15 / 198
夢の時間
2
しおりを挟む
なぜ総支配人が?
よく分からないが、由比さんはよほど信頼されていないらしい。
実は問題を抱えた人なのかしらと不安になるが、すぐに否定した。
三保コンフォートのトップともあろう人が、不埒な人物のはずがない。
それに昨夜、彼は紳士だと関根さん自身が保証したではないか。強引なやり方で客を困らせていないか、心配なだけなのだ。
「それでは予定どおりに、9時にロビーでお待ち合わせということで。実はつい先ほど、アポを確認しておくようにとCEOから電話がありまして、その時に初めて大月様とのお約束を知らされたのです」
「そうなんですね」
「はい……」
前もって知っていたら止めていた。と言いたげな様子。またしても不安になりかけるが、振り払った。
とにかくもう、ことは決まったのだ。
「ところで大月様」
関根さんがワゴンを押して部屋を出ていこうとして、こちらに向き直った。あらたまった口調にドキッとする。
「な、なんでしょうか」
「ウーチューブをご覧になられますか?」
「?」
唐突な質問に、一瞬ぽかんとした。
「あ、ウーチューブ……動画配信アプリですか?」
「はい」
意図は図りかねるが、彼女の真顔に応じて真面目に答える。
「旅行関係の動画をたまに見るくらいですが、あの……それがなにか?」
「あ、いえ、すみません。失礼いたします」
「??」
関根さんはお辞儀をして、そそくさと出て行ってしまった。
「由比さんの話とウーチューブに、何の関係が??」
一人きりになった部屋に、コーヒーの香りが漂う。
テーブルの上には、ベーコンチーズのフレンチトーストと温かなスープ。ビタミンたっぷりサラダに、季節のフルーツが並んでいる。
「よく分からないけど……腹が減っては戦ができぬ。うん、とりあえず食べよう」
なんだか急にお腹が空いて、はてなマークを頭に乗っけたまま朝食を頬張った。
待ち合わせ時間の5分前にロビーに行くと、由比さんが既に待っていた。
すぐ私に気が付き、爽やかな笑顔で近づいてくる。
「大月さん、おはようごさいます」
「お、おはようございます!」
シンプルな柄のニットに黒のパンツ。ジャケットを手にした彼は、昨夜とは異なりカジュアルなスタイルだ。
CEOとしてのパリッとしたスーツ姿も素敵だが、ラフな魅力を感じさせる服装もカッコよくて、私はドキドキした。
「お待たせしてすみません」
「いえ、まだ5分前ですし、私も今来たところなんですよ」
「そ、そうなんですね」
由比さんが私を見つめ、嬉しそうにうなずく。
「ふふっ、今朝はまたいちだんと可愛らしい」
「……えっ?」
聞き逃しそうな小さな声だったが、ロビーが静かなためちゃんと聞き取れた。
今、「可愛らしい」と言った?
私の戸惑いを知ってか知らずか、由比さんは微笑んでいる。
「さあ、行きましょう。大月さんが望まれる場所へ、ご案内いたします」
「あ、は、はいっ」
(か、可愛らしいって、どういう意味だろう)
よもや、顔のことではあるまい。とすると、髪型とか服装についてだろうか。
髪は後ろにまとめてシュシュで結んだ。ふわっとした白いセーターに、グレイ地にピンクチェックのパンツを合わせている。
昨夜のワンピースも似たような色みだったし、同じようなテイストだ。
だけど、全体的に地味なコーディネートだし、由比さんのように華やかでスタイリッシュな男性が、こういった服をお好きだなんて意外だ。
いやいや、そんなはずがない。
可愛らしいというのは、子どもっぽいという意味だ。都合よく受け取ってはいけない。
「大月さん?」
「あ、すみませんっ」
あれこれ考えるうちに足が止まっていた。自意識過剰な自分に呆れ、それを見抜かれた気がして汗が出てくる。
「慌てなくても大丈夫です。今日は一日、ゆっくり過ごしましょう。ご気分がすぐれなければ、すぐに教えてください。私が、お守りいたします」
「は、はい……」
王子様の優しさに、私は返事するのがやっと。ちょっとした言葉へのこだわりなど、吹き飛んでしまった。
由比さんが寄り添うように、だけど適切な距離感を保って私を導く。油断すると転んでしまいそうで、慎重な足取りで玄関へと進んだ。
よく分からないが、由比さんはよほど信頼されていないらしい。
実は問題を抱えた人なのかしらと不安になるが、すぐに否定した。
三保コンフォートのトップともあろう人が、不埒な人物のはずがない。
それに昨夜、彼は紳士だと関根さん自身が保証したではないか。強引なやり方で客を困らせていないか、心配なだけなのだ。
「それでは予定どおりに、9時にロビーでお待ち合わせということで。実はつい先ほど、アポを確認しておくようにとCEOから電話がありまして、その時に初めて大月様とのお約束を知らされたのです」
「そうなんですね」
「はい……」
前もって知っていたら止めていた。と言いたげな様子。またしても不安になりかけるが、振り払った。
とにかくもう、ことは決まったのだ。
「ところで大月様」
関根さんがワゴンを押して部屋を出ていこうとして、こちらに向き直った。あらたまった口調にドキッとする。
「な、なんでしょうか」
「ウーチューブをご覧になられますか?」
「?」
唐突な質問に、一瞬ぽかんとした。
「あ、ウーチューブ……動画配信アプリですか?」
「はい」
意図は図りかねるが、彼女の真顔に応じて真面目に答える。
「旅行関係の動画をたまに見るくらいですが、あの……それがなにか?」
「あ、いえ、すみません。失礼いたします」
「??」
関根さんはお辞儀をして、そそくさと出て行ってしまった。
「由比さんの話とウーチューブに、何の関係が??」
一人きりになった部屋に、コーヒーの香りが漂う。
テーブルの上には、ベーコンチーズのフレンチトーストと温かなスープ。ビタミンたっぷりサラダに、季節のフルーツが並んでいる。
「よく分からないけど……腹が減っては戦ができぬ。うん、とりあえず食べよう」
なんだか急にお腹が空いて、はてなマークを頭に乗っけたまま朝食を頬張った。
待ち合わせ時間の5分前にロビーに行くと、由比さんが既に待っていた。
すぐ私に気が付き、爽やかな笑顔で近づいてくる。
「大月さん、おはようごさいます」
「お、おはようございます!」
シンプルな柄のニットに黒のパンツ。ジャケットを手にした彼は、昨夜とは異なりカジュアルなスタイルだ。
CEOとしてのパリッとしたスーツ姿も素敵だが、ラフな魅力を感じさせる服装もカッコよくて、私はドキドキした。
「お待たせしてすみません」
「いえ、まだ5分前ですし、私も今来たところなんですよ」
「そ、そうなんですね」
由比さんが私を見つめ、嬉しそうにうなずく。
「ふふっ、今朝はまたいちだんと可愛らしい」
「……えっ?」
聞き逃しそうな小さな声だったが、ロビーが静かなためちゃんと聞き取れた。
今、「可愛らしい」と言った?
私の戸惑いを知ってか知らずか、由比さんは微笑んでいる。
「さあ、行きましょう。大月さんが望まれる場所へ、ご案内いたします」
「あ、は、はいっ」
(か、可愛らしいって、どういう意味だろう)
よもや、顔のことではあるまい。とすると、髪型とか服装についてだろうか。
髪は後ろにまとめてシュシュで結んだ。ふわっとした白いセーターに、グレイ地にピンクチェックのパンツを合わせている。
昨夜のワンピースも似たような色みだったし、同じようなテイストだ。
だけど、全体的に地味なコーディネートだし、由比さんのように華やかでスタイリッシュな男性が、こういった服をお好きだなんて意外だ。
いやいや、そんなはずがない。
可愛らしいというのは、子どもっぽいという意味だ。都合よく受け取ってはいけない。
「大月さん?」
「あ、すみませんっ」
あれこれ考えるうちに足が止まっていた。自意識過剰な自分に呆れ、それを見抜かれた気がして汗が出てくる。
「慌てなくても大丈夫です。今日は一日、ゆっくり過ごしましょう。ご気分がすぐれなければ、すぐに教えてください。私が、お守りいたします」
「は、はい……」
王子様の優しさに、私は返事するのがやっと。ちょっとした言葉へのこだわりなど、吹き飛んでしまった。
由比さんが寄り添うように、だけど適切な距離感を保って私を導く。油断すると転んでしまいそうで、慎重な足取りで玄関へと進んだ。
10
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
高嶺の花の高嶺さんに好かれまして。
桜庭かなめ
恋愛
高校1年生の低田悠真のクラスには『高嶺の花』と呼ばれるほどの人気がある高嶺結衣という女子生徒がいる。容姿端麗、頭脳明晰、品行方正な高嶺さんは男女問わずに告白されているが全て振っていた。彼女には好きな人がいるらしい。
ゴールデンウィーク明け。放課後にハンカチを落としたことに気付いた悠真は教室に戻ると、自分のハンカチの匂いを嗅いで悶える高嶺さんを見つける。その場で、悠真は高嶺さんに好きだと告白されるが、付き合いたいと思うほど好きではないという理由で振る。
しかし、高嶺さんも諦めない。悠真に恋人も好きな人もいないと知り、
「絶対、私に惚れさせてみせるからね!」
と高らかに宣言したのだ。この告白をきっかけに、悠真は高嶺さんと友達になり、高校生活が変化し始めていく。
大好きなおかずを作ってきてくれたり、バイト先に来てくれたり、放課後デートをしたり、朝起きたら笑顔で見つめられていたり。高嶺の花の高嶺さんとの甘くてドキドキな青春学園ラブコメディ!
※2学期編4が完結しました!(2025.8.4)
※お気に入り登録や感想、いいねなどお待ちしております。
You Could Be Mine ぱーとに【改訂版】
てらだりょう
恋愛
高身長・イケメン・優しくてあたしを溺愛する彼氏はなんだかんだ優しいだんなさまへ進化。
変態度も進化して一筋縄ではいかない新婚生活は甘く・・・はない!
恋人から夫婦になった尊とあたし、そして未来の家族。あたしたちを待つ未来の家族とはいったい??
You Could Be Mine【改訂版】の第2部です。
↑後半戦になりますので前半戦からご覧いただけるとよりニヤニヤ出来るので是非どうぞ!
※ぱーといちに引き続き昔の作品のため、現在の状況にそぐわない表現などございますが、設定等そのまま使用しているためご理解の上お読みいただけますと幸いです。
羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。
泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。
でも今、確かに思ってる。
―――この愛は、重い。
------------------------------------------
羽柴健人(30)
羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問
座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』
好き:柊みゆ
嫌い:褒められること
×
柊 みゆ(28)
弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部
座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』
好き:走ること
苦手:羽柴健人
------------------------------------------
わたしたち、いまさら恋ができますか?
樹沙都
恋愛
藤本波瑠《ふじもとはる》は、仕事に邁進するアラサー女子。二十九歳ともなればライフスタイルも確立しすっかり独身も板についた。
だが、条件の揃った独身主義の三十路には、現実の壁が立ちはだかる。
身内はおろか取引先からまで家庭を持って一人前と諭され見合いを持ち込まれ、辟易する日々をおくる波瑠に、名案とばかりに昔馴染みの飲み友達である浅野俊輔《あさのしゅんすけ》が「俺と本気で恋愛すればいいだろ?」と、囁いた。
幼かった遠い昔、自然消滅したとはいえ、一度はお互いに気持ちを通じ合わせた相手ではあるが、いまではすっかり男女を超越している。その上、お互いの面倒な異性関係の防波堤——といえば聞こえはいいが、つまるところ俊輔の女性関係の後始末係をさせられている間柄。
そんなふたりが、いまさら恋愛なんてできるのか?
おとなになったふたりの恋の行方はいかに?
妖狐の嫁入り
山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」
稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。
ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。
彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。
帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。
自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!
&
苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る!
明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。
可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ!
※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
僕の姉的存在の幼馴染が、あきらかに僕に好意を持っている件〜
柿 心刃
恋愛
僕の幼馴染で姉的な存在である西田香奈は、眉目秀麗・品行方正・成績優秀と三拍子揃った女の子だ。彼女は、この辺りじゃ有名な女子校に通っている。僕とは何の接点もないように思える香奈姉ちゃんが、ある日、急に僕に急接近してきた。
僕の名は、周防楓。
女子校とは反対側にある男子校に通う、ごく普通の男子だ。
恋人、はじめました。
桜庭かなめ
恋愛
紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。
明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。
ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。
「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」
「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」
明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。
一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!
※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)
※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想などお待ちしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる