光産業で発展する国、ブリーズに辿り着いた。大陸の南に位置し、ゴアドアからもトーマからもさして遠くない場所にある。
ルズは夜になるのを待ち、山側から密やかに入国した。辺境警備の兵士にも、その羽音は聞こえなかった。
「あなたは飛行の天才ね、ルズ」
背中で姿勢を低くするサキに褒められ、妖獣はまんざらでもない。
「まかせといてよ。伊達にラルフの相棒を1000年もやってませんってね」
指示された場所まで飛ぶと、ルズはサキをそっと降ろし、素早く元の姿に戻った。
「ここら辺でいいんだよね」
サキの肩に掴まり、キョロキョロと見回す。
レンガ造りの建物が並ぶ通りは静まり返っている。人家ではなく、商業用の建物のようだ。人が住んでいる気配はなかった。
道は緩やかな下り坂で、真っ直ぐ行くと港に出るようだ。通りの先に、暗い海が横たわっているのがルズの丸い目に映った。
「そうね。暗くて分かりにくいけれど、ここで間違いないようね」
サキは手の甲に記された住所と、建物に貼られたプレートを見比べた。
「番地は……」
建物を順番に見てゆく。
「3の45…3の45……ああ、なんてこと!」
住所どおりの番地を見つけたが、そこには何もない。不自然に切り取られたような、空き地があるだけだった。
「出版社が建物ごとくなっている。 一体どうして?」
サキは暗い中、空き地の隅々まで目を凝らした。よく見ると、周りの建物の壁が焦げている。
「火事……火事で建物が焼失したようね」
悔しそうにつぶやき、眉根を寄せた。しかしルズが不安げに覗き込むと、サキは眼鏡の位置をきちんと直し、前を向いた。
「港のほうは明るいわ。手がかりを探してみましょう」
懐の金塊を確かめた。これを生かして、何とかしようではないか。
酒場は土地の男達、他国の船乗り、観光客らで賑わっていた。
サキは場違いな白衣姿のまま、その間を縫って奥のカウンターへ進んだ。
むくつけき男達が、あからさまな好奇の視線を投げかけてくる。サキは何も恐れず、何も気にならなかった。ラルフの眼差しに比べたら、どれも皆かわいいものである。
カウンター席に座ると、マスターに地酒でいちばん強いものを頼んだ。
「知りませんよ。火を噴いて倒れたって」
親切に言うマスターから酒を受け取ると、サキは後ろを向いた。さっきからこちらを気にしている、土地の男達に高々と掲げてみせる。
「いいぞー、美人のお姉さん! 一気に空けちまえよ。ぶっ倒れたら俺達が介抱してやらあ」
野太い冷やかし、口笛と猥雑な笑い声が飛び交った。
黙って見守っていたルズは、顔をしかめた。荒っぽい雰囲気は好きではない。
しかしサキは余裕の顔。男達に乾杯すると、グラスを一気に空けた。あまりにも気持ち良い飲みっぷりに、店中が歓声を上げる。
「ああ美味しい! やっぱり地酒がいちばんね」
サキはにっこりと笑った。
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