81 / 88
ティナの愛
3
しおりを挟む
「ディエゴ、最後に訊く。それからティナはどうなった。記憶を失ってから……」
ディエゴはうな垂れている。今にもこと切れそうだった。
「……ティナは、わしの召使いにした。殺してしまおうと……考えたが、もしそれがあの魔王に知れたら、わしは八つ裂きにされるだろう」
魔王とは、偉大なる魔法使い……ラルフの父王である。
「ゴアドア王はトーマ国と完全に縁を切るため、二つの国の繋がりを示す書物を魔法で書き換え、一部の王侯貴族を除き、すべての人々から過去の記憶を消し去った。そんな中、わしは城から放逐された不名誉な名を捨て、プラドーと名を改め、貴族として一族を繁栄させた。トーマ王の座を乗っ取ろうとしたのだが、ゴアドア王の魔力がそれを許さず、貴族止まりだったよ……くく……」
ディエゴは自嘲的な笑みを浮かべる。彼はこの世でただ一人、ゴアドアの初代王――魔王だけを恐れていた。
「……ティナは……記憶を失くしたティナは、ただただ目障りな存在だった。だがいつか、思い出すかもしれん。黒のゴアを知っている可能性もゼロではない。いまいましい女だが……家政婦として、屋敷内においた」
ラルフは一歩前に出て、それを確かめる。最も気にかけている、その後について。
「ティナはどこの誰と子を成した。幸せだったのか……?」
姉のように、母のように、ティナを慕っていた。あの頃の、一途な愛情を抱く少年に、ラルフは戻っている。ミアにも、サキやルズにも分かることができた。
ラルフは確かに、温かな血の通った人間なのだ。
「……ティナ……は、屋敷で働く家政婦長の息子と、家庭を持ち……笑っておった。王も、ラルフも、ゴアも、すべて忘れて……記憶など失ってしまったほうが……幸せ……」
ディエゴはそこまで言うと、がくりと首を垂れた。
ラルフは目を閉じ、天窓から射す光の中に佇む。
ティナには勇気がなかったと父王は言った。
世界を危険に晒すのを恐れ、愛を貫くことができなかった。
そう言いたかったのかも知れない。
だが、ラルフはそれこそが勇気だと、愛だと思う。胸が苦しいほどに伝わってくる。
ティナは未来に託したのだ。
彼女の愛がラルフに届くのを信じて、自分の何もかもを、子孫に託した。
そしてそれはミアにまで受け継がれた。
1000年もの時を越えて、ティナはラルフに届けてくれた。
白く輝く、聖なる光……純粋な愛情を。
ディエゴはうな垂れている。今にもこと切れそうだった。
「……ティナは、わしの召使いにした。殺してしまおうと……考えたが、もしそれがあの魔王に知れたら、わしは八つ裂きにされるだろう」
魔王とは、偉大なる魔法使い……ラルフの父王である。
「ゴアドア王はトーマ国と完全に縁を切るため、二つの国の繋がりを示す書物を魔法で書き換え、一部の王侯貴族を除き、すべての人々から過去の記憶を消し去った。そんな中、わしは城から放逐された不名誉な名を捨て、プラドーと名を改め、貴族として一族を繁栄させた。トーマ王の座を乗っ取ろうとしたのだが、ゴアドア王の魔力がそれを許さず、貴族止まりだったよ……くく……」
ディエゴは自嘲的な笑みを浮かべる。彼はこの世でただ一人、ゴアドアの初代王――魔王だけを恐れていた。
「……ティナは……記憶を失くしたティナは、ただただ目障りな存在だった。だがいつか、思い出すかもしれん。黒のゴアを知っている可能性もゼロではない。いまいましい女だが……家政婦として、屋敷内においた」
ラルフは一歩前に出て、それを確かめる。最も気にかけている、その後について。
「ティナはどこの誰と子を成した。幸せだったのか……?」
姉のように、母のように、ティナを慕っていた。あの頃の、一途な愛情を抱く少年に、ラルフは戻っている。ミアにも、サキやルズにも分かることができた。
ラルフは確かに、温かな血の通った人間なのだ。
「……ティナ……は、屋敷で働く家政婦長の息子と、家庭を持ち……笑っておった。王も、ラルフも、ゴアも、すべて忘れて……記憶など失ってしまったほうが……幸せ……」
ディエゴはそこまで言うと、がくりと首を垂れた。
ラルフは目を閉じ、天窓から射す光の中に佇む。
ティナには勇気がなかったと父王は言った。
世界を危険に晒すのを恐れ、愛を貫くことができなかった。
そう言いたかったのかも知れない。
だが、ラルフはそれこそが勇気だと、愛だと思う。胸が苦しいほどに伝わってくる。
ティナは未来に託したのだ。
彼女の愛がラルフに届くのを信じて、自分の何もかもを、子孫に託した。
そしてそれはミアにまで受け継がれた。
1000年もの時を越えて、ティナはラルフに届けてくれた。
白く輝く、聖なる光……純粋な愛情を。
0
あなたにおすすめの小説
丘の上の王様とお妃様
よしき
恋愛
木崎珠子(35才)は、大学を卒業後、帝国財閥の子会社に勤めていた、ごくごく平凡なOLだった。しかし、同じ職場の彼に二股をかけられ、職場にも居づらくなり、あげくに両親が交通事故でいっぺんに他界。結局会社を退職し、両親がやっていた喫茶店「坂の上」を引き継ごうと、地元へ帰ってくる。喫茶店の仕事は、会社務めに比べると、珠子にはなんとなくあっているようで...ご近所さんを相手にユルくやっていた。そんな珠子が地元へ戻ってから半年ほどして、喫茶店「坂の上」の隣にある、通称「お化け屋敷」と呼ばれる大豪邸に、帝国財閥の偉い人が越してくると話題になる。珠子は、「別の世界の人間」だからと、あまり意識をしていなかったのだか...
「お化け屋敷」の噂からひと月後。いつもは見ない紳士が、喫茶「坂の上」によってきて。そこから始まる現代シンデレラ物語
隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる
玉響
恋愛
平和だったカヴァニス王国が、隣国イザイアの突然の侵攻により一夜にして滅亡した。
カヴァニスの王女アリーチェは、逃げ遅れたところを何者かに助けられるが、意識を失ってしまう。
目覚めたアリーチェの前に現れたのは、祖国を滅ぼしたイザイアの『隻眼の騎士王』ルドヴィクだった。
憎しみと侮蔑を感情のままにルドヴィクを罵倒するが、ルドヴィクは何も言わずにアリーチェに治療を施し、傷が癒えた後も城に留まらせる。
ルドヴィクに対して憎しみを募らせるアリーチェだが、時折彼の見せる悲しげな表情に別の感情が芽生え始めるのに気がついたアリーチェの心は揺れるが………。
※内容の一部に残酷描写が含まれます。
簒奪女王と隔絶の果て
紺乃 安
恋愛
穏やかな美青年王子が、即位した途端に冷酷な王に変貌した。そしてそれが、不羈の令嬢ベアトリスの政略結婚相手。
ポストファンタジー宮廷ロマンス小説。
※拙作「山賊王女と楽園の涯」の完結編という位置づけでもありますが、知らなくとも問題ないよう書いてあります。興味があればそちらもお読みください(ただしずいぶんジャンルが違い、とても長いです)。
工場夜景
藤谷 郁
恋愛
結婚相談所で出会った彼は、港の製鉄所で働く年下の青年。年齢も年収も関係なく、顔立ちだけで選んだ相手だった――仕事一筋の堅物女、松平未樹。彼女は32歳の冬、初めての恋を経験する。
Emerald
藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。
叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。
自分にとっては完全に新しい場所。
しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。
仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。
〜main cast〜
結城美咲(Yuki Misaki)
黒瀬 悠(Kurose Haruka)
※作中の地名、団体名は架空のものです。
※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。
※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。
ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
不器用な大富豪社長は、闇オクで買った花嫁を寵愛する
獅月@体調不良
恋愛
「 御前を幸せにする為に、俺は買ったんだ 」
〜 闇オク花嫁 〜
毒親である母親の為だけに生きてきた彼女は、
借金を得た母の言葉を聞き、
闇オークションへ売られる事になった。
どんな形にしろ借金は返済出来るし、
母の今後の生活面も確保出来る。
そう、彼女自身が生きていなくとも…。
生きる希望を無くし、
闇オークションに出品された彼女は
100億で落札された。
人食を好む大富豪か、
それとも肉体を求めてか…。
どちらにしろ、借金返済に、
安堵した彼女だが…。
いざ、落札した大富豪に引き渡されると、
その容姿端麗の美しい男は、
タワマンの最上階から5階部分、全てが自宅であり、
毎日30万のお小遣いですら渡し、
一流シェフによる三食デザート付きの食事、
なにより、彼のいない時間は好きにしていいという自由時間を言い渡した。
何一つ手を出して来ない男に疑問と不満を抱く日々……だが……?
表紙 ニジジャーニーから作成
エブリスタ同時公開
モース10
藤谷 郁
恋愛
慧一はモテるが、特定の女と長く続かない。
ある日、同じ会社に勤める地味な事務員三原峰子が、彼をネタに同人誌を作る『腐女子』だと知る。
慧一は興味津々で接近するが……
※表紙画像/【イラストAC】NORIMA様
※他サイトに投稿済み
楽園 ~きみのいる場所~
深冬 芽以
恋愛
事故で手足が不自由になった悠久《はるか》は、離婚して行き場を失くしていた義姉の楽《らく》を世話係として雇う。
派手で我儘な女王様タイプの妻・萌花《もか》とは正反対の地味で真面目で家庭的な楽は、悠久に高校時代の淡い恋を思い出させた。
「あなたの指、綺麗……」
忘れられずにいた昔の恋人と同じ言葉に、悠久は諦めていたリハビリに挑戦する。
一つ屋根の下で暮らすうちに惹かれ合う悠久と楽。
けれど、悠久には妻がいて、楽は義姉。
「二人で、遠くに行こうか……。きみが一緒なら、地獄でさえも楽園だから――」
二人の行く先に待っているのは、地獄か楽園か……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる