琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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飛び立った魔法使い

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「そしてとうとう、その時がきた」
「そうです。ベル様がペンダントを身に着けたまま、ゴアドアへ行くと書置きをして家を出たのです」
「行き先を告げて家出というのが、お嬢様らしい」
 ラルフはつまらなそうに言うと、ポットの紅茶を注いでミルクを加え、ぐるぐるとスプーンでかき混ぜた。
(ベルはこの森で迷っていた。そして、ゴアドアの王侯貴族ではなく私に目を付けられた。遊び半分の家出が、こんな結末を迎えようとは露ほども思わず)

「ベル様の捜索隊が組まれると聞いた時、チャンスだと思い立候補しました。旦那様も奥様も、藁をもつかむ思いだったのでしょう。特に疑問も持たず、私を隊列に加えました」
 ミアも紅茶を注ぎ、同じようにミルクを入れてスプーンでかきまぜた。
「でも途中で皆、魔物を恐れて散り散りに逃げてしまい……私はひとりぼっちになり」
「私に拾われた」
 紅茶をごくりと飲み、ミアは頷いた。

「ベルを姉と偽ったのは、プラドーの命令だったな」
「はい。でもベル様と私が姉妹など、誰が信じるでしょう。無意味だと思い、家政婦であることはあなたにすぐ告白しました」
「しかし、黒のゴアはベルから預けられたという嘘はつき通した」
「それは……これが私自身の持ち物だと分かったら、ラルフ様に追及されると思って」
「そうだな。私は最初からずっと、そのペンダントに注目していた。それから、もう一つの嘘について。お前はベルを実の姉のように大切な人だと言った。私は見事に信じたよ。大した演技だった」
「は、はい……それは、申し訳ありません……」
 ミアはばつが悪そうだが、ラルフは穏やかに微笑んでいる。もうすべて分かっているのだ。

「そのほうが自然だと思ったので。青のゴアではなく"大切なベル様"を捜しているといったほうが、ゴアからあなたの注意を逸らせると思って」
「無意味だったな。私は青のゴアをとっくに手に入れていた」
 ラルフはミアの首にかかる革ひもをたぐり、結び目を解いた。そして、マントのポケットから取り出した青のゴアをそれに通し、二つの石を並べる。
「ラルフ様……?」

「黒と青のゴア。お前に預ける。しっかりと守れよ」
 呆然とするミアに言い置くと、食堂の窓から外へ出て行く。
「あ、ラルフ様、どこへ……」
「仕事だ」
 ラルフは唇に指を当て、何ごとか呟いた。すると、彼の全身が煙に巻かれ、次の瞬間には巨大な猛禽に変身していた。真っ黒な羽毛に覆われた、妖獣である。
「!?」
 驚いて駆け寄るミアを待たず、彼は大空に舞い上がると、あっという間に飛んで行ってしまった。

「魔法使い……」
 ミアは二つのゴアを握りしめ、彼が飛び立った大空を眩しそうに見つめた。


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