琥珀色の花嫁

藤谷 郁

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ティナの愛

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「ディエゴ、最後に訊く。それからティナはどうなった。記憶を失ってから……」
 ディエゴはうな垂れている。今にもこと切れそうだった。
「……ティナは、わしの召使いにした。殺してしまおうと……考えたが、もしそれがあの魔王に知れたら、わしは八つ裂きにされるだろう」
 魔王とは、偉大なる魔法使い……ラルフの父王である。
「ゴアドア王はトーマ国と完全に縁を切るため、二つの国の繋がりを示す書物を魔法で書き換え、一部の王侯貴族を除き、すべての人々から過去の記憶を消し去った。そんな中、わしは城から放逐された不名誉な名を捨て、プラドーと名を改め、貴族として一族を繁栄させた。トーマ王の座を乗っ取ろうとしたのだが、ゴアドア王の魔力がそれを許さず、貴族止まりだったよ……くく……」

 ディエゴは自嘲的な笑みを浮かべる。彼はこの世でただ一人、ゴアドアの初代王――魔王だけを恐れていた。

「……ティナは……記憶を失くしたティナは、ただただ目障りな存在だった。だがいつか、思い出すかもしれん。黒のゴアを知っている可能性もゼロではない。いまいましい女だが……家政婦として、屋敷内においた」
 ラルフは一歩前に出て、それを確かめる。最も気にかけている、その後について。
「ティナはどこの誰と子を成した。幸せだったのか……?」
 姉のように、母のように、ティナを慕っていた。あの頃の、一途な愛情を抱く少年に、ラルフは戻っている。ミアにも、サキやルズにも分かることができた。
 ラルフは確かに、温かな血の通った人間なのだ。
「……ティナ……は、屋敷で働く家政婦長の息子と、家庭を持ち……笑っておった。王も、ラルフも、ゴアも、すべて忘れて……記憶など失ってしまったほうが……幸せ……」
 ディエゴはそこまで言うと、がくりと首を垂れた。

 ラルフは目を閉じ、天窓から射す光の中に佇む。
 ティナには勇気がなかったと父王は言った。
 世界を危険に晒すのを恐れ、愛を貫くことができなかった。
 そう言いたかったのかも知れない。
 だが、ラルフはそれこそが勇気だと、愛だと思う。胸が苦しいほどに伝わってくる。

 ティナは未来に託したのだ。
 彼女の愛がラルフに届くのを信じて、自分の何もかもを、子孫に託した。

 そしてそれはミアにまで受け継がれた。
 1000年もの時を越えて、ティナはラルフに届けてくれた。
 白く輝く、聖なる光……純粋な愛情を。

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